2020年6月 6日 (土)

水無月【研究室から】

少しずつ、平常の大学に戻っています。

研究棟のあたりに紫陽花が咲き始めると、6月の到来を実感。

「またたちかへる水無月の

 なげきをたれに語るべき

 沙羅のみづ枝にはなさけば

 かなしき人のめぞみゆる」

ご存じ、芥川龍之介の今様です。

近代今様の名手は、佐藤春夫と芥川でしょうか。

今様は、とても優れた定型詩です。

現在、これに手を染める人がほとんどおられないのは、不思議なこと。

と言いつつ、今回の狙いは全く別のところにあります。

敵は本能寺、和菓子の「水無月」です。

(本能寺の変も6月でした)

Photo ういろう生地に小豆の蜜煮を載せたもの。

関西の食べ物ですが、近年こちらでも見かけるようになりました。

気取らずあっさり、この時期一押しの菓子です。

器は、1600年前後の景徳鎮染付です。

(本当の狙いは、この皿を自慢すること)

馴染みの和菓子屋と素敵な器があれば、たいてい気分よく過ごせます。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年5月21日 (木)

初夏【研究室から】

はやりやまいも、少し落ち着いてきたようです。

それでもしばらくはお目にかかれません。

人と人とが直接向き合う教育こそ、勿論本来の姿です。

問題の掘り下げも知識の定着も、離れていたのでは不十分でしょう。

しかし当分、manabaやポータルサイトを活用してください。

さて、日一日と緑が濃くなり、気分のよい梅雨前です。

季節の花を高麗青磁に挿してみました。

Photo 立ち菊を白黒象嵌した青磁の壺と、野いばらです。

壺は13世紀でしょう。

おもねらず誇らず、と言った花の風情にひかれます。

いばらは万葉の時代から歌に詠まれた植物です。

「ここかしこ岸根のいばら花さきて夏になりぬる川ぞひの道」(木下幸文)

これは近世のさらりとした歌柄、近代短歌と比べて遜色なし、でしょう。

いかが思われますか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年5月 7日 (木)

紫の雲【研究室から】

と申しましても、極楽往生のことではありません。

藤の花が咲いています。

高い香りに誘われた蜂の、羽音も聞こえます。

歌人達は、藤を紫の雲に喩えました。

落ち着かない世の中ですが、花はいつも通り。

120年ほど以前の絵を見てみましょう。

Photo 水野年方の作です。

「侍女 宝德頃之人」とありました。

宝德(1449~1452)頃の装いを知りません。

小袖に白綾織りの袴でしょうか。

そんな詮索はさておき、楽しめる絵だと思います。

若い女性は、花に舞う蝶を眺めているようです。

ついでに、竹柏園主人の歌を。

「むかひゐて言葉すくなしあえかなるゑまひににほふ藤波の花」

では、また。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年4月23日 (木)

迷墨【研究室から】

調査にも出かけにくく、それを口実に研究中断。

閑寂な山道を選んで、散策することもあります。

狸を見かけました。

人の動きが少ないせいでしょう。

机に戻り、文房具など玩弄しています。

大ぶりの墨を取り出しました。

Photo 直径12㎝ほど、側面に「天啓元年程君房製」とあります。

百爵図の銘も鮮やかな、贋作。

狸ならぬ迷墨に化かされてはいけません。

(本物なら数百万、でしょうか)

真っ赤な、いえ、真っ黒な偽物です。

しかし普段使いには十分ですし、作られてから30年以上経過しています。

素性を心得た上で楽しめば、なかなかのもの。

家に籠もることの多いこの頃、お好みの文房具を並べてみてはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年4月12日 (日)

卯月ばかりに【研究室から】

落ち着かぬ毎日です。

気長にはやりやまいの収束を待ちましょう。

さて、数多くある源氏物語の4月から、蓬生を取り上げます。

赤鼻の姫君がこれほど魅力的に描かれた巻はありません。

荒れ果てた常陸宮邸に光源氏を待ち続ける姫君のほか、

主人思いの侍従、頼りがいのない兄禅師、悪役の叔母、露払い惟光など、

多彩な脇役が登場し、結構波瀾に富んでいます。

肝腎の光源氏は、姫君のことなどすっかり忘れていました。

卯月ばかりの夕月夜、偶然常陸宮邸を通りかかります。

「大きなる松に藤のさきかかりて、風につきてさと匂ふがなつかしく」

Photo 明暦版源氏小鏡より採りました。

小鏡に絵の入った最初の版です。

絵が本文と一緒の面にある形式は、珍しい。

ともあれ外出を控えるわけですから、まず読書。

この閑日月に沢山読めれば、災い転じて福となす、でしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年3月29日 (日)

