【研究室から】

2022年1月 8日 (土)

初音【研究室から】

あけましておめでとうございます。

珍しく横浜にも雪が積もりました。

初音と言っても、さすがに鶯はまだ鳴きません。

『源氏物語』の巻の名前です。

六条院の豪奢な春を描いており、室町時代には新年に読むお公家様もいました。

さて光源氏36歳の正月、明石姫君が住む御殿を訪れます。

「童・下仕など御前の山の小松を引き遊ぶ」楽しげな住まいです。

そこへ姫君の母明石の御方から「髭籠ども、破子など」が届けられました。

(髭籠・破子はヒゲコ・ワリゴと読みます)

300年以上昔に刊行された絵入小型本の、当該場面をご紹介。Img20220108_16343656姫君の前に、松の枝に付けた消息や髭籠が描かれます。

松を引くのは、「今日は子の日なりけり」だから。

(今年の初子は11日です)

春の年中行事はたくさんありますので、お調べくださってはどうでしょうか。

では、本年もごひいきに。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年12月 2日 (木)

白菊【研究室から】

近代韻文史を学ばれた方は、井上哲次郎や落合直文の名が思い浮かぶでしょう。

古典和歌を読んだ方は、霜にうつろう花がおなじみ。

食い意地の担当者ですから、栗蒸し羊羹と白菊の取り合わせです。

羊羹は、やはり漱石先生のご意見通り、青磁に盛ります。

(この意見は、どの小説に出てくるのでしょうか)

白菊を象嵌した、高麗青磁の皿をご紹介。Photo_2多分、13世紀の作だと思います。

轆轤で挽き白土を象嵌してまず素焼き、次に青磁釉をかけて再度焼き上げます。

青磁の発祥地である中国にもない、高麗独自の技法です。

ただし近代以降の作が氾濫しています。

万一お求めになる時はご注意ください。

(筋の悪い贋作も、研究的な模作も、とにかく市場にあふれています)

近代韻文史に戻って、今週土曜日(4日)日本文学会の大会がございます。

山田先生は、短歌と飛行機のおもしろい組み合わせでご講演。

入場無料・予約不要ですので、是非お越しください。

お待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年10月20日 (水)

寝耳に水【研究室から】

文房具の話。

明窓浄几に精良の文房具は、大きな喜びです。

(この、暮らしにくい世の中であればこそ)

その主役は、何と言っても筆墨硯紙。

しかし脇役にもこと欠きません。

筆筒・硯屏・文鎮、そして水滴。

雀や蛙、犬など水滴の意匠はさまざまです。

瀬戸の焼き物をひとつお目にかけます。Photo水が出るのは、気持ちよさそうに眠る猫の耳。

寝耳に水、の文房具です。

厳めしい虎が鼻から水を出す、なかなか秀逸な水滴も。

なお、本学科を長く指導してくださった貞政少登先生の遺墨展がございます。

11月20日(土)より26日(金)まで、上野の森美術館にて開催。

学内にポスターも掲示されています。

文房具へ戻り、お好みの主役・脇役で机辺を飾ってみてはいかがでしょう。

さて、秋の夜長にもう少し調べ物!

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年9月 9日 (木)

景物【研究室から】

窓の外は、虫の声。

調べ物や執筆にふさわしい夜長となりました。

さて、秋の風情を代表するものはなんでしょう。

(食べ物については次回に)

鹿の鳴く音・雁・草花のいろいろ・霧と露・・・

眼に見、耳に聴いて季節を実感することは少なくなりました。

それでは可憐な景物をひとつ、丸々とした壺と取り合わせてお目にかけます。Photo古代より好まれた萩の花。

万葉集の歌人達がしばしば取り上げた素材です。

勿論、平安時代以降も鹿の花妻として秋歌に欠かせません。

萩の歌を集めるだけで、一大歌集が出来るでしょう。

「秋萩のいろづく秋をいたづらにあまたかぞへておいぞしにける」

「秋」が重なって無造作な印象です。

しかし勅撰集に入っているのは、率直な嘆老の詠が評価されたからでしょう。

お若い方々には、まだ縁のない話。

なお、静謐な白磁は李朝の焼き物です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月29日 (日)

似せること【研究室から】

秋間近、そろそろ勉学も再開しなければ。

「まなぶ(学ぶ)」は「まねぶ(真似ぶ)」ことから始まります。

模倣してみる・何かに似せることが、学びの第一歩です。

(最初から独創的な仕事が出来れば、それは天才)

さて、こんな例はどうでしょう。Chocolate扇形の古伊万里、あっさりとした染付です。

上に載せた貝殻、ではなく、実はチョコレート。

その筋では有名な菓子職人さんの作だそうです。

到来物を使いました(自分では買いません)。

ここまで真似ると、食欲がわかない人もおられるでしょう。

和菓子でも、牡丹や藤の花を実物大に作ることがあります。

驚くほど迫真的、しかし観賞用で食べはしません。

東西の差でしょうか。

この貝は、撮影後担当者の胃袋にめでたく収まりました。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月19日 (木)

