【研究室から】

2022年3月 9日 (水)

凜として【研究室から】

里山の風が、遠くからゆかしい薫りを運んで来ます。

梅の花の盛りです。

芳香を惜しげもなくふりまき、しかもおもねった印象はありません。

凜として枯れ野に咲いています。

日差しを受けて、輝くばかり。Photoさて、来週は卒業式です。

鶴見の丘から羽ばたいて行かれる学生さんに、心から拍手!

喜びと感動に満ちた未来でありますように。

社会に出られてからも、是非遊びにお越しください。

図書館には、仕事に役立つ書物もたくさん揃っています。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年2月25日 (金)

春待つ里山【研究室から】

風は冷たいながら、さすがにおだやかな日差しとなりました。

少し足を伸ばして、里山の散策。

枯れ葉の道やにお積みの田など、冬の風情が残っています。Photo念のため申しますと、これは東京都内の景色です。

谷戸の奥に棚田があったり、湧き水には小野小町の話が伝わっていたり。

どこを見ても飽きない里山でした。Photo_2気ままに半日、ほとんど誰にも会わない静かな山路。

(明日あたり筋肉痛になるのでは、と少し心配です)

まだ入試や学期末の行事の行事が続きます。

お元気でお過ごしください。

そして家にこもることの多いこの頃、ときには野山を歩いてみませんか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年2月11日 (金)

春立てば【研究室から】

立春過ぎての雪となりました。

平安時代の和歌では、春になって降る雪が「残りの雪」です。

消え残っている雪ではありません。

(この話、以前記事にしました)

「春たてば花とや見らん白雪のかかれる枝にうぐひすのなく」

数ある古今集版本のうち、江戸時代に最も早く出版された本でご覧ください。Sagabonkokinshu左から2行目、素性法師の歌です。

右から2行目「鶯のこほれる涙」が読めますか。

冬の寒さに鶯の涙さえ凍る、と言う着想のこまやかさ!

伝嵯峨本と呼ばれる、堂々の書物です。

同じ読むのであれば、贅沢な本。

本学図書館には、多くの古典籍があります。

展示や授業で実物に接することが出来るでしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月19日 (水)

初花【研究室から】

前回が初音、今日は初花です。

桜は勿論、梅も咲くには少し早そう。

食べ物の話です。なじみの和菓子屋さんにありました。

ふんわりとした形を牛皮で作っています。

早速、花三島の皿と取り合わせ。Photo皿は李朝前期です(お菓子は出来たて)。

和菓子屋のご主人は、「初花」か「此の花」か迷われたようです。

「此の花」は大阪ゆかりなので、「初花」にされたとか。

(「此の花」がなぜ大阪に縁があるのかはお調べください)

なお、このお店の先代は、俳句や郷土史に造詣の深い方でいらっしゃいました。

では、寒中おすこやかにお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月 8日 (土)

初音【研究室から】

あけましておめでとうございます。

珍しく横浜にも雪が積もりました。

初音と言っても、さすがに鶯はまだ鳴きません。

『源氏物語』の巻の名前です。

六条院の豪奢な春を描いており、室町時代には新年に読むお公家様もいました。

さて光源氏36歳の正月、明石姫君が住む御殿を訪れます。

「童・下仕など御前の山の小松を引き遊ぶ」楽しげな住まいです。

そこへ姫君の母明石の御方から「髭籠ども、破子など」が届けられました。

(髭籠・破子はヒゲコ・ワリゴと読みます)

300年以上昔に刊行された絵入小型本の、当該場面をご紹介。Img20220108_16343656姫君の前に、松の枝に付けた消息や髭籠が描かれます。

松を引くのは、「今日は子の日なりけり」だから。

(今年の初子は11日です)

春の年中行事はたくさんありますので、お調べくださってはどうでしょうか。

では、本年もごひいきに。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年12月 2日 (木)

白菊【研究室から】

近代韻文史を学ばれた方は、井上哲次郎や落合直文の名が思い浮かぶでしょう。

古典和歌を読んだ方は、霜にうつろう花がおなじみ。

食い意地の担当者ですから、栗蒸し羊羹と白菊の取り合わせです。

羊羹は、やはり漱石先生のご意見通り、青磁に盛ります。

(この意見は、どの小説に出てくるのでしょうか)

白菊を象嵌した、高麗青磁の皿をご紹介。Photo_2多分、13世紀の作だと思います。

轆轤で挽き白土を象嵌してまず素焼き、次に青磁釉をかけて再度焼き上げます。

青磁の発祥地である中国にもない、高麗独自の技法です。

ただし近代以降の作が氾濫しています。

万一お求めになる時はご注意ください。

(筋の悪い贋作も、研究的な模作も、とにかく市場にあふれています)