残りの雪【研究室から】

時ならぬ雪模様。

かつてこれを「残りの雪(残雪)」と言いました。

降った雪が消え残っている、のではありません。

冬の雪が天上に残っていて、春になってから降る現象です。

160年前の3月3日も大雪でした。

(桜田門を思い出された方は、なかなか優秀)

今日は旧暦3月6日ですので、ほぼ同時期です。

雪踏み分けて桜探訪。

Photo 花はいかにも寒そうでした。

「桜ちる木の下風はさむからで空にしられぬ雪ぞちりける」

(誰の歌でしょう)

散る花を雪に見立てるのは常套ですが、本物の雪と桜は珍しい。

ついでに申せば「空にしられぬ雪」の解はちょっと厄介です。

空にはみたことのない雪が、と考える方が多いようです。

「しられぬ」を受け身と見るのはどうでしょう。

用例から帰納すると、こちらに分がありそう。

やっかいな病気蔓延を避けるべく、家にいらっしゃるみなさん、

やまとうたをじっくり読まれてはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年3月17日 (火)

待ちし桜も【研究室から】

卒業式・入学式のみならず、さまざまな催しが中止や延期となっています。

心待ちにしていた桜を、うっかり見過ごしそうです。

「たれこめて春の行方もしらぬまに待ちし桜もうつろひにけり」

出典を捜してください。

家を出ないならば、それは読書の好機でもありますから。

そして、読書の友にお茶とお菓子を。

この時期はやはり・・・

Photo 

色絵祥瑞の皿を自慢したくて出しました。

(根津美術館に類品があります)

道明寺粉を使う関西風とは大きく異なります。

小麦粉の水溶きを焼くのが、関東風。

中国古来の「餅」は小麦粉の加工品ですから、関東の桜餅も文句なく「餅」。

青木青児博士の該博軽妙な考証をお読みください。

くず餅も西と東で異なります。

これもお調べ願います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年3月 3日 (火)

老舗【研究室から】

世の中、新しい病気の話題ばかり。

閉鎖空間や人混みが感染の大きな要素だそうです。

結局、それは都市の病と言うことなのでしょうか。

急激な都市化や過度の密集に対して警告しているようにも思われます。

さて、今日は伝統行事桃の節句。

担当者にはまったく似合いませんので、伝統の菓子ひとつお目にかけます。

芙蓉手古伊万里に載せて。

Photo 檜の板にも見えますが、和三盆を使った信州の産。

例のない口当たりと不思議な軽さが印象的です。

200年以上の老舗、とか。

ちなみに、芙蓉手は300年くらい前の佳品です。

新しいものがよい、とは限りません。

春間近なこの頃、お元気でお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年2月20日 (木)

紙の美【研究室から】

あたたかくなりました。

今年は、桜が早く咲きそうです。

(花粉の飛散も始まります)

さて、源氏物語の二月、と言えばやはり花宴巻。

「きさらぎのはつかあまり、南殿の桜の宴せさせ給ふ」

帝・春宮の御前で詩作や奏楽が行われ、そして朧月夜との逢瀬。

古来人気の高い巻です。

しばしば本文の抄出も行われました。

豪華な装飾の料紙に能筆がよく映る1枚をご紹介。

Photo 制作は江戸時代も早い頃でしょう。

下絵も金銀の砂子蒔きも贅沢です。

装飾が映えるように白く具引きし、一手間掛けています。

それほど難しくありませんから、読んでみてください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2020年2月 3日 (月)

春立つ頃【研究室から】

明るい日差しに誘われて、遠出しました。

と言いましても、自転車を2時間ほど走らせたのみ。

この頃の雑木林は、見通しがきいてなかなかの風情です。

おや紅梅か、と思いましたら、寒桜。

Photo 定期試験・年度末の諸行事と、学生さんも教員も落ち着かない日が続きます。

勿論、受験生のみなさんは大変でしょう。

健康に気をつけて、乗り切ってください。

今日は節分、したがって明日は立春。

立春は古典文学とも関わりの深い事象です。

このことにつきましては、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室