唐猫【研究室から】
源氏物語には、3月の出来事が数多く描かれます。
北山へ謔病まじないに出かける若紫巻、朧月夜と再会する花宴巻、
須磨の謫居も、明石姫君誕生も、絵合も3月。
ことに衛門督柏木が女三宮の姿を見てしまう場面はよく知られています。慶安3年(1650)跋絵入源氏物語から、見開きの左側を載せました。
御簾の内側に立つのが女三宮、散る花の下には柏木。
簀子敷に大小の猫がいて、小さい方の首には綱が結ばれています。
「唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大なる猫おひつづきて」
和猫ではなく、中国より渡来の猫です。
この綱によって御簾の端が引き上げられました。
「言ひしらずあてにらうたげ」な女三宮に、柏木は心を奪われてしまいます。
あとはご自身でお読みください。
なお、金沢文庫に貴重な古典籍が数多く所蔵されていることはご存じでしょう。
ネズミよけとして、中国から猫を取り寄せています。
「金沢猫」は評判が高く、近代になってもこの名前が残っていました。
称名寺あたりの野良猫は、ひょっとすると外来種の血筋かもしれません。
鶴見大学文学部日本文学科研究室