2020年8月 2日 (日)

八朔【研究室から】

柑橘類の話、ではありません。

8月1日に贈り物をする年中行事です。

中世以来のゆかしい習慣でしたが、絶えてひさしくなりました。

また、8月1日は室生犀星の生まれた日。

昨年が生誕130年であったか、と思います。

そこで季節の和菓子に、ゆかり深いあんず。

染め付けの小皿を、古伊万里ではないと見抜かれた方は、玄人はだし。Photoくらわんか皿風の形に、白泥を勢いよく走らせています。

波佐見焼の使いやすい器です。

(ちなみに、黒板伸夫先生のご先祖は波佐見皿山奉行でした)

犀星は平安時代文学に取材した小説を数多く創作しています。

「王朝もの」と呼ばれ、文庫本もありますので、是非ご一読を。

なお、和菓子は「あんず餅」と名付けられています。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年7月14日 (火)

巴里の街角に【研究室から】

今日は,仏蘭西革命記念日です。

ぐっとくだけてパリ祭とも言います。

昔、日本でも小説家や詩人、画家といった人達が酒宴を開いたそうです。

(もうそんなことはないでしょうね)

仏蘭西革命に関する小説はたくさんあります。

1つ2つ読んでみてください。

さて、活字印刷によって書物が身近なものとなりました。

世界の歴史を大きく変えた、グーテンベルクの偉業です。

その銅像が、巴里にありました。

Photo_2グーテンベルクはもちろん独逸人、

でも手に持っている書物には、仏蘭西語が彫られています。

150年ほど前の本から採りました。

(精緻な絵柄ですが、木版画!)

現在も、巴里の街角に立っているでしょうか。

さあ、たくさん本を読んでみましょう。

本を買って読むことが学問だ、とは、碩学渡辺一夫先生のご意見です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年7月 2日 (木)

野の仏、沢の花【研究室から】

折角の梅雨の晴れ間、と言うことを口実に机を離れて散策へ。

夏の日差しに一段と緑が濃くなり、少し歩けば汗ばむほどです。

自粛解除によって人出が増すと、いつのまにか狸は姿を消しました。

静かな森陰に、みほとけがおわします。

Photo 伊勢海老に似ている、などとおっしゃってはいけません。

青面金剛でしょう。

下段に、見ざる・言わざる・聞かざるの三猿が控えています。

もう少し行くと、沢辺に出ました。

蓮の葉の下に、つぼみがふっくらと色づいています。

Photo_2 香り高い花を開くのも間近です。

机に戻って、読みかけた本の続きを。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年6月21日 (日)

一声に【研究室から】

今日は夏至。昼が最も長く、したがって夜は最も短くなります。

ホトトギスがその短夜を鳴き渡る頃となりました。

時鳥・不如帰・子規など、いろいろな書き方があります。

漢字表記を纏めた本が作られるほどに。

鳴き声の聞きなし(オノマトペ)も多彩、お調べください。

勅撰集にあっても、夏の部の大切な景物です。

Photo 6行目、紀貫之の歌は読めますでしょうか。

「夏の夜のふすかとすれば郭公鳴く一こゑにあくるしのゝめ」

伝嵯峨本古今集をお目に掛けております。

江戸時代、一番早く出版された古今集です。

本阿弥光悦風の版下を味わってください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年6月 6日 (土)

水無月【研究室から】

少しずつ、平常の大学に戻っています。

研究棟のあたりに紫陽花が咲き始めると、6月の到来を実感。

「またたちかへる水無月の

 なげきをたれに語るべき

 沙羅のみづ枝にはなさけば

 かなしき人のめぞみゆる」

ご存じ、芥川龍之介の今様です。

近代今様の名手は、佐藤春夫と芥川でしょうか。

今様は、とても優れた定型詩です。

現在、これに手を染める人がほとんどおられないのは、不思議なこと。

と言いつつ、今回の狙いは全く別のところにあります。

敵は本能寺、和菓子の「水無月」です。

(本能寺の変も6月でした)

Photo ういろう生地に小豆の蜜煮を載せたもの。

関西の食べ物ですが、近年こちらでも見かけるようになりました。

気取らずあっさり、この時期一押しの菓子です。

器は、1600年前後の景徳鎮染付です。

(本当の狙いは、この皿を自慢すること)

馴染みの和菓子屋と素敵な器があれば、たいてい気分よく過ごせます。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年5月21日 (木)

