2025年3月31日 (月)

春雨【研究室から】

桜が盛りです。

今日はあいにくの小雨、それでも研究室から本山境内へ出てみました。

勅使門は花に包まれて豪奢。

では、御覧ください。Photo「春雨のふるはなみだか桜花散るををしまぬ人しなければ」

と言うところでしょうか。

境内からどこへ回ったか、と申しますと、勿論なじみの和菓子屋。

最近は、道明寺粉を使った関西風の桜餅がこちらでも多く見かけるように。

担当者は、製法上機械化しやすいからではないかと勘ぐっています。

清朝南方の染付皿と取り合わせて、関東風の桜餅をどうぞ。Photo_2香り高い季節の味は、平安時代の歌人たちが知らなかったものです。

さて、担当者は当ページを300回以上更新しました。

これを一区切りとして交代します。

桜を見て、若かった日を思うことしきり。

「花のごと世の常ならばすぐしてし昔はまたもかへりきなまし」

では、お元気で。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2025年3月22日 (土)

源氏の弥生【研究室から】

今日(土曜)は、汗ばむほどの陽気。

花粉症の悩ましい日でもありました。

平安時代の春に、鼻水を垂らしたり目をこすったりした人はいたのでしょうか。

それはともかく、源氏物語には3月の話が結構書かれています。

光源氏の北山行き(若紫)・右大臣邸の藤(花宴)・須磨への旅立ち(須磨)

海の暴風雨(須磨)・桐壺院の夢(明石)・明石の姫君誕生(澪標)など。

しかし、宇治十帖では弥生の記事が少ないようです。

それはそれとして、冷泉帝の御前で行われた絵合も3月でした。

奈良絵本の源氏物語を御覧下さい。Photo絵合終了後「二十日あまりの月さしいでて」とあり、ちょうど今頃です。

これからカタクリ・桜・躑躅・藤と続きます。

楽しみの多い季節となりました。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2025年3月 1日 (土)

薄紅梅【研究室から】

弥生となりました。

梅はやや盛りを過ぎたようです。

それでも、馥郁たる薫りが私たちを楽しませてくれます。

では、織部と取り合わせてお目にかけます。Photo鉄絵は沢瀉でしょうか。徳利を花生けとして使ってみました。

(この織部は、それほど古くなさそうです)

さて、泉鏡花に『薄紅梅』と言う小説があります。

鏡花の文章を読みづらいと思われる方もあるでしょう。

なじんでしまえば、とても魅力的に感じられるのでは。

なお、古典和歌研究の泰斗久保田淳博士は、近代文学にも造詣の深い先生です。

中でも、鏡花は大のお好み。

大先生にあやかるつもりで、是非お読みください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2025年2月13日 (木)

初音を待つ【研究室から】

風の強い日でした。

花粉の飛散も大変な量でしょう。

梅は咲き始めましたが、初音はまだ。

「春やとき花やおそきと聞きわかむ鶯だにも鳴かずもあるかな」

出典はお調べください。

例の趣向にて、梅と鶯をお目にかけます。

Photo古伊万里色絵の小皿と、鶯餅です。

紅梅の絵柄ですので、梅に鶯。

鶯餅発祥の地は、大和郡山とか。

小ぶりの鶯餅だそうです。

昔、大和郡山の柳沢文庫へ出かけたことがあります。

文庫はお城の中にあって、とても落ち着いた雰囲気でした。

こんな文庫で本の管理をしつつ送る生涯も悪くない、と思いました。

(今なお俗事に終われる日々、いけません)

では、暖かくしてお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2025年1月28日 (火)

時代を超える美しさ【研究室から】

梅が薫り始めました。

今年は、田中親美翁の生誕150年に当たります。

田中翁は100歳の天寿を全うされましたので、没50年でもあります。

渋谷の一等地に居を構えて、生涯無職!

佐佐木信綱博士が本郷の高台に住んで生涯定職なし、と好一対です。

書も絵も練達、古美術の鑑定にかけては最上級、さらに料紙装飾の見事さ。

数々の名品を複製され、その成果は現在も色あせておりません。

では、芸術院恩賜賞の技を御覧ください。Photo西本願寺本三十六人集複製にあたっての試作品です。

益田鈍翁・原三渓・安田善次郎など錚々たる財界人がこぞって応援しました。

高雅な芸術と優れた人柄に全幅の信頼を寄せたからです。

もう1つお目にかけます。Photo_2ほぼ1世紀を経て、色あせない美しさ。

一般の皆様は西洋の画家の名前を口にされても、田中翁はご存じない。

残念なことです。

(担当者は国粋主義者ではありません、念の為)

