2025年1月15日 (水)

冬の月【研究室から】

新年のご挨拶が遅れました。

今後ともご贔屓に。

さて、昨晩は旧暦の12月15日でした。

冴え冴えとした月が夜空高くかかっているのは、冬の見物です。

冬の月については、源氏物語朝顔巻に有名なくだりがあります。

「人の心をうつすめる花紅葉よりも、

 冬の夜の澄める月に雪の光あひたる空こそ、

 あやしう色なきものの身にしみて」

古い注釈によれば、枕草子に「すさましきもの、しはすの月夜」とあったとか。

現在、枕草子のどの本にも、この表現が見当たりません。

二中歴には「冷物 十二月月夜」と出ていて、これが該当しそうです。

ともあれ、朝顔巻の文章を絵画化したのが、こちら。Photo源氏小鏡の明暦版から採りました。

(この絵、慶安跋の絵入源氏物語とよく似ています)

では、暖かくしてお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月30日 (月)

年の瀬の食い意地【研究室から】

いよいよ今年も大詰め。

皆様にとって良い一年であったことと存じます。

さて、寒くなるとお茶がおいしく、したがってお菓子も欠かせないこの頃。

大福は、新しい餅米の出回る時期が旬なのです。

(今は年中作っていますし、果物を入れた大福もありますが、苦手)

皮の餅も加減が結構難しく、柔らかくきめの細かい仕上げが好まれるようです。

しかし適度な食感と餅本来の素朴な味わいを残すのが良いと思います。

講釈はともかく、まあ御覧ください。Photoなかなかの迫力で、食べ応え十分でした。

ちなみに茶碗は古伊万里、皿は江戸時代前期の黄瀬戸です。

(気取らない大福に合わせ、焙じ茶を淹れました)

では皆様、来年もご贔屓に。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月15日 (日)

冬空に薫る【研究室から】

さすがに師走、寒くなりました。

12月は花に乏しいものの、しかしロウバイの季節です。

慌ただしく仕事に追われているからと言って、狼狽ではありません。

蝋梅です。

南京梅とか唐梅とか呼ばれることもあり、日本では江戸時代の初めにお目見え。

後水尾天皇(1596~1680)の頃、朝鮮半島経由でやってきたとか。

ですから、平安の歌人も室町五山の詩僧も知らなかった風雅です。

夕暮れ時、散策の途中で見かけました。

Photo柔らかく甘い香りが冬空に広がります。

とは言え、強い匂いのあふれる時代ですので、気付かれないかもしれません。

花に限らず、食べ物もむやみに刺激的な味や香りが流行しているようです。

あっさり淡泊、飽きのこないものの方が良いと思います。

しかしこれは少数意見でしょうね。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年12月 1日 (日)

黄葉【研究室から】

紅葉の間違いでは、と仰ってはいけません。

万葉集の表記では、黄葉です。

平安時代になると、紅葉の文字遣いが広まります。

その理由については、和歌の先生にお聞きください。

それはそれとして、研究室から出てみました。

(文字通り「研究室から」です)

こんな風景でした。

2まだ枝には緑色が残っています。

日当たりのせいでしょうか、研究棟あたり気温が特に低いとも思えません。

本山の境内へ下りてみると、眺望は一変。

鮮やかな黄金の滝、と言うところでしょうか。1樹冠の輝きは格別でした。

さて今日から師走。

日が落ちると、さすがに寒い。

皆様、お元気でお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年11月 7日 (木)

柑橘類の季節【研究室から】

さすがに晩秋、雑木林も色づいてきました。

これから柑橘類の季節です。

蜜柑・文旦・酢橘・カボスなど、いろいろおいしく使えます。

中でも汎用性の高いのは、柚子でしょう。

先日、秋田の琥珀羹をもらいました。

琥珀羹は表面を乾燥させて固くしたものもあります。

(琥珀糖と呼ばれたりします)

果汁を加えたり、華やかな色づけをしたり、小豆を入れたり、多種多様。

いただいたのは、へぎ柚子が封じ込めてありました。

根来(ねごろ)の椿皿に載せてお目にかけます。Photo_6派手な色づけをしておりませんので、すっきりと端正。

品の良い仕上がりです。

(くどい色づかいのお菓子は嫌ですね)

外側と内側の食感の差がうれしい食べ物です。

ほんのり柚子の香りを楽しみました。

これには抹茶より焙じ茶か玄米茶が似合いそうです。

なお椿皿は室町時代の作、和菓子とよく調和します。

少し先の話ですが、冬至には柚子湯をどうぞ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年10月26日 (土)

秋季大会のご案内【研究室から】

秋の気配が深まってきました。

日本文学会からのご案内です。

11月16日(土)午後2時より秋季大会を開催いたします。

会場;鶴見大学記念館 地下2階記念ホール

(大学会館ではありませんので、ご注意)