近代韻文史に戻って、今週土曜日(4日)日本文学会の大会がございます。

山田先生は、短歌と飛行機のおもしろい組み合わせでご講演。

入場無料・予約不要ですので、是非お越しください。

お待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年10月20日 (水)

寝耳に水【研究室から】

文房具の話。

明窓浄几に精良の文房具は、大きな喜びです。

(この、暮らしにくい世の中であればこそ)

その主役は、何と言っても筆墨硯紙。

しかし脇役にもこと欠きません。

筆筒・硯屏・文鎮、そして水滴。

雀や蛙、犬など水滴の意匠はさまざまです。

瀬戸の焼き物をひとつお目にかけます。Photo水が出るのは、気持ちよさそうに眠る猫の耳。

寝耳に水、の文房具です。

厳めしい虎が鼻から水を出す、なかなか秀逸な水滴も。

なお、本学科を長く指導してくださった貞政少登先生の遺墨展がございます。

11月20日(土)より26日(金)まで、上野の森美術館にて開催。

学内にポスターも掲示されています。

文房具へ戻り、お好みの主役・脇役で机辺を飾ってみてはいかがでしょう。

さて、秋の夜長にもう少し調べ物!

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年9月 9日 (木)

景物【研究室から】

窓の外は、虫の声。

調べ物や執筆にふさわしい夜長となりました。

さて、秋の風情を代表するものはなんでしょう。

(食べ物については次回に)

鹿の鳴く音・雁・草花のいろいろ・霧と露・・・

眼に見、耳に聴いて季節を実感することは少なくなりました。

それでは可憐な景物をひとつ、丸々とした壺と取り合わせてお目にかけます。Photo古代より好まれた萩の花。

万葉集の歌人達がしばしば取り上げた素材です。

勿論、平安時代以降も鹿の花妻として秋歌に欠かせません。

萩の歌を集めるだけで、一大歌集が出来るでしょう。

「秋萩のいろづく秋をいたづらにあまたかぞへておいぞしにける」

「秋」が重なって無造作な印象です。

しかし勅撰集に入っているのは、率直な嘆老の詠が評価されたからでしょう。

お若い方々には、まだ縁のない話。

なお、静謐な白磁は李朝の焼き物です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月29日 (日)

似せること【研究室から】

秋間近、そろそろ勉学も再開しなければ。

「まなぶ(学ぶ)」は「まねぶ(真似ぶ)」ことから始まります。

模倣してみる・何かに似せることが、学びの第一歩です。

(最初から独創的な仕事が出来れば、それは天才)

さて、こんな例はどうでしょう。Chocolate扇形の古伊万里、あっさりとした染付です。

上に載せた貝殻、ではなく、実はチョコレート。

その筋では有名な菓子職人さんの作だそうです。

到来物を使いました(自分では買いません)。

ここまで真似ると、食欲がわかない人もおられるでしょう。

和菓子でも、牡丹や藤の花を実物大に作ることがあります。

驚くほど迫真的、しかし観賞用で食べはしません。

東西の差でしょうか。

この貝は、撮影後担当者の胃袋にめでたく収まりました。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月19日 (木)

博さ・深さ【研究室から】

幸田露伴の誕生日が近づきました。

慶応3年(1867)、7月23日と26日の両説あります。

これを新暦に直すと、1ヶ月ずれて8月となるわけです。

博識かつ多趣味、広い関心事の一つ一つがとてつもなく深い。

多趣味の中でも、将棋と釣りは生涯の楽しみでした。

京都帝国大学で国文学を教えていた頃は、生け花の本格的修行。

そして弟子をお供に釣り。

無鑑札ゆえに罰金を取られたこともあったとか。

教室では、なかなかの名講義だったようです。

ただし、大きな頭が邪魔になって黒板が見えづらかったと言われています。

結局京の水に合わず、在職わずか1年で東京へ。

このあたりの話は、青木正児博士が『琴棋書画』で楽しく語っておられます。

(青木正児は、アオキ・マサルと読みます)Photoこれは露伴の旧蔵書『古今要覧稿』。

博覧強記の作家にふさわしい書物ですが、右下をご覧願います。

蔵書印「有水可漁」、いかにも釣り道楽の人ですね。

露伴は、小説・戯曲・随筆・考証論文と多作。

とりあえず『幻談』と『連環記』をおすすめします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室