【研究室から】

2022年10月10日 (月)

神無月のころ【研究室から】

徒然草の「栗栖野といふ所を過ぎて」を思い出される方もおられるでしょう。

が、源氏物語の帚木です。

「神無月のころほひ、月おもしろかりし夜」に女性の家を訪れる話。

「ころほひ」が「ころ」となっている本もありますので、徒然草と同じ表現。

ある殿上人が女性のところを訪れると言うので、同車して出かけてみると

なんと自分の恋人の家でありました。Photo「風にきほへる もみぢの みだれなど あはれに けにみえ」とあります。

江戸時代前期の能筆、おっとりと品の良い書です。

書き手が特定できるのではないか、と思いますが、まだ調べておりません。

紅葉の金泥下絵も洒落ています。

ことしは何処の紅葉を眺めましょうか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年9月 4日 (日)

秋芽子の花【研究室から】

「ももくさの花のひもとく」と詠まれるほど、いろいろあります。

万葉の時代から可憐で慎ましい姿が愛されたのは、萩。

芽子あるいは芽の1字で、ハギと読みます。よって秋芽子はアキハギ。

鹿鳴草とも書くのは、鹿が好んで立ち寄ると考えられたから。

派手な所はありませんので、撮影が難しい。

Photo花の魅力をお伝えできず,すみません。

せめてものことに、和歌1首。

「ふるさとのもとあらの小萩いたづらに見る人なしに咲きかちるらむ」

第3代鎌倉殿の作です。出典はおしらべください。

なお、萩の若い茎はおいしく食べられるそうです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年8月13日 (土)

芳香【研究室から】

夏休みもほぼ半ば、計画通り進んでいますか。

暑さにげんなりしているところへ、小荷物到来。

旧真桑村(現本巣市)の友人が届けてくれました。

荷を開けると、部屋中に薫りが満ちあふれます。

そう、マクワウリ。

あっさりと癖のない味、そして品の良い芳香が特徴です。

ウリは2000年以上の昔から、日本で好まれてきました。

その中でも、最も有名な品種がマクワウリ。

文学作品、特に江戸のものにはしばしば登場します。

では、旧真桑村のマクワウリをご覧ください。Photo本場中の本場物、皿は芙蓉手古伊万里染付です。

(この古伊万里は江戸中期の作、なかなかの名品)

しかし旧真桑村でも現在は作る農家が少ないとか。

淡泊な食感は、強い味に慣れた現代人の好みにあわないのかもしれません。

残念なことです。

なんとか広まってほしい、と担当者は思います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年6月30日 (木)

薫り、ほのか【研究室から】

猛烈な暑さを口実に、なまけております。

日が傾いてから思い立って散策。

少し歩くだけでも汗が噴き出してきます。

蓮のつぼみを見つけて、ほっとしました。

まだ開いてはいませんが、それでも水の上にほのかな薫り。Photo_2蓮の沢は水が冷たく、手を浸して一息つきました。

「蓮の香や水をはなるる茎二寸」(蕪村)

帰宅して「さあ調べ物を」と言うほど殊勝ではありません。

また、ぐうたらの続きです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年6月16日 (木)

嘉祥【研究室から】

今日(6月16日)は、お菓子の贈答が吉例となっておりました。

江戸時代の末まで行われていたようです。

現在は「和菓子の日」に呼び名が変わっています。

年号の嘉承(848~851)に縁があるとも言われますが、確証なし。

南宋の嘉定通宝16枚で菓子を購入した、との説もあります。

いわれはともかく、おいしいものをお気に入りの器で楽しみましょう。Photo

薄緑の栗饅頭? いえいえ梅の実のデザインです。

この季節、青梅がおなじみですけれど、漢籍には黄色の梅の実が出てきます。

熟した梅の実や熟する時期は「黄梅」。

そして高坏風の器は、中国南方の素朴な染付です。

暑くなったら、アイスクリームを載せてもおいしそう。

なお、先日の「庖丁、研ぎまさあ」は好評でした。

黒板先生に拍手。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年5月24日 (火)