初夏【研究室から】

はやりやまいも、少し落ち着いてきたようです。

それでもしばらくはお目にかかれません。

人と人とが直接向き合う教育こそ、勿論本来の姿です。

問題の掘り下げも知識の定着も、離れていたのでは不十分でしょう。

しかし当分、manabaやポータルサイトを活用してください。

さて、日一日と緑が濃くなり、気分のよい梅雨前です。

季節の花を高麗青磁に挿してみました。

Photo 立ち菊を白黒象嵌した青磁の壺と、野いばらです。

壺は13世紀でしょう。

おもねらず誇らず、と言った花の風情にひかれます。

いばらは万葉の時代から歌に詠まれた植物です。

「ここかしこ岸根のいばら花さきて夏になりぬる川ぞひの道」(木下幸文)

これは近世のさらりとした歌柄、近代短歌と比べて遜色なし、でしょう。

いかが思われますか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年5月 7日 (木)

紫の雲【研究室から】

と申しましても、極楽往生のことではありません。

藤の花が咲いています。

高い香りに誘われた蜂の、羽音も聞こえます。

歌人達は、藤を紫の雲に喩えました。

落ち着かない世の中ですが、花はいつも通り。

120年ほど以前の絵を見てみましょう。

Photo 水野年方の作です。

「侍女 宝德頃之人」とありました。

宝德(1449~1452)頃の装いを知りません。

小袖に白綾織りの袴でしょうか。

そんな詮索はさておき、楽しめる絵だと思います。

若い女性は、花に舞う蝶を眺めているようです。

ついでに、竹柏園主人の歌を。

「むかひゐて言葉すくなしあえかなるゑまひににほふ藤波の花」

では、また。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年4月23日 (木)

迷墨【研究室から】

調査にも出かけにくく、それを口実に研究中断。

閑寂な山道を選んで、散策することもあります。

狸を見かけました。

人の動きが少ないせいでしょう。

机に戻り、文房具など玩弄しています。

大ぶりの墨を取り出しました。

Photo 直径12㎝ほど、側面に「天啓元年程君房製」とあります。

百爵図の銘も鮮やかな、贋作。

狸ならぬ迷墨に化かされてはいけません。

(本物なら数百万、でしょうか)

真っ赤な、いえ、真っ黒な偽物です。

しかし普段使いには十分ですし、作られてから30年以上経過しています。

素性を心得た上で楽しめば、なかなかのもの。

家に籠もることの多いこの頃、お好みの文房具を並べてみてはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年4月12日 (日)

卯月ばかりに【研究室から】

落ち着かぬ毎日です。

気長にはやりやまいの収束を待ちましょう。

さて、数多くある源氏物語の4月から、蓬生を取り上げます。

赤鼻の姫君がこれほど魅力的に描かれた巻はありません。

荒れ果てた常陸宮邸に光源氏を待ち続ける姫君のほか、

主人思いの侍従、頼りがいのない兄禅師、悪役の叔母、露払い惟光など、

多彩な脇役が登場し、結構波瀾に富んでいます。

肝腎の光源氏は、姫君のことなどすっかり忘れていました。

卯月ばかりの夕月夜、偶然常陸宮邸を通りかかります。

「大きなる松に藤のさきかかりて、風につきてさと匂ふがなつかしく」

Photo 明暦版源氏小鏡より採りました。

小鏡に絵の入った最初の版です。

絵が本文と一緒の面にある形式は、珍しい。

ともあれ外出を控えるわけですから、まず読書。

この閑日月に沢山読めれば、災い転じて福となす、でしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年3月29日 (日)

残りの雪【研究室から】

時ならぬ雪模様。

かつてこれを「残りの雪(残雪)」と言いました。

降った雪が消え残っている、のではありません。

冬の雪が天上に残っていて、春になってから降る現象です。

160年前の3月3日も大雪でした。

(桜田門を思い出された方は、なかなか優秀)

今日は旧暦3月6日ですので、ほぼ同時期です。

雪踏み分けて桜探訪。

Photo 花はいかにも寒そうでした。

「桜ちる木の下風はさむからで空にしられぬ雪ぞちりける」

(誰の歌でしょう)

散る花を雪に見立てるのは常套ですが、本物の雪と桜は珍しい。

ついでに申せば「空にしられぬ雪」の解はちょっと厄介です。

空にはみたことのない雪が、と考える方が多いようです。

「しられぬ」を受け身と見るのはどうでしょう。

用例から帰納すると、こちらに分がありそう。

やっかいな病気蔓延を避けるべく、家にいらっしゃるみなさん、

やまとうたをじっくり読まれてはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室