源氏物語には、3月の出来事が数多く描かれます。
北山へ謔病まじないに出かける若紫巻、朧月夜と再会する花宴巻、
須磨の謫居も、明石姫君誕生も、絵合も3月。
ことに衛門督柏木が女三宮の姿を見てしまう場面はよく知られています。慶安3年(1650)跋絵入源氏物語から、見開きの左側を載せました。
御簾の内側に立つのが女三宮、散る花の下には柏木。
簀子敷に大小の猫がいて、小さい方の首には綱が結ばれています。
「唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大なる猫おひつづきて」
和猫ではなく、中国より渡来の猫です。
この綱によって御簾の端が引き上げられました。
「言ひしらずあてにらうたげ」な女三宮に、柏木は心を奪われてしまいます。
あとはご自身でお読みください。
なお、金沢文庫に貴重な古典籍が数多く所蔵されていることはご存じでしょう。
ネズミよけとして、中国から猫を取り寄せています。
「金沢猫」は評判が高く、近代になってもこの名前が残っていました。
称名寺あたりの野良猫は、ひょっとすると外来種の血筋かもしれません。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
梅の花、満開。
マスクをしていても、馥郁たる薫りに陶然とします。
里山を散策、せせらぎの音が高くなっているのに気づきました。唱歌「春の小川」を思い出された方もあるでしょうが、あれは渋谷川。
暗渠となってしまって、面影もありません。
ちなみに、日本最初の鉛筆工場は渋谷川の水車を動力としました。
これもついでに余計なことを追加すれば
「わたしゃ鉛筆 しんから好きな ぬしのためなら 身を削る」
と言う俗謡もあります。
それはそれとして、盛りの梅に戻ります。
おだやかな昼下がりです。
「ゆく水遠く梅にほふ里」が引用したいばかりに、この記事を書きました。
(出典はご自分でお探しください)
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少し日が長くなりました。
寒さはまだ続きますので、風邪には(COVID19にも)気をつけて。
この季節の花と言えば、常緑の葉に紅。
椿を染付の壺に活けてみました。
器は古伊万里か、と思われるでしょうけれど、三田染付です。
珍しいと思います。
万葉歌人に好まれましたが、平安時代になると文学にはあまり描かれません。
むしろ椿餅がよく出てきます。花より餅、ですね。
院政期から中世に再登場、江戸時代は変わった品種も生まれます。
鎌倉時代の大歌人藤原定家は、植物好きの貴族でした。
その日記『明月記』には、花木も多く出てきます。
栽培について相談出来る専門家もいたようです。
と言うような話は、レポートの題材になるでしょう。
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あけましておめでとうございます。
よからぬやまいの流行で、在宅の時間が増えました。
この時期、室内での遊びは何と言っても百人一首。
(の、はずですが、さて)
百人一首カルタは江戸時代と近代以降とで、大きく違います。
読み札には上句、取り札には下句が古い形。
したがって1首全体を記憶していないと、読み役は勤まりません。
新形式は、読み札に和歌全体が示されています。
誰にでも読み役が出来ることとなりました。
その境界線は、明治維新でしょう。
古典の民衆化と解するか、知的水準の低下と見るか。
なかなかおもしろいところです。
(もっと詳しくご存じの方は、お知らせください)
切って使いますが、裁断前の大判刷り物。
読み札は丁寧に描かれた歌人で、型どおりです。
取り札が留守模様となっています。
後京極摂政前太政大臣(藤原良経)にご注目。
左から2列の目上から2段目が読み札、
一番右の上から2段目が留守模様の取り札です。
「衣かたしきひとりかもねん」ですから、枕と衣。
いま起きたばかりの風情で、良経は右の寝床を見ています。
留守模様の百人一首カルタは珍しいでしょう。
刷り物の全体をお見せ出来ないのが残念。
それはそれとして、本年もよろしくお願い申し上げます。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
常套句で気が利きませんけれど、今年も残りわずかとなりました。
心がけの良いみなさまは順調に年越しでしょうが
担当者は課題を抱えたままの年の暮れです。
「ゆく年のをしくもあるかなますかがみみるかげさへに暮れぬと思へば」
馬齢を重ねるばかりで、と言うと馬が気を悪くします。
そこで、本年最後の古典籍をお目にかけることに。和漢朗詠集、なかなかの筆跡と思います。
いつ頃の書写でしょうか。
ぴたりと言い当てられれば、最高度の目利きを保証します。
「ゆくとしの」の和歌の前は「歳月難従老底還」。
お若い方には無縁でしょうが、身につまされる詩句です。
さて寒波到来、おすこやかにお過ごしください。
来年もご贔屓に。
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と言いましても、タイムマシンや宇宙旅行のことではありません。
今年は楽聖生誕250年、ベートーヴェン・イヤーだそうです。
また、詩情豊かな別の音楽家没150年でもあります。
ヨーゼフ シュトラウスは、楽聖の亡くなった年に生まれました。
兄ヨハンをしのぐ才能とあふれる機知、気品に満ちた曲は忘れがたいものです。
「うわごと」「オーストリアの村つばめ」そして「天体の音楽」。
英国の挿絵画家C.ロビンソンにMusic of the Spheresと言う作品があります。
人に聞こえない音楽を奏でて天体が運行する、と古代希臘の哲人は考えました。
「天体の音楽」はそのアイデアをワルツにしたものです。
絵に描けば、こんな風。
名作として評価の高い子供向けの本に収められています。
(もちろん、大人が見ても十分楽しめる書物です)
ヨーゼフが亡くなった年に、この画家が生まれていますので
ベートーヴェン、ヨーゼフ シュトラウス、ロビンソンと不思議な連鎖。
この本の表紙も面白いので、ことのついでにご紹介しますと・・・女の子が蹴り上げているのは、地球!
音楽の話だか絵画談義だか、わからなくなりました。
ヨーゼフ シュトラウスに戻って、おすすめはポルカ マズルカです。
特に「燃ゆる恋」、ボスコフスキーがとてもよかった。
どうも昔話になりそうで。
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流行病が終息せず、動きづらい日々の連続です。
ならば、書物の中を旅しようではありませんか。
古事記万葉から近現代の作品まで、日本文学は旅の宝庫です。
紀行でも日記でも、旅をあつかった小説でも、和歌俳諧でも、お好み次第。
旅の手引き書が、これまたなかなかおもしろい。
100年ほど以前、鳥瞰図絵師として活躍した吉田初三郎の作をご紹介します。
『鉄道旅行案内』の挿絵です。
初三郎の絵の多くには、富士山が描き込まれています。
九州であれ北海道であれ、ユニークな鳥瞰図のどこかに富士山が鎮座。東海道は鶴見のあたり、秀麗な富士が自然に配置されています。
右下の平間寺は、川崎大師。
総持寺と海の距離が近いのは、何せ1世紀前ですから。
花月園も見えます。
海に和船がうかんでいて、まことにのどか。
いながらにして旅が出来るのも文学の効能、書物の功徳です。
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