味の品格【研究室から】

みちのくのお土産を頂戴しました。江戸時代から続く老舗のお菓子です。

早速お茶を淹れて、一口。

驚きました。砂糖の味がしません。麦芽糖つまり水飴の味のみです。

基本的な素材は、米と水飴。あっさりとして、深い滋味を感じます。

実に淡泊で落ち着きのある和菓子です。

派手な包装はせず、端正に切り分けただけのその形には潔さと気品。

と申しても伝わりませんので、織部の小皿に載せてお目にかけます。Photo織部は幕末の作、和菓子とよく調和する器です。

現在、刺激や甘みを追求した、色合いの強い食べ物があふれています。

担当者思うに、品のなさと紙一重。

それはそれで無視しがたい潮流なのでしょうが、

控えめな味やすっきりとした形も忘れてはならない、と思います。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」です。

(君子は、勿論「きみこ」ではありません)

お米で申せば、なんとかヒカリや何々コマチではなく、たとえば初霜。

メロンばかりではなく、時にはマクワウリ。

落ち着いた穏やかな味の食べ物こそ永く愛されるはず。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月28日 (木)

新緑のふみくら【研究室から】

緑豊かな山の上で、久しぶりの古典籍調査。

風格ある建物が20万点の書物を守っています。

学生の頃から通い慣れた静嘉堂文庫です。

本年度から、専任の司書を置くことがなくなったのは、とても残念。

立派なふみくらでも、人の手なしでは貴重な資料を十全に管理できません。

この優れた文庫は、三菱草創期の総帥岩崎弥之助によって設立されました。

弥之助の高い志は、現在どのように受け継がれているのでしょうか。

世界遺産水準の古典籍とその環境は、もっと大切にされてよいはずです。Photo国宝・重要文化財が80点以上、と言うのも偉観です。

担当者は、一階向かって右の部屋で閲覧しました。

お世話になった学芸員の方々に感謝します。

帰りに和菓子屋へ立ち寄りましたこと、いつもの通りです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月12日 (火)

夏間近【研究室から】

汗ばむほどの陽気です。

桜はほとんど散り去って、緑が日に日に濃くなります。

源氏物語の4月は、旧暦ですから勿論初夏。

4月を描いた印象深い巻のひとつが蓬生です。

赤鼻の姫君末摘花は広大なお屋敷にわびしく暮らし、偶然光源氏と再会。

この巻には様々な草木が書き込まれています。

浅茅・葎・松・藤・橘・忍ぶ草そして蓬。

江戸時代前期の写本でご覧ください。Photo中程、5行目に「四月ばかりに花ちるさとを」とあります。

ここから、源氏が荒廃した常陸宮邸を通りかかる話へ発展。

古風で不器用、容貌も冴えませんが、物語中最も幸せな女性のひとりでしょう。

是非ご自分でお確かめ願います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年3月30日 (水)

楽しみ方【研究室から】

ご本山の境内もキャンパスも、桜満開。

とくに図書館脇の階段から絶景が楽しめます。

そしてこの季節の楽しみには、やはり桜餅が欠かせません。

まず織部の小皿と取り合わせて、見参見参。Photo(焼き上がりが強く、織部の緑釉が赤く変化しています)

東西の桜餅については、以前お話ししました。

皆さんは桜餅を召し上がる時、葉の塩漬けをどうされますか。

勿論、剥いて食べる方が多いでしょう。

豪快にそのまま、と言うのも、野趣満点で結構かと思います。

担当者のお勧めは、碗に葉を入れて熱湯を注ぐことです。Photo_2 しばらく待つと、香り高い桜湯の出来上がり。

李朝白磁の碗は、学生の頃から愛用しているものです。

お好みの器で、是非お試しください。

まもなく春のキャンパスに新入生の笑顔があふれるでしょう。

では、次年度もごひいきに。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年3月20日 (日)

花の頃【研究室から】

桜が咲き始めました。

花の枝に愛らしい鳥が遊んでいるのをよく見かけます。

鶯と思っていらっしゃる方も多いようですけれど、これはメジロ。

鶯はもっと地味な色合いです。

この季節、いろいろな和菓子が店頭に並びます。

鶯餅、草餅、桜餅などのお話はまた次回以降として、お彼岸にちなむものを。

おはぎですが、春秋によって呼び分けると言う説に従えば、牡丹餅です。

柿右衛門手の小皿に載せて、見参。Photo皿はそれほど古くありません(150年くらい前の作)。

ハート型の透かしは「猪目」と言います。

さて、日本文学科を優秀な成績で卒業された学生さんの話題。

このホームページを見て、鶴見を選んでくださったのです。

お父様が大の骨董好き、とうかがいました。

小道具の古伊万里や黄瀬戸をおもしろがっていただいているようです。

担当者にとって、これほどうれしい話はありません。

頑張らなくちゃ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室