現在、ご本山付置の宝蔵館で田中親美翁の料紙が少々見られます。

本学の方々は無料です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2025年1月15日 (水)

冬の月【研究室から】

新年のご挨拶が遅れました。

今後ともご贔屓に。

さて、昨晩は旧暦の12月15日でした。

冴え冴えとした月が夜空高くかかっているのは、冬の見物です。

冬の月については、源氏物語朝顔巻に有名なくだりがあります。

「人の心をうつすめる花紅葉よりも、

 冬の夜の澄める月に雪の光あひたる空こそ、

 あやしう色なきものの身にしみて」

古い注釈によれば、枕草子に「すさましきもの、しはすの月夜」とあったとか。

現在、枕草子のどの本にも、この表現が見当たりません。

二中歴には「冷物 十二月月夜」と出ていて、これが該当しそうです。

ともあれ、朝顔巻の文章を絵画化したのが、こちら。Photo源氏小鏡の明暦版から採りました。

(この絵、慶安跋の絵入源氏物語とよく似ています)

では、暖かくしてお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月30日 (月)

年の瀬の食い意地【研究室から】

いよいよ今年も大詰め。

皆様にとって良い一年であったことと存じます。

さて、寒くなるとお茶がおいしく、したがってお菓子も欠かせないこの頃。

大福は、新しい餅米の出回る時期が旬なのです。

(今は年中作っていますし、果物を入れた大福もありますが、苦手)

皮の餅も加減が結構難しく、柔らかくきめの細かい仕上げが好まれるようです。

しかし適度な食感と餅本来の素朴な味わいを残すのが良いと思います。

講釈はともかく、まあ御覧ください。Photoなかなかの迫力で、食べ応え十分でした。

ちなみに茶碗は古伊万里、皿は江戸時代前期の黄瀬戸です。

(気取らない大福に合わせ、焙じ茶を淹れました)

では皆様、来年もご贔屓に。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月15日 (日)

冬空に薫る【研究室から】

さすがに師走、寒くなりました。

12月は花に乏しいものの、しかしロウバイの季節です。

慌ただしく仕事に追われているからと言って、狼狽ではありません。

蝋梅です。

南京梅とか唐梅とか呼ばれることもあり、日本では江戸時代の初めにお目見え。

後水尾天皇(1596~1680)の頃、朝鮮半島経由でやってきたとか。

ですから、平安の歌人も室町五山の詩僧も知らなかった風雅です。

夕暮れ時、散策の途中で見かけました。

Photo柔らかく甘い香りが冬空に広がります。

とは言え、強い匂いのあふれる時代ですので、気付かれないかもしれません。

花に限らず、食べ物もむやみに刺激的な味や香りが流行しているようです。

あっさり淡泊、飽きのこないものの方が良いと思います。

しかしこれは少数意見でしょうね。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月 1日 (日)

黄葉【研究室から】

紅葉の間違いでは、と仰ってはいけません。

万葉集の表記では、黄葉です。

平安時代になると、紅葉の文字遣いが広まります。

その理由については、和歌の先生にお聞きください。

それはそれとして、研究室から出てみました。

(文字通り「研究室から」です)

こんな風景でした。

2まだ枝には緑色が残っています。

日当たりのせいでしょうか、研究棟あたり気温が特に低いとも思えません。

本山の境内へ下りてみると、眺望は一変。

鮮やかな黄金の滝、と言うところでしょうか。1樹冠の輝きは格別でした。

さて今日から師走。

日が落ちると、さすがに寒い。

皆様、お元気でお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年11月 7日 (木)

柑橘類の季節【研究室から】

さすがに晩秋、雑木林も色づいてきました。

これから柑橘類の季節です。

蜜柑・文旦・酢橘・カボスなど、いろいろおいしく使えます。

中でも汎用性の高いのは、柚子でしょう。

先日、秋田の琥珀羹をもらいました。

琥珀羹は表面を乾燥させて固くしたものもあります。

(琥珀糖と呼ばれたりします)

果汁を加えたり、華やかな色づけをしたり、小豆を入れたり、多種多様。

いただいたのは、へぎ柚子が封じ込めてありました。

根来(ねごろ)の椿皿に載せてお目にかけます。Photo_6派手な色づけをしておりませんので、すっきりと端正。

品の良い仕上がりです。

(くどい色づかいのお菓子は嫌ですね)

外側と内側の食感の差がうれしい食べ物です。

ほんのり柚子の香りを楽しみました。

これには抹茶より焙じ茶か玄米茶が似合いそうです。

なお椿皿は室町時代の作、和菓子とよく調和します。

少し先の話ですが、冬至には柚子湯をどうぞ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室