【研究室から】

2019年2月12日 (火)

春は名のみの【研究室から】

厳しい寒さが続きます。

とは言え、あちこちで梅が咲き始めました。

草の芽吹きも春の訪れを告げています。

そこで、例の器と和菓子。

Photo 皿は室町の根来(ネゴロと読んでください)。

500年以上経て、さすがに貫禄十分。

草餅も、倭名類聚抄に「久佐毛知比」と載り、由緒あるお菓子です。

3月3日に食すのが平安時代以来の故実らしいですけれど、美味しい時に。

間違っても根来を囓ってはいけません。

ともあれ、学生の皆さんと受験生の方々のご健康を祈ります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年1月24日 (木)

大と小と【研究室から】

オホナムチ・スクナヒコナ(大汝・小比古尼の他、表記は多様)の昔から

大小対となるものがたくさんあります。

ただ今女性に人気の刀・脇差もそのひとつ。

いろいろな例を捜してみると、面白いでしょう。

本日は伊万里の大小です。Photo 大きい方は食器、小さいのは化粧品(たとえば白粉)を入れるもの。

小さい蓋物の直径が約7.5糎、可愛い焼き物です。

3段重ねですが、1段分なくなってしまいました。

(担当者がなくしたわけではありません、念のため)

不完全でも、並べてお見せすると小さい方が好まれます。

「なにもなにも小さきものはみなうつくし」(枕草子)。

では、時節柄十二分のご自愛を。

受験生のみなさんは特に気をつけて。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年1月 8日 (火)

読書始め【研究室から】

新しい春を迎えました。倍旧のご贔屓を願い上げます。

その昔、貴族達は年の初めに格調高い、もしくは風雅な書物を読みました。

日本書紀であったり、古今集であったり、時には仏典であることも。

三条西家で源氏物語の初音巻を読んだことは、よく知られています。

Photo 江戸時代後期の豆本を出してみました。

手の中にすっぽり収まってしまう可愛らしさは特筆もの。

保存も刷りも上々です(自慢したくて仕方がない)。

皆様は何を読まれましたか。

しばらくすると試験の季節です。

受験生の方も、大学生の方も、風邪には十分気をつけて。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年12月29日 (土)

冬の花【研究室から】

と言っても、福寿草ではありません。

自転車を乗り回していて、出会った黄色の花。

蝋細工のような光沢と濃い香りの先から、冬の日が斜めに差しておりました。

Photo ロウバイです。

勿論、うろたえたわけでもありません。

ここで、近代文学に関心のある方は、立町老梅を思い出していただけますか。

(『吾輩は猫である』に出てきます。猫は相当の難物ですよ)

思い出されなかった方は、文庫本と共に除夜の鐘をどうぞ。

よいお年をお迎えください。来年もご贔屓に。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年12月18日 (火)

若書き【研究室から】

卒業論文はいかがでしたか。

思い通りに、それとも、もう少し頑張れば・・・。

次は定期試験です。あともう一山、それを過ぎると春が近づきます。

さて、みなさんとほぼ同じ年齢で、近代の作家は何を書いていたでしょうか。

漱石は比較的遅い出発ですが、学生の頃見事な漢文で『木屑録』を綴ります。

尾崎紅葉はすでに大家かつ売れっ子でした。

面白いのは、芥川龍之介の最初の作品が『老年』だと言うこと。

幸田露伴も、若い時代に晩歳老境を語る小説を書いています。

『太郎坊』です。音に聞こえた『五重塔』よりずっとおもしろいでしょう。

頭の薄くなった亭主の昔話仕立てですが、相手をするおかみさんも見事。

「伊万里の刺身皿」「同じ永楽」「中は金襴地で外は青華で」などと

すらすら続けられる女性が、はて、向こう三軒両隣におられましょうや。

道具修行をかなり積まないと、このおかみさんのようにはなりません。

左利き必読、となれば、盃を並べてみたくなります。

Photo 古伊万里染付筒型猪口から左回りにご紹介。

絵瀬戸盃・明呼子盃・無地志野猪口・李朝粉引盃です。

台は李朝の漆器、時折これで飯を食います。

(担当者は、情けないことに下戸)

では、お風邪など召しませぬよう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年12月 5日 (水)