博さ・深さ【研究室から】

幸田露伴の誕生日が近づきました。

慶応3年(1867)、7月23日と26日の両説あります。

これを新暦に直すと、1ヶ月ずれて8月となるわけです。

博識かつ多趣味、広い関心事の一つ一つがとてつもなく深い。

多趣味の中でも、将棋と釣りは生涯の楽しみでした。

京都帝国大学で国文学を教えていた頃は、生け花の本格的修行。

そして弟子をお供に釣り。

無鑑札ゆえに罰金を取られたこともあったとか。

教室では、なかなかの名講義だったようです。

ただし、大きな頭が邪魔になって黒板が見えづらかったと言われています。

結局京の水に合わず、在職わずか1年で東京へ。

このあたりの話は、青木正児博士が『琴棋書画』で楽しく語っておられます。

(青木正児は、アオキ・マサルと読みます)Photoこれは露伴の旧蔵書『古今要覧稿』。

博覧強記の作家にふさわしい書物ですが、右下をご覧願います。

蔵書印「有水可漁」、いかにも釣り道楽の人ですね。

露伴は、小説・戯曲・随筆・考証論文と多作。

とりあえず『幻談』と『連環記』をおすすめします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月 4日 (水)

腕に覚え【研究室から】

暑いですね、と言ってみたところで涼しくもならず。

せめて机辺の楽しみを。

さて、書画骨董には写し物が多く、なかなかおもしろくも厄介。

腕を磨くために古作を写すことは、立派な心がけです。

しかし他方、いわゆる偽物の制作も行われました。

ともあれ和歌の本歌取りにならって、手本となる作品を「本歌」と呼びます。

まずは水滴を1つご覧ください。Photo淡い飴釉に梅の花を型押ししています。

(印花とも言います)

釉の流れが景色となっていて、好感の持てる作です。

もう1つ、これはどうでしょう。Photo_2丸々としたかわいい水滴。

どちらが本歌で、どちらが写しかわかりますか。

上は加藤宇助さんで昭和の作、下は鎌倉末期くらいの古瀬戸。

手に取ってみれば差は歴然、しかし画像ですと迷う方もおられるかと。

宇助さんは轆轤の名人でした。

腕自慢の焼き物作りでしたが、しかし写し物の意図はなかったと思います。

自分が鎌倉時代の陶工ならこんな風に、と轆轤に向かわれたのでは。

本歌に制約される写し物と異なり、のびのびと自由な作柄です。

有名な「永仁の壺」とも関わりがあって、おもしろい方のようです。

この話は長くなりますので、ここにはとても書き切れません。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年7月25日 (日)

花開きて香散ず【研究室から】

蓮の花盛りです。

緑深い葉も、葉の上の露も、あでやかな花も、それぞれに結構ながら、

水面に広がる、高い香りがすばらしい。

(睡蓮もまた別種の魅力がありますので、別の機会に)Photo昨日の昼下がり、花も暑さにやや力なし。

では、朝の姿はいかに。Photo_2早起きはしてみるもの、ですね。

「はちす葉のあたりの風もかをりあひて心の水を澄ます池かな」

下句の悟達ぶりが嫌みですけれど、まあ秀歌ということにしましょう。

香りをお届け出来ず、すみません。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年7月14日 (水)

波紋さまざま【研究室から】

今日は、パリ祭。フランス革命記念日です。

革命の影響は、驚くほど広く遠くに及びました。

波紋の結果が肯定的なものばかりではなかったことは、勿論です。

C.ディケンズやA.フランスの小説をお読みください。

中世からの伝統で、パーチメントの見事な宗教書が作られましたけれども、

革命以後、美術品としても価値の高い大型写本は見られなくなる、とか。

(東京芸大の先生から聞いたところを受け売り)

書物の歴史から姿が消える直前の写本は、こんな風情。Img20210714_18020502ラ・マルセイエーズの歌声が響く少し前のグレゴリオ楽譜です。

中世の写本に比べると、ずいぶんすっきりとして読みやすくなっています。

音符が四角であることや4線譜であることも、面白いでしょう。

ハイドンが活躍し、モーツアルトが生まれる頃に作られました。

縦50㎝に迫る大型本は、存在感十分。

革命以後作られなくなった書物の、形見です。

文化大革命や明治維新後の廃仏毀釈については、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年6月16日 (水)

嘉祥【研究室から】

めでたい字が並びます。

今日(16日)は、「嘉祥頂戴」のゆかしい日でした。

(南宋の通貨、嘉定通宝と関係があると言う説も)

江戸時代、お菓子を拝領したり贈答したり、の年中行事です。

公家も武家も、そして町人たちもお菓子のやりとりを楽しみました。

明治以降ほとんど廃れてしまい残念。

現在「和菓子の日」と言われているのは、そのなごりです。

となれば、この月はやはり「水無月」。

ういろう生地に小豆を散らしています。

もともと関西のお菓子でしたが、最近こちらでも見かけるようになりました。

シンプルで涼しげな品に爽やかな染付皿を組み合わせて、お目にかけます。Photo染付は中国南方の窯、清朝前期でしょうか。

(ピンボケのようですが、もともと滲んだ絵柄です)

読書の合間には、是非お茶とお菓子を。

お気に入りの器があれば、申し分なし。

鶴見大学文学部日本文学科研究室