2024年10月 8日 (火)

やはり、秋は【研究室から】

読書も勿論ですが、食べ物のおいしい季節です。

来週水曜、旧暦の9月13日は栗名月・豆名月。

仲秋の名月を眺められた方は、こちらも是非どうぞ。

旧暦8月の月見だけですと、片見月または片月見と言います。

話は戻って、栗か豆を出してみようと思いましたが、

おいしそうな薯蕷饅頭をみつけましたので、方針転換。

黄瀬戸の小皿と取り合わせています。Photo_2単純な素材と形ですので、ごまかしがきかない。

お店の技倆がよくわかります。

さて、担当者のふるさとは美濃の田舎です。

隣の町に老舗の和菓子屋さんがありました(現在も多分健在)。

そこの薯蕷饅頭は、形がふっくら愛らしく、味もなかなか。

都会の人気店に負けない佳品です。

黄瀬戸は江戸の早い頃、お茶でもいれましょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年9月17日 (火)

月を見る心【研究室から】

中秋の名月が冴えています。

「月見ればちぢにものこそかなしけれ」は百人一首でおなじみの歌。

月をみると、どなたも「ちぢに」思われるのではないでしょうか。

もちろん「かなし」ばかりではなく、楽しいことも懐かしいことも。

さて、いつもの食い意地です。

なじみの和菓子屋へ出かけましたら、月見の菓子がいろいろ。

桃山生地の焼き菓子を求めましたので、御覧にいれます。Photo器は高麗末李朝初期の堆花文青磁小皿です。

(やや地味ですが、なかなかの稀品)

お茶を一服、秋風に吹かれ月を眺めて

「恋しさは同じ心にあらずともこよひの月を君見ざらめや」

などと言ってみたくなりませんか。

「水のおもに照る月なみをかぞふればこよひぞ秋のもなかなりける」

拾遺集の歌を引用してみて「ああ、最中にすれば」と気付いた次第。

ちなみに皿の上のお菓子は「満月焼」の名前が付いていました。

少々野暮だと思います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年9月 3日 (火)

野分のあと【研究室から】

台風の影響も一段落、日暮れ時の虫の音が高くなってきました。

雨や風に悩まされた8月でしたが、皆様おかわりありませんか。

研究棟まわりの銀杏の大木が、地面に青い実を散らしていました。

古典文学では、『源氏物語』野分の巻が8月の暴風を描いて有名です。

そして「風は」と「野分のまたの日こそ」も、負けず劣らずの秀逸さ。

ご存じ『枕草子』から、江戸時代の版本でどうぞ。Photo右面最終行、朱の合点が掛けられているところは

「八九月ばかりに雨にまじりてひきたる風、いとあはれ也」

左面9行目から「のわきのまたの日こそいみじうあはれにおぼゆれ」

以下はご自分でお読みください。

平安時代の野分は文学作品にほとんど取り上げられないと言えるでしょう。

鎌倉時代以降、野分に詩を感ずる人が増えてきました。

雨や風に面白さを見いだす清少納言は、なかなかに冴えていると思います。

なお上の図は『清少納言旁註』より取りました。

これから読書の秋です。

たくさんお読みください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年8月 4日 (日)

暑中お見舞い【研究室から】

皆様、お変わりなきことと存じます。

今日、蓮を見に出かけました。

「夏ころ、はちすの花のさかりに」はご存じ源氏物語鈴虫巻の書き出しです。

「花のさかり」は少し過ぎていますが、まだ十分艶やかな蓮を楽しめます。Photo これから咲く花と、蜂の巣のような実とが向かいあっています。

何かを話しているようです。

シオカラトンボが舞い、水の音も聞こえます。

ところが、蓮の咲く田の半分ほどは埋め立ての最中でした。

盛り土して宅地造成するのでしょうか。

田の管理は大変でしょうし、いろいろ事情もありそうですが、さびしい話。

ともあれ、お元気でおすごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年7月14日 (日)

パリの音楽【研究室から】

今日は、フランス革命記念日です。

親しみやすく言えば、パリ祭。

一昔前までは、絵描きさんや音楽家達が宴を開いていました。

革命歌ラ・マルセイエーズもよく歌われたようです。

俳句の季語になっていますので、お調べ願います。

さて、パリに縁のある音楽はたくさんあります。

ハイドン、モーツアルトにはパリ交響曲。

担当者のお勧めは、ヨハン・シュトラウスの「パリのワルツ」です。

ラ・マルセイエーズの旋律がとても愛らしく使われています。

ところで、19世紀後半にはパリの街角に多くの彫刻が立てられました。

ベルリオーズの像もそのひとつです。

残念ながら、第二次大戦中壊されてしまいました。

現在の像は戦後の作品です。

では、初代ベルリオーズを御覧ください。Photo深刻そうな顔つきですね。

なお、この図はLes Statues de Parisから採りました。

精緻な銅版のように見えますが、木口木版です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年6月20日 (木)

