2020年11月 3日 (火)

何でもおいしい季節【研究室から】

寒さを意識するこの頃、まずお茶がおいしくなりました。

(抹茶ならば上々、もちろん煎茶でも玄米茶でも結構)

お茶がおいしくなれば、なんといっても和菓子です。

季節にふさわしいものはいくらもありますが、今回は栗蒸し羊羹。

ついでに申せば、文学史上酒飲みが目立ちますけれど、甘党も結構多いのです。

尾崎紅葉・夏目漱石・泉鏡花・芥川龍之介、室生犀星もお菓子好きでした。

(鏡花宅では、奥さまの淹れるほうじ茶も名物)

さて漱石先生のお説に従い、羊羹を青磁の器と組み合わせます。Photo高麗の蓮弁陽刻白泥文皿、5客の揃いが自慢です。

(漱石の意見がどこに出てくるかは、お探しください)

そして濃いお茶を一杯、皆様はどのような器を使われますか。

いずれ、茶器の話題も取り上げます。

一休みしたら、調べ物の続きをしなければ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年10月19日 (月)

夜長の贅沢【研究室から】

言うまでもなく、読書の贅沢です。

先日、『論語義疏』が大きな話題となりました。

それには遠くおよびませんが、明代の版本を取り出し、読んでおります。

『論語正義』です。

好ましい書物としてよく知られた、毛氏汲古閣本。

(論語正義と汲古閣については、お調べください)

秋の夜長、ほんの少し贅沢。

Photo

朱の合点がかけられているところは、

「子ののたまはく、疏食を飯(くら)ひ水を飲み、肱を曲げて之を枕とす

 楽しみ亦その中にあり」と読みます。

注には「疏食、菜食」。野菜ばかりの食事は貧しい、と言う解釈です。

(菜食主義者が怒りそうな)

それはそれとして、どうせ読むのであれば、なるべく贅沢な本!

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年10月 4日 (日)

これも文房具【研究室から】

秋の夜長、読書三昧のここと存じます。

気分転換に、好みの万年筆をとりとめもなく走らせたり・・・

文房四宝で優雅に手習い、はもちろん理想的です。

その前に明窓浄机の書斎がほしいなどは、まあ絶望的な話。

ともあれ、机辺に趣味のよい文房具があるのは、ちょっとした贅沢でしょう。

そこで、変わった一品をご紹介します。

Photo今回、書物は脇役です。

学生の頃から、手巻きの懐中時計を愛用しておりました。

鎖との取り合わせを考えるのも、楽しみのひとつです。

それはそれとして、ボタン穴に止める横棒(Tバーと言います)が面白い。

シャープペンシルを仕込んでいます。Photo_2 繰り出し機構もちゃんと働きます。

何を書いたのでしょう。たとえば・・・

思いがけなく再会した昔の思い人に、走り書きをして手渡す。

もうこれは小説ですね。

ついでに申しますと、時計も本もほぼ100年程前に作られました。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年9月20日 (日)

食い意地【研究室から】

少し涼しくなりました。食べ物のおいしい季節です。

正岡子規『仰臥漫録』は、近代の日記中最もおもしろいものの一つ。

生きているのが奇跡、と言うほどの病床で

日記をつけ、絵を描き、歌を詠み、句を吟じました。

ほとんど唯一の楽しみは、食べること。

ココアやビスケットなど、しゃれたものも口にしています。

『漫録』に一番多く出てくるのは、菓子パンでしょう。

印象に残るのは、家族といさかいをしてまで食べたがった団子。

「あん付三本焼一本を食ふ」(明治34年9月4日)

そこで、餡団子を御深井の角皿にのせました。Photo時には「夕暮前やや苦し、喰過のためか」とか

「やけ糞になって羊羹菓子パン塩せんべいなどくひ渋茶を吞む、あと苦し」。

その病苦を思うと、壮烈な食い意地ではありませんか。

昨日9月19日は、子規の命日でした。

ちなみに御深井は「おふけ」と読んでください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年9月 4日 (金)

秋の花【研究室から】

秋の野に、花の錦。

とは言え、女郎花も桔梗も萩も、管理されたものばかり。

自然のまま咲く花を見かけなくなりました。

さて、大型台風が近づいています。

源氏物語でも、野分が吹き荒れました。

「おとど(御殿)の瓦さへ残るまじく吹きちらす」ほどの強風です。

光源氏の六条院に瓦葺きの建物があったか、寝殿造りの棟瓦か、でしょう。

Photo_2几帳のかげには秋好中宮、庭に薄・桔梗・女郎花などが揺れています。

左側の絵と右の本文との間に「ク二」と見えるのは、何でしょうか。

すぐにわかった方は、偉い!

