2023年11月 6日 (月)

追慕【研究室から】

晩秋のこの頃、いろいろな方のお世話になってきた、としみじみ思います。

ご命日が近い秋山虔先生も、そのお一人。

出来の良くない弟子を、寛容に見ていてくださった。

先生のご配慮で、研究者の道を歩むことが出来たのです。

90歳になられるまで、幾度も鶴見へ足を運ばれました。

展示や講演会へ来てくださると、お菓子をお出しします。

たいてい最中か甘納豆を選んでいました。

(結局のところ、担当者の好みを押しつけてしまったのかもしれません)

今日は、古伊万里に甘納豆の組み合わせです。Photo甘納豆は珍しくありませんが、古伊万里段重は稀品。

1段1段の胴が丸みを帯びていて、とてもやさしい表情です。

これからお茶を淹れて、先生を偲びます。

「仰げば尊し、わが師(和菓子)の恩」です。

駄洒落なんぞ不謹慎とおっしゃっては、いけません。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年10月22日 (日)

歩いてみると【研究室から】

読書に思索に、好適な季節です。

勿論、散策にもふさわしい日よりですので、それを口実に机辺を離脱。

雑木林を抜け湿地へ出てみると、可憐な花を見つけました。

野生植物に詳しくないので、名前は分かりません。

(久保田淳先生は、この方面にもお詳しい方です)

一応、お目にかけます。Photoふと思い出したのは、『草の花』。

ご存じ福永武彦氏の小説です。

文学賞受賞の長編よりも、この『草の花』や『独身者』などが面白いでしょう。

『加田伶太郎全集』と言う洒落た本もあります。

1冊本ですが、なんと月報付き!

『枕頭の書』以下の随筆集もお薦めです。

師渡辺一夫譲りの軽みがあり、装丁もおもしろい。

読書の秋にどうぞ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年10月 9日 (月)

みのりの秋

柿が収穫の時を迎えています。

稲刈りの季節も間近。

源氏物語でも、秋の田園風景が印象的に書き込まれています。

夕霧の巻と手習の巻です。

明暦版の源氏小鏡から、小野の稲刈りをご紹介。

尼となった浮舟の女君は、山里の収穫作業を眺めています。

(尼と言っても、髪を少し削いだだけ)Photo「秋になりゆけば、空の景色もあはれなるを、門田の稲刈るとて」

歌をうたいながらの農作業です。

わかりにくいので、大きくしてみましょう。Photo_2さて、友人にふるさとのことを聞きました。

耕作放棄地が目に見えて増えているそうです。

(無償でも借り手がない)

田園まさに荒れなんとす、どころか、もう荒廃がずいぶん進んでいるらしい。

里山はさらにひどい状況とか。

(他人事ではありません、都会の飲み水や防災に深く関わります)

食糧自給率を云々されるみなさん、言葉だけならば簡単なこと。

一度田舎の現場へ行かれてはいかが。

なぜ農業が衰退するのか、ご自身の眼でお確かめください。

お百姓生まれの担当者は、収穫の秋を素直によろこべません。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年9月24日 (日)

彼岸のころ【研究室から】

研究室から本山参道へ下りて、少し涼しくなった境内へ。

この時期、墓参や諸堂拝観の方々が多く来られるのに出会います。

余計なことを申せば、仏教発祥の地インドに彼岸法要はありません。

ゆかりの人々を偲ぶ、日本の伝統行事です。

(中国の彼岸については、まったく知識なし)

ただし平安時代では、転居や縁結び、通過儀礼に適した吉日でもありました。

源氏物語では、秋の彼岸に新造の六条院へ引っ越ししています。

それはそれといたしまして、彼岸と言えばおはぎ。

波佐見の古い染付に載せて、見参見参。Photo台は李朝の漆器です。

なじみの和菓子屋さんでは、白胡麻のおはぎを出しています。

ちょいと珍しいでしょう。

担当者のふるさとでは、稲の取り入れが終わった後、おはぎを作って祝います。

「秋あげ」と言っておりました。

しかしそのふるさとは、少しずつ荒廃が進んでいます。

穀物輸出大国が食料輸入に転じ、人口爆発が起こった時、

一体私たちはどうすればよいのでしょうか。

と、至極真面目な話となったところで、今回はこれまで。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年8月29日 (火)

