あけましておめでとうございます。
よからぬやまいの流行で、在宅の時間が増えました。
この時期、室内での遊びは何と言っても百人一首。
(の、はずですが、さて)
百人一首カルタは江戸時代と近代以降とで、大きく違います。
読み札には上句、取り札には下句が古い形。
したがって1首全体を記憶していないと、読み役は勤まりません。
新形式は、読み札に和歌全体が示されています。
誰にでも読み役が出来ることとなりました。
その境界線は、明治維新でしょう。
古典の民衆化と解するか、知的水準の低下と見るか。
なかなかおもしろいところです。
(もっと詳しくご存じの方は、お知らせください)
切って使いますが、裁断前の大判刷り物。
読み札は丁寧に描かれた歌人で、型どおりです。
取り札が留守模様となっています。
後京極摂政前太政大臣(藤原良経)にご注目。
左から2列の目上から2段目が読み札、
一番右の上から2段目が留守模様の取り札です。
「衣かたしきひとりかもねん」ですから、枕と衣。
いま起きたばかりの風情で、良経は右の寝床を見ています。
留守模様の百人一首カルタは珍しいでしょう。
刷り物の全体をお見せ出来ないのが残念。
それはそれとして、本年もよろしくお願い申し上げます。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
常套句で気が利きませんけれど、今年も残りわずかとなりました。
心がけの良いみなさまは順調に年越しでしょうが
担当者は課題を抱えたままの年の暮れです。
「ゆく年のをしくもあるかなますかがみみるかげさへに暮れぬと思へば」
馬齢を重ねるばかりで、と言うと馬が気を悪くします。
そこで、本年最後の古典籍をお目にかけることに。和漢朗詠集、なかなかの筆跡と思います。
いつ頃の書写でしょうか。
ぴたりと言い当てられれば、最高度の目利きを保証します。
「ゆくとしの」の和歌の前は「歳月難従老底還」。
お若い方には無縁でしょうが、身につまされる詩句です。
さて寒波到来、おすこやかにお過ごしください。
来年もご贔屓に。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
と言いましても、タイムマシンや宇宙旅行のことではありません。
今年は楽聖生誕250年、ベートーヴェン・イヤーだそうです。
また、詩情豊かな別の音楽家没150年でもあります。
ヨーゼフ シュトラウスは、楽聖の亡くなった年に生まれました。
兄ヨハンをしのぐ才能とあふれる機知、気品に満ちた曲は忘れがたいものです。
「うわごと」「オーストリアの村つばめ」そして「天体の音楽」。
英国の挿絵画家C.ロビンソンにMusic of the Spheresと言う作品があります。
人に聞こえない音楽を奏でて天体が運行する、と古代希臘の哲人は考えました。
「天体の音楽」はそのアイデアをワルツにしたものです。
絵に描けば、こんな風。名作として評価の高い子供向けの本に収められています。
(もちろん、大人が見ても十分楽しめる書物です)
ヨーゼフが亡くなった年に、この画家が生まれていますので
ベートーヴェン、ヨーゼフ シュトラウス、ロビンソンと不思議な連鎖。
この本の表紙も面白いので、ことのついでにご紹介しますと・・・女の子が蹴り上げているのは、地球!