時と所【研究室から】

和菓子の話です。

季節感は、その魅力のひとつ。

そして、土地ごとの素材や作り方も和菓子を楽しむ大切な要素です。

今月は、なんと言っても水無月。

ういろう生地に小豆を載せた、いたって単純な作りです。

形もすっきりと簡潔、暑い夏に氷の意匠で涼しさを演出します。

もともと関西のお菓子でしたが、最近はこちらでもよく見かけます。

では、波佐見の染付皿と組み合わせて見参。Photoどこでも手軽に求められるのは結構ですが、

その季節にその土地で味わう楽しみは薄れます。

昔、本所吾妻橋に羊羹と豆大福のおいしいお店がありました。

白いのれんにお店の名前が書いてあり、小さくともすっきりとした構え。

夏のこと、豆大福を買いに出かけましたが、お店には大福の影も形もなし。

ご主人に尋ねたところ、

「大福には、季節があります。秋から冬が一番おいしい」とのこと。

夏に大福なんぞとんでもない、と言う顔つきでした。

「では、夏は何を作られますか」と質問。

答えは「すだれ羊羹」でした。さっそく購入したことは勿論です。

仕入れ物ではなく自家製のすだれ羊羹を作る和菓子屋さんはあるのでしょうか。

お店をたたんでしまわれたのは、とても残念です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年6月 9日 (日)

取り合わせ【研究室から】

6号館から本山鐘楼にかけて、紫陽花がたくさん咲いています。

少し盛りを過ぎたようですけれど、まだ十分鑑賞出来るでしょう。

万葉歌人に詠まれてはいるものの、その後はあまり注目されなかった歌題です。

院政期から用例が増えてきます。

紫陽花の特徴を「よひら」(4枚の花弁)と捉えるのが、和歌の約束事。

さまざまな景物と取り合わせます。

「あぢさゐのよひらの八重に見えつるは葉ごしの月のかげにぞありける」

これは、紫陽花と月光。

「あぢさゐの下葉にすだく螢をばよひらのかずの添ふかとぞ見る」

紫陽花と螢は、なかなか幻想的で美しい。

白磁の壺と取り合わせてみますと・・・

Photo白磁と申しましても、乳白色に近い暖かな風情。

青白磁の、ちょいと取り澄ました雰囲気とはまた別の味わいです。

手前の蓋は蓮の葉をかたどっています。元か、下っても明初と言うところ。

さて、先ほどの和歌2首、作者はだれかお調べください。

紫陽花にちなむ和菓子もいくつかあります。

また、ユスラウメ・ヤマモモ・桑の実など、野趣横溢の味も楽しめる季節です。

食べ物の話は、次回。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年5月23日 (木)

ほととぎす【研究室から】

梅雨間近です。

木々の緑が日ごとに濃くなり、紫陽花も咲き始めました。

源氏物語の5月は、雨夜の品定め・螢の巻の物語談義など、多彩。

花散里の巻は「五月雨の空めづらしく晴れたる」日のことを綴っています。

では、明暦3年(1657)安田十兵衛版で御覧ください。Photo光源氏が見上げる夜空に、月と時鳥。

「二十日の月さし出づるほどに」とありますが、月はどう見ても満月に近い。

羽根を毟られた鶏のように見えるのが、ほととぎすです。

大学や本山でほととぎすを聞いたことはありません。

多摩丘陵や鎌倉の山間では、さかんに鳴いています。

同じ名前の植物もありますので、お調べください。

ついでに申しますと、ほととぎすが登場する仏典もあるのです。

(偽経とされていますけれど)

この話はいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年5月 5日 (日)

やはり今日は【研究室から】

気持ちのよい晴天。

若葉が風に揺れて、自転車を走らせるのにも好適な日でした。

自転車でどこへ出かけたかと言えば、なじみの和菓子屋です。

別の話題にしようかとも思いましたが、やはり今日は・・・

古伊万里の佳品と取り合わせて、お目にかけます。Cimg0044柏餅の色合いが冴えないところは、ご勘弁ねがいます。

逆に、染付皿が派手に写ってしまいました。

適宜補正してごらんください。

さて柏餅の古い用例を探していますが、なかなか見つからず。

椿餅や草餅、亥子餅ほどの伝統はないようです。

室町時代半ば以前の用例をご存じの方は、是非お教えください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年4月27日 (土)

新緑【研究室から】

あっという間に桜は散り、藤・躑躅の季節となりました。

キャンパスも研究棟も緑が濃くなっています。

風に揺れ、陽の光が舞う若葉は、花に劣らぬ美しさ!

「おしなべてこずゑ青葉になりぬれば

 松のみどりもわかれざりけり」

どなたの詠であるかは、お調べください。

図書館への道から、三松関を眺めてみました。2まだキャンパスをごらんになっていない皆さん、是非一度おいでください。

これから、いろいろな催しがございます。

鶴見大学文学部日本文学科研究室