輝く音楽【研究室から】

今日は、モーツアルトの命日です。ご存じでしたか。

明快な構成、繊細で陰翳に富む旋律、絶妙の転調・・・

彼の音楽を聴くことは、大きな喜びです。

音楽史上最高の神童は、亡くなるまでその楽才を輝かせていました。

と言うより、才能を伸ばし続けた、のではないでしょうか。

十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人、の皮肉とまったく逆です。

(講師で俊英、准教授で知恵者、教授になったらただの人、とは申しません)

天才を偲んで、その頃作られた器をご紹介します。

Photo ひょっとすると、バッハくらいまで遡るかもしれません。

捻文輪花の古伊万里染付鉢、お菓子は添え物です。

お定まりのレクイエムを出さない、このひねくれが担当者の身上。

さて、今週土曜には日本文学会秋季大会がございます。

どうぞお越しください。お待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年11月13日 (火)

ひとからひとへ【研究室から】

と申しても、物騒な感染症のことではありません。

人が愛玩し育てたものについて、です。

器であれば伝世品。掘りの手(発掘品)と対比されています。

たとえ粗末な碗であれ、猫の餌入れみたいな皿であれ、

長い年月、人の手を経たものには不思議な艶やかさが備わります。

(野趣横溢、新鮮素朴な掘りの手も、勿論魅力的です)

風景も同様、手間暇かけて幾世代も受け継がれた里山や庭の美しさ!

凝り過ぎた、あるいは媚びたお庭は、思わせぶりで嫌みですけれど。

ともあれ、ひさしぶりに谷戸の地形を生かした庭園へ。

Photo しばらく前に載せました雑木林の風情と比較してください。

時折ししおどしの音が、のどかに聞こえてきました。

さて、日本文学会秋季大会は目下鋭意準備中です。

御案内は次回といたします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年11月 1日 (木)

晩秋【研究室から】

神無月も昨日で終わり。

源氏物語には十月の場面が多く描かれました。

華やかな紅葉の賀、光源氏の住吉詣、薫が出生の秘密を聞くのもこの月です。

神無月を惜しみ、帚木巻から左馬頭の述懐をご紹介。

Photo 「神無月のころほひ」ある上人に誘われ、

月の美しい夜宮中から一つ車に乗ってみれば、

なんと行く先は自分の愛人の家。

上人(「しょうにん」と読んではいけません)と色めいたやりとりをする。

左より2行目、上人(殿上人です)が左馬頭の愛人に歌を詠みかけ・・・

あとはご自分でどうぞ。

江戸時代前期の写本、秋草の金泥下絵が洒落ています。

大学ではこれから、いろいろな書類や手続きが必要となるでしょう。

特に4年生のみなさんは、遺漏のないよう気をつけて。

寒さに向かう時節がら、体調管理も大切です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年10月19日 (金)

十三夜【研究室から】

明後日は旧暦の9月13日、栗名月です。

8月15日の芋名月を眺めた方は、栗のほうもどうぞ。

一方だけ賞美することは、片見月または片月見と言われました。

(この両語、どちらかがmetathesisを起こしたのではないでしょうか)

十三夜をめでる習慣は、平安時代(10世紀)に成立しています。

では、例によって和菓子と器を。

Photo 織部の小皿に薯蕷饅頭を載せています。

薄の焼き印と月、緑は野原でしょうか。

さて、明日から大学祭(紫雲祭)が始まります。

最終日が十三夜ですので、月を眺めつつの家路も風流かと。

そうそう申し忘れました。

まさか『十三夜』を読んだことがない、とは仰らないでしょうね。

樋口一葉のこの小説を読むと、益田太郎冠者の「癇癪」を思い出します。

桂文楽が絶品でした。

ここから近代の大茶人鈍翁へ話を延ばすこともできますが、それはまた。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2018年10月 7日 (日)

武蔵野【研究室から】

青空が一段と深いこの頃、雑木林や丘陵を歩くのはとても楽しいことです。

関東の木々は派手な色づき方をしません。

地味で落ち着いた味わいを見せてくれます。

平安時代の都人士は、錦繍燦爛の紅葉を賞翫しました。

武蔵野の詩趣の発見は、明治以降だと思います。

日本近代文学の小さからぬ功績でしょう。

Photo小説や詩の中を散策してみてはいかが。

(早い話が、本を読め、と言うこと)

たくさんの書物を読んでいる、というのは、

社会が日本文学科の学生さんに期待することのひとつです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室