講演;近世前期の出版と寺院 

       本学文学部講師 万波寿子

  〈女三宮と猫〉の江戸的享受―文学作品における―

       学習院大学教授 鈴木健一

聴講無料、予約も不要です。どうぞお越しください。

女三宮と猫についてお話いただきますので、浮世絵1枚ご紹介。Photo御簾の向こうには六条院の庭が丁寧に描かれています。

女三宮に猫の後ろ姿、季節が違いますけれど、ご勘弁ください。

絵師は楊州周延(1838~1912)、連作「千代田の大奥」が有名です。

長州征討に加わったり彰義隊隊士となったりとなかなか勇ましい。

では、ご来場をお待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室 cat 

2024年10月 8日 (火)

やはり、秋は【研究室から】

読書も勿論ですが、食べ物のおいしい季節です。

来週水曜、旧暦の9月13日は栗名月・豆名月。

仲秋の名月を眺められた方は、こちらも是非どうぞ。

旧暦8月の月見だけですと、片見月または片月見と言います。

話は戻って、栗か豆を出してみようと思いましたが、

おいしそうな薯蕷饅頭をみつけましたので、方針転換。

黄瀬戸の小皿と取り合わせています。Photo_2単純な素材と形ですので、ごまかしがきかない。

お店の技倆がよくわかります。

さて、担当者のふるさとは美濃の田舎です。

隣の町に老舗の和菓子屋さんがありました(現在も多分健在)。

そこの薯蕷饅頭は、形がふっくら愛らしく、味もなかなか。

都会の人気店に負けない佳品です。

黄瀬戸は江戸の早い頃、お茶でもいれましょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年9月17日 (火)

月を見る心【研究室から】

中秋の名月が冴えています。

「月見ればちぢにものこそかなしけれ」は百人一首でおなじみの歌。

月をみると、どなたも「ちぢに」思われるのではないでしょうか。

もちろん「かなし」ばかりではなく、楽しいことも懐かしいことも。

さて、いつもの食い意地です。

なじみの和菓子屋へ出かけましたら、月見の菓子がいろいろ。

桃山生地の焼き菓子を求めましたので、御覧にいれます。Photo器は高麗末李朝初期の堆花文青磁小皿です。

(やや地味ですが、なかなかの稀品)

お茶を一服、秋風に吹かれ月を眺めて

「恋しさは同じ心にあらずともこよひの月を君見ざらめや」

などと言ってみたくなりませんか。

「水のおもに照る月なみをかぞふればこよひぞ秋のもなかなりける」

拾遺集の歌を引用してみて「ああ、最中にすれば」と気付いた次第。

ちなみに皿の上のお菓子は「満月焼」の名前が付いていました。

少々野暮だと思います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年9月 3日 (火)

野分のあと【研究室から】

台風の影響も一段落、日暮れ時の虫の音が高くなってきました。

雨や風に悩まされた8月でしたが、皆様おかわりありませんか。

研究棟まわりの銀杏の大木が、地面に青い実を散らしていました。

古典文学では、『源氏物語』野分の巻が8月の暴風を描いて有名です。

そして「風は」と「野分のまたの日こそ」も、負けず劣らずの秀逸さ。

ご存じ『枕草子』から、江戸時代の版本でどうぞ。Photo右面最終行、朱の合点が掛けられているところは

「八九月ばかりに雨にまじりてひきたる風、いとあはれ也」

左面9行目から「のわきのまたの日こそいみじうあはれにおぼゆれ」

以下はご自分でお読みください。

平安時代の野分は文学作品にほとんど取り上げられないと言えるでしょう。

鎌倉時代以降、野分に詩を感ずる人が増えてきました。

雨や風に面白さを見いだす清少納言は、なかなかに冴えていると思います。

なお上の図は『清少納言旁註』より取りました。

これから読書の秋です。

たくさんお読みください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年8月 4日 (日)

暑中お見舞い【研究室から】

皆様、お変わりなきことと存じます。

今日、蓮を見に出かけました。

「夏ころ、はちすの花のさかりに」はご存じ源氏物語鈴虫巻の書き出しです。

「花のさかり」は少し過ぎていますが、まだ十分艶やかな蓮を楽しめます。Photo これから咲く花と、蜂の巣のような実とが向かいあっています。

何かを話しているようです。

シオカラトンボが舞い、水の音も聞こえます。

ところが、蓮の咲く田の半分ほどは埋め立ての最中でした。

盛り土して宅地造成するのでしょうか。

田の管理は大変でしょうし、いろいろ事情もありそうですが、さびしい話。

ともあれ、お元気でおすごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室