【研究室から】

2022年6月16日 (木)

嘉祥【研究室から】

今日(6月16日)は、お菓子の贈答が吉例となっておりました。

江戸時代の末まで行われていたようです。

現在は「和菓子の日」に呼び名が変わっています。

年号の嘉承(848~851)に縁があるとも言われますが、確証なし。

南宋の嘉定通宝16枚で菓子を購入した、との説もあります。

いわれはともかく、おいしいものをお気に入りの器で楽しみましょう。Photo

薄緑の栗饅頭? いえいえ梅の実のデザインです。

この季節、青梅がおなじみですけれど、漢籍には黄色の梅の実が出てきます。

熟した梅の実や熟する時期は「黄梅」。

そして高坏風の器は、中国南方の素朴な染付です。

暑くなったら、アイスクリームを載せてもおいしそう。

なお、先日の「庖丁、研ぎまさあ」は好評でした。

黒板先生に拍手。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年5月24日 (火)

味の品格【研究室から】

みちのくのお土産を頂戴しました。江戸時代から続く老舗のお菓子です。

早速お茶を淹れて、一口。

驚きました。砂糖の味がしません。麦芽糖つまり水飴の味のみです。

基本的な素材は、米と水飴。あっさりとして、深い滋味を感じます。

実に淡泊で落ち着きのある和菓子です。

派手な包装はせず、端正に切り分けただけのその形には潔さと気品。

と申しても伝わりませんので、織部の小皿に載せてお目にかけます。Photo織部は幕末の作、和菓子とよく調和する器です。

現在、刺激や甘みを追求した、色合いの強い食べ物があふれています。

担当者思うに、品のなさと紙一重。

それはそれで無視しがたい潮流なのでしょうが、

控えめな味やすっきりとした形も忘れてはならない、と思います。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」です。

(君子は、勿論「きみこ」ではありません)

お米で申せば、なんとかヒカリや何々コマチではなく、たとえば初霜。

メロンばかりではなく、時にはマクワウリ。

落ち着いた穏やかな味の食べ物こそ永く愛されるはず。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月28日 (木)

新緑のふみくら【研究室から】

緑豊かな山の上で、久しぶりの古典籍調査。

風格ある建物が20万点の書物を守っています。

学生の頃から通い慣れた静嘉堂文庫です。

本年度から、専任の司書を置くことがなくなったのは、とても残念。

立派なふみくらでも、人の手なしでは貴重な資料を十全に管理できません。

この優れた文庫は、三菱草創期の総帥岩崎弥之助によって設立されました。

弥之助の高い志は、現在どのように受け継がれているのでしょうか。

世界遺産水準の古典籍とその環境は、もっと大切にされてよいはずです。Photo国宝・重要文化財が80点以上、と言うのも偉観です。

担当者は、一階向かって右の部屋で閲覧しました。

お世話になった学芸員の方々に感謝します。

帰りに和菓子屋へ立ち寄りましたこと、いつもの通りです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月12日 (火)

夏間近【研究室から】

汗ばむほどの陽気です。

桜はほとんど散り去って、緑が日に日に濃くなります。

源氏物語の4月は、旧暦ですから勿論初夏。

4月を描いた印象深い巻のひとつが蓬生です。

赤鼻の姫君末摘花は広大なお屋敷にわびしく暮らし、偶然光源氏と再会。

この巻には様々な草木が書き込まれています。

浅茅・葎・松・藤・橘・忍ぶ草そして蓬。

江戸時代前期の写本でご覧ください。Photo中程、5行目に「四月ばかりに花ちるさとを」とあります。

ここから、源氏が荒廃した常陸宮邸を通りかかる話へ発展。

古風で不器用、容貌も冴えませんが、物語中最も幸せな女性のひとりでしょう。

是非ご自分でお確かめ願います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年3月30日 (水)

楽しみ方【研究室から】

ご本山の境内もキャンパスも、桜満開。

とくに図書館脇の階段から絶景が楽しめます。

そしてこの季節の楽しみには、やはり桜餅が欠かせません。

まず織部の小皿と取り合わせて、見参見参。Photo(焼き上がりが強く、織部の緑釉が赤く変化しています)