音楽の話だか絵画談義だか、わからなくなりました。
ヨーゼフ シュトラウスに戻って、おすすめはポルカ マズルカです。
特に「燃ゆる恋」、ボスコフスキーがとてもよかった。
どうも昔話になりそうで。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
流行病が終息せず、動きづらい日々の連続です。
ならば、書物の中を旅しようではありませんか。
古事記万葉から近現代の作品まで、日本文学は旅の宝庫です。
紀行でも日記でも、旅をあつかった小説でも、和歌俳諧でも、お好み次第。
旅の手引き書が、これまたなかなかおもしろい。
100年ほど以前、鳥瞰図絵師として活躍した吉田初三郎の作をご紹介します。
『鉄道旅行案内』の挿絵です。
初三郎の絵の多くには、富士山が描き込まれています。
九州であれ北海道であれ、ユニークな鳥瞰図のどこかに富士山が鎮座。東海道は鶴見のあたり、秀麗な富士が自然に配置されています。
右下の平間寺は、川崎大師。
総持寺と海の距離が近いのは、何せ1世紀前ですから。
花月園も見えます。
海に和船がうかんでいて、まことにのどか。
いながらにして旅が出来るのも文学の効能、書物の功徳です。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
寒さを意識するこの頃、まずお茶がおいしくなりました。
(抹茶ならば上々、もちろん煎茶でも玄米茶でも結構)
お茶がおいしくなれば、なんといっても和菓子です。
季節にふさわしいものはいくらもありますが、今回は栗蒸し羊羹。
ついでに申せば、文学史上酒飲みが目立ちますけれど、甘党も結構多いのです。
尾崎紅葉・夏目漱石・泉鏡花・芥川龍之介、室生犀星もお菓子好きでした。
(鏡花宅では、奥さまの淹れるほうじ茶も名物)
さて漱石先生のお説に従い、羊羹を青磁の器と組み合わせます。高麗の蓮弁陽刻白泥文皿、5客の揃いが自慢です。
(漱石の意見がどこに出てくるかは、お探しください)
そして濃いお茶を一杯、皆様はどのような器を使われますか。
いずれ、茶器の話題も取り上げます。
一休みしたら、調べ物の続きをしなければ。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
言うまでもなく、読書の贅沢です。
先日、『論語義疏』が大きな話題となりました。
それには遠くおよびませんが、明代の版本を取り出し、読んでおります。
『論語正義』です。
好ましい書物としてよく知られた、毛氏汲古閣本。
(論語正義と汲古閣については、お調べください)
秋の夜長、ほんの少し贅沢。
朱の合点がかけられているところは、
「子ののたまはく、疏食を飯(くら)ひ水を飲み、肱を曲げて之を枕とす
楽しみ亦その中にあり」と読みます。
注には「疏食、菜食」。野菜ばかりの食事は貧しい、と言う解釈です。
(菜食主義者が怒りそうな)
それはそれとして、どうせ読むのであれば、なるべく贅沢な本!
鶴見大学文学部日本文学科研究室
秋の夜長、読書三昧のここと存じます。
気分転換に、好みの万年筆をとりとめもなく走らせたり・・・
文房四宝で優雅に手習い、はもちろん理想的です。
その前に明窓浄机の書斎がほしいなどは、まあ絶望的な話。
ともあれ、机辺に趣味のよい文房具があるのは、ちょっとした贅沢でしょう。
そこで、変わった一品をご紹介します。
学生の頃から、手巻きの懐中時計を愛用しておりました。
鎖との取り合わせを考えるのも、楽しみのひとつです。
それはそれとして、ボタン穴に止める横棒(Tバーと言います)が面白い。
シャープペンシルを仕込んでいます。 繰り出し機構もちゃんと働きます。
何を書いたのでしょう。たとえば・・・
思いがけなく再会した昔の思い人に、走り書きをして手渡す。
もうこれは小説ですね。
ついでに申しますと、時計も本もほぼ100年程前に作られました。
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少し涼しくなりました。食べ物のおいしい季節です。
正岡子規『仰臥漫録』は、近代の日記中最もおもしろいものの一つ。
生きているのが奇跡、と言うほどの病床で
日記をつけ、絵を描き、歌を詠み、句を吟じました。
ほとんど唯一の楽しみは、食べること。
ココアやビスケットなど、しゃれたものも口にしています。
『漫録』に一番多く出てくるのは、菓子パンでしょう。
印象に残るのは、家族といさかいをしてまで食べたがった団子。
「あん付三本焼一本を食ふ」(明治34年9月4日)
そこで、餡団子を御深井の角皿にのせました。時には「夕暮前やや苦し、喰過のためか」とか
「やけ糞になって羊羹菓子パン塩せんべいなどくひ渋茶を吞む、あと苦し」。
その病苦を思うと、壮烈な食い意地ではありませんか。
昨日9月19日は、子規の命日でした。
ちなみに御深井は「おふけ」と読んでください。
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