秋草【研究室から】

研究棟からご本山の境内へ下りてみます。

日差しはまだ強いものの、木陰に入るとさすがに秋の気配。

萩の花が咲き始めていました。

しなやかな枝が風になびく風情は、捨てがたいもの。

ただし、撮影が難しい花です。Photo万葉人が好み、雅号に萩を取り入れた学者や文学者もおりました。

芳宜園(加藤千蔭)・芽垣内(奥田常雄)・萩之家(落合直文)など。

樋口一葉は中島歌子の萩之舎に学んでいます。

この花を詠んだ歌や俳句は山ほどありますので、お好みの作を探してはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月31日 (月)

花盛り【研究室から】

「夏ごろ、はちすの花のさかりに」とは、源氏物語鈴虫巻の書き出しです。

蓮は、実が入った花托の形が蜂の巣ににているところから名付けられました。

蓮の実は、勿論食べられます。美味かつ薬効も期待できるとか。

源氏物語では、小野の山里を訪れた客に蓮の実が出されました。

今の時期は、蕾と花托との両方が見られます。Photo蓮は仏教と縁の深い植物です。

しかし中国では、釈尊以前から花を愛で、根や実の利用が盛んです。

また艶やかな花の姿から、美女を連想することがありました。

蓮の音が「憐」と同じなので、異性への情感も重なります。

(「憐」には可愛く思う、の意味があります)Photo_2近くの蓮田まで足をのばすと、このような風景に出会います。

猛暑の候、十二分のご自愛を。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月14日 (金)

ごあんない【研究室から】

来週土曜日(22日)は、日本文学会60周年記念大会が開催されます。

研究発表1本と講演2本の豪華な催しです。

伊倉史人教授、渡部泰明国文学研究資料館館長、そして久保田淳先生がご登場。

久保田先生のお話は、なかなかうかがえる機会がありません。

皆様、お誘い合わせて是非どうぞ。入場無料・予約不要です。

鶴見大学記念館記念ホール、13時より開催。

さて、暑い季節に涼しげな和菓子はいかがでしょう。

霙羹に緑色の餡を包み、瓢箪の形でまとめています。

(撮影が下手なところ、すみません)Photoお気づきでもありましょうが、器を紹介したくてこの記事としました。

幕末明治の瀬戸です。高坏の器型は中国南方の窯でも時折見かけます。

染付も、洒落た意匠を引き立てるアクセント。

しかし時代や産地はどのようにして特定出来るのでしょうか。

いずれそんなお話もいたします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月 5日 (水)

まなぶ【研究室から】

暑さのしのぎにくい毎日です。

夜になって涼しい風が吹く折は、ほっとします。

木々や竹を吹き過ぎる風は、雨の音のようにも聞こえます。

古人はこれを漢詩や和歌に表現しました。

Photo2行目「風吹枯木晴天雨」がその例。

3行目と4行目は涼しげな光景が詠まれます。

(和漢朗詠集ですので、お調べください)

さて、眼力に自信のある方に質問。

この本をいつごろの書写とお考えでしょうか。

書風だけから判断すれば、平安末期と言うところでしょう。

でも実物を見ると、紙質・装丁は江戸時代。

となれば、相当の古写本を巧妙に模写したもの、と推定出来ます。

古い筆跡を「まなぶ」結果、生まれた書物ですね。

「まなぶ」の基本は「まねぶ」(真似る)こと。

種明かしをしますと、模写の原本は逸翁美術館(大阪池田市)にあります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月23日 (金)

豪華記念大会【研究室から】

60周年を迎える日本文学科の、記念春季大会です。

来聴大歓迎、どなたでもどうぞ。Photo 令和5年7月22日(土)

鶴見大学記念館地下2・3階 記念ホール

総会 12:30~12:50

研究発表 13:00~14:20

堯恵の『百人一首』註釈 伊倉史人(鶴見大学文学部教授)

講演 14:30~17:30

源実朝の和歌      渡部泰明(国文学研究資料館館長)

一首の和歌から これまで学んだこと、今思うこと

            久保田 淳(東京大学名誉教授)Photo_2図書館エントランスホールでは、和歌や源氏物語に関する展示を行います。

こちらへもお出かけください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月 9日 (金)

水無月【研究室から】

梅雨空の毎日です。

旧暦6月は、暑い盛り。

「水無月の土さへ裂けて照る日」(万葉集)や

「水無月の照りはたたく」(竹取物語)がよく知られた例です。

芥川龍之介には「またたちかへる水無月の」から始まる今様があります。

(続きはお調べください)

しかし本題は、食べ物。水無月です。

もともと関西のお菓子でしたが、近年こちらでも見かけるようになりました。Photo古染付の皿に載せて、見参見参。

お店によって多少差がありますけれど、あっさりとしておいしい。

関西には「あこや」と言う和菓子もありますが、

これはなかなか関東に広まりません。

見かけた方は、お知らせください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室