東西の桜餅については、以前お話ししました。

皆さんは桜餅を召し上がる時、葉の塩漬けをどうされますか。

勿論、剥いて食べる方が多いでしょう。

豪快にそのまま、と言うのも、野趣満点で結構かと思います。

担当者のお勧めは、碗に葉を入れて熱湯を注ぐことです。Photo_2 しばらく待つと、香り高い桜湯の出来上がり。

李朝白磁の碗は、学生の頃から愛用しているものです。

お好みの器で、是非お試しください。

まもなく春のキャンパスに新入生の笑顔があふれるでしょう。

では、次年度もごひいきに。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年3月20日 (日)

花の頃【研究室から】

桜が咲き始めました。

花の枝に愛らしい鳥が遊んでいるのをよく見かけます。

鶯と思っていらっしゃる方も多いようですけれど、これはメジロ。

鶯はもっと地味な色合いです。

この季節、いろいろな和菓子が店頭に並びます。

鶯餅、草餅、桜餅などのお話はまた次回以降として、お彼岸にちなむものを。

おはぎですが、春秋によって呼び分けると言う説に従えば、牡丹餅です。

柿右衛門手の小皿に載せて、見参。Photo皿はそれほど古くありません(150年くらい前の作)。

ハート型の透かしは「猪目」と言います。

さて、日本文学科を優秀な成績で卒業された学生さんの話題。

このホームページを見て、鶴見を選んでくださったのです。

お父様が大の骨董好き、とうかがいました。

小道具の古伊万里や黄瀬戸をおもしろがっていただいているようです。

担当者にとって、これほどうれしい話はありません。

頑張らなくちゃ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年3月 9日 (水)

凜として【研究室から】

里山の風が、遠くからゆかしい薫りを運んで来ます。

梅の花の盛りです。

芳香を惜しげもなくふりまき、しかもおもねった印象はありません。

凜として枯れ野に咲いています。

日差しを受けて、輝くばかり。Photoさて、来週は卒業式です。

鶴見の丘から羽ばたいて行かれる学生さんに、心から拍手!

喜びと感動に満ちた未来でありますように。

社会に出られてからも、是非遊びにお越しください。

図書館には、仕事に役立つ書物もたくさん揃っています。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年2月25日 (金)

春待つ里山【研究室から】

風は冷たいながら、さすがにおだやかな日差しとなりました。

少し足を伸ばして、里山の散策。

枯れ葉の道やにお積みの田など、冬の風情が残っています。Photo念のため申しますと、これは東京都内の景色です。

谷戸の奥に棚田があったり、湧き水には小野小町の話が伝わっていたり。

どこを見ても飽きない里山でした。Photo_2気ままに半日、ほとんど誰にも会わない静かな山路。

(明日あたり筋肉痛になるのでは、と少し心配です)

まだ入試や学期末の行事の行事が続きます。

お元気でお過ごしください。

そして家にこもることの多いこの頃、ときには野山を歩いてみませんか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年2月11日 (金)

春立てば【研究室から】

立春過ぎての雪となりました。

平安時代の和歌では、春になって降る雪が「残りの雪」です。

消え残っている雪ではありません。

(この話、以前記事にしました)

「春たてば花とや見らん白雪のかかれる枝にうぐひすのなく」

数ある古今集版本のうち、江戸時代に最も早く出版された本でご覧ください。Sagabonkokinshu左から2行目、素性法師の歌です。

右から2行目「鶯のこほれる涙」が読めますか。

冬の寒さに鶯の涙さえ凍る、と言う着想のこまやかさ!

伝嵯峨本と呼ばれる、堂々の書物です。

同じ読むのであれば、贅沢な本。

本学図書館には、多くの古典籍があります。

展示や授業で実物に接することが出来るでしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月19日 (水)

初花【研究室から】

前回が初音、今日は初花です。

桜は勿論、梅も咲くには少し早そう。

食べ物の話です。なじみの和菓子屋さんにありました。

ふんわりとした形を牛皮で作っています。

早速、花三島の皿と取り合わせ。Photo皿は李朝前期です(お菓子は出来たて)。

和菓子屋のご主人は、「初花」か「此の花」か迷われたようです。

「此の花」は大阪ゆかりなので、「初花」にされたとか。

(「此の花」がなぜ大阪に縁があるのかはお調べください)

なお、このお店の先代は、俳句や郷土史に造詣の深い方でいらっしゃいました。

では、寒中おすこやかにお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室