(野分の巻が何帖目に当たるか数え、そして一ひねり・・・)

これから、本格的な読書の季節。

たくさん読むことは、知的な資産形成です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年8月20日 (木)

かの白く咲けるを【研究室から】

暑い毎日、大学では授業が行われています。

(学科および科目によって差あり)

COVID-19も炎熱も、早くおさまってほしいところです。

「かう暑くては猫と雖も遣り切れない」とは、ご存じ漱石先生の弁。

せめて、黄昏時の涼しげな風景をお目にかけましょう。

Photo牛が2頭、車を引かせられて暑苦しそうじゃないか、と仰ってはいけません。

刀の柄に用いられる目貫で、どちらも3センチほどの大きさ。

艶のある赤銅に金銀の象眼が冴えています。

(この場合の赤銅は、金と銅の合金)

右側の1頭を拡大すると・・・Photo_2白い花は夕顔でしょう。

キュウリやスイカと同じような形の花です。

牛車の御簾は5ミリほどの間に15本刻まれています。

目立たないところにやたらと力をいれる心意気!

六条わたりのしのび歩きに、夕顔の咲く家がありました。

光源氏はその前で車を止め、花の名を随身に尋ねます。

「かの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍る」

以下、あわれ深い話へと発展、どうぞご自分でお読みください。

人物を登場させず、持ち物や風景だけで暗示する「留守模様」。

刀装具には、源氏物語や六歌仙など意外にみやびな題材が使われます。

調べてみてはいかが(文化財学科のレポートとしても)。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年8月 2日 (日)

八朔【研究室から】

柑橘類の話、ではありません。

8月1日に贈り物をする年中行事です。

中世以来のゆかしい習慣でしたが、絶えてひさしくなりました。

また、8月1日は室生犀星の生まれた日。

昨年が生誕130年であったか、と思います。

そこで季節の和菓子に、ゆかり深いあんず。

染め付けの小皿を、古伊万里ではないと見抜かれた方は、玄人はだし。Photoくらわんか皿風の形に、白泥を勢いよく走らせています。

波佐見焼の使いやすい器です。

(ちなみに、黒板伸夫先生のご先祖は波佐見皿山奉行でした)

犀星は平安時代文学に取材した小説を数多く創作しています。

「王朝もの」と呼ばれ、文庫本もありますので、是非ご一読を。

なお、和菓子は「あんず餅」と名付けられています。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年7月14日 (火)

巴里の街角に【研究室から】

今日は,仏蘭西革命記念日です。

ぐっとくだけてパリ祭とも言います。

昔、日本でも小説家や詩人、画家といった人達が酒宴を開いたそうです。

(もうそんなことはないでしょうね)

仏蘭西革命に関する小説はたくさんあります。

1つ2つ読んでみてください。

さて、活字印刷によって書物が身近なものとなりました。

世界の歴史を大きく変えた、グーテンベルクの偉業です。

その銅像が、巴里にありました。

Photo_2グーテンベルクはもちろん独逸人、

でも手に持っている書物には、仏蘭西語が彫られています。

150年ほど前の本から採りました。

(精緻な絵柄ですが、木版画!)

現在も、巴里の街角に立っているでしょうか。

さあ、たくさん本を読んでみましょう。

本を買って読むことが学問だ、とは、碩学渡辺一夫先生のご意見です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年7月 2日 (木)

野の仏、沢の花【研究室から】

折角の梅雨の晴れ間、と言うことを口実に机を離れて散策へ。

夏の日差しに一段と緑が濃くなり、少し歩けば汗ばむほどです。

自粛解除によって人出が増すと、いつのまにか狸は姿を消しました。

静かな森陰に、みほとけがおわします。

Photo 伊勢海老に似ている、などとおっしゃってはいけません。

青面金剛でしょう。

下段に、見ざる・言わざる・聞かざるの三猿が控えています。

もう少し行くと、沢辺に出ました。

蓮の葉の下に、つぼみがふっくらと色づいています。

Photo_2 香り高い花を開くのも間近です。

机に戻って、読みかけた本の続きを。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年6月21日 (日)

一声に【研究室から】

今日は夏至。昼が最も長く、したがって夜は最も短くなります。

ホトトギスがその短夜を鳴き渡る頃となりました。

時鳥・不如帰・子規など、いろいろな書き方があります。

漢字表記を纏めた本が作られるほどに。

鳴き声の聞きなし(オノマトペ)も多彩、お調べください。

勅撰集にあっても、夏の部の大切な景物です。

Photo 6行目、紀貫之の歌は読めますでしょうか。

「夏の夜のふすかとすれば郭公鳴く一こゑにあくるしのゝめ」

伝嵯峨本古今集をお目に掛けております。

江戸時代、一番早く出版された古今集です。

本阿弥光悦風の版下を味わってください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室