2022年8月13日 (土)

芳香【研究室から】

夏休みもほぼ半ば、計画通り進んでいますか。

暑さにげんなりしているところへ、小荷物到来。

旧真桑村(現本巣市)の友人が届けてくれました。

荷を開けると、部屋中に薫りが満ちあふれます。

そう、マクワウリ。

あっさりと癖のない味、そして品の良い芳香が特徴です。

ウリは2000年以上の昔から、日本で好まれてきました。

その中でも、最も有名な品種がマクワウリ。

文学作品、特に江戸のものにはしばしば登場します。

では、旧真桑村のマクワウリをご覧ください。Photo本場中の本場物、皿は芙蓉手古伊万里染付です。

(この古伊万里は江戸中期の作、なかなかの名品)

しかし旧真桑村でも現在は作る農家が少ないとか。

淡泊な食感は、強い味に慣れた現代人の好みにあわないのかもしれません。

残念なことです。

なんとか広まってほしい、と担当者は思います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年8月 1日 (月)

100年前の鶴見【研究室から】

暑い日が続きます。

それを理由に、ホームページ更新を怠けたわけではありません。

おもしろい資料を見つけ、古本屋さんから届くのを待っていたから、です。

パノラマを折りたたんだ小さな本1冊、奥付に年紀がありません。

しかし案内文が付いていて、大正頃(1912~1926)の図とわかります。

今の体育館のあたりに大きな池があったり、JR鶴見駅が省線鶴見であったり。

もちろん、大学・短大は創立以前。Photo_2このような絵図は結構たくさん作られました。

郷土資料として有益、とても楽しい鳥瞰図となっています。

しかし、ご本山にも大学にもほとんど所蔵されていないのは、残念です。

いくつか手元に集まってきていますので、いずれご紹介。

では、十二分のご自愛を。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年7月13日 (水)

文月の源氏【研究室から】

明日はパリ祭です。

仏蘭西革命自体に関心がうすくとも、詩人や画家がうたげを開く日でした。

(音楽家は、パリ祭にあまり熱心でなかったようです)

近代俳句の句の季語にもなっているほど。

だんだん下火になった理由はわかりません。

毎年革命記念日にちなむ記事を書いてきましたが、ついに種切れ。

困ったときは紫式部頼み、と言うことで、椎本巻を取り上げます。

宰相中将から中納言に昇進した薫が、久しぶりに宇治を訪れる場面です。Photo上質の斐紙に金泥下絵、品の良い能書です。

2行目以下「まいり給へり、七月ばかりになりにけり、宮こには

    まだいりたゝぬ秋のけしきを、音羽山ちかく」と続きます。

名文として評価の高いところです。どうぞご自分でお読み願います。

念のため申しますと、旧暦では7月から秋。

来年のパリ祭までに適切な道具を探しますので、これにてご勘弁ください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年6月30日 (木)

薫り、ほのか【研究室から】

猛烈な暑さを口実に、なまけております。

日が傾いてから思い立って散策。

少し歩くだけでも汗が噴き出してきます。

蓮のつぼみを見つけて、ほっとしました。

まだ開いてはいませんが、それでも水の上にほのかな薫り。Photo_2蓮の沢は水が冷たく、手を浸して一息つきました。

「蓮の香や水をはなるる茎二寸」(蕪村)

帰宅して「さあ調べ物を」と言うほど殊勝ではありません。

また、ぐうたらの続きです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年6月16日 (木)

嘉祥【研究室から】

今日(6月16日)は、お菓子の贈答が吉例となっておりました。

江戸時代の末まで行われていたようです。

現在は「和菓子の日」に呼び名が変わっています。

年号の嘉承(848~851)に縁があるとも言われますが、確証なし。

南宋の嘉定通宝16枚で菓子を購入した、との説もあります。

いわれはともかく、おいしいものをお気に入りの器で楽しみましょう。Photo

薄緑の栗饅頭? いえいえ梅の実のデザインです。

この季節、青梅がおなじみですけれど、漢籍には黄色の梅の実が出てきます。

熟した梅の実や熟する時期は「黄梅」。

そして高坏風の器は、中国南方の素朴な染付です。

暑くなったら、アイスクリームを載せてもおいしそう。

なお、先日の「庖丁、研ぎまさあ」は好評でした。

黒板先生に拍手。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年6月 2日 (木)

北条時政と義時【研究室から】

鎌倉殿の噂話が好評のようです。

(担当者はテレビをほとんど見ませんので、実のところ不案内)

先日の記事の通り、かつて合同研究室で「権記の会」が開かれていました。

熱心に指導してくださったのは、黒板伸夫先生です。

ある時、いつも穏やかな先生のお顔が、少し引き締まったように見えました。

そして、ゆっくりとお話が始まります。

「鎌倉に、刃物を研いでまわる職人がおりまして」

先生のご専門は平安時代史ですが、有職故実や制度史にもお詳しい。

中世都市の珍しい史実について話されるに違いない、と一同謹んで拝聴。

先生、続けて「庖丁、研ぎまさあ!」。

笑ってよいものかどうか、迷っておりますと、追い打ちがかかります。

「あとから息子が、おやじ、止しとき」。

親子二代の名を織り込んだ、先生渾身の洒落です。

念の為、余計な説明をしますと「庖丁、研ぎまさあ」(北条時政)、

「止(よ)しとき」(義時)です。

先生のうれしそうなお顔が、今も目に浮かびます。

では、北条時政・義時の時代に作られた焼き物をご紹介。

(ただし日本の陶磁器ではありません)Photo高麗青磁に桑の小枝をあしらっています。

実は、このページを見てくださっている方から、苦言がございました。

「お前の『~は、いずれ』は、一向に実現しない」と。

そこで、黒板先生の「いずれ」を今回書いてみた次第です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年5月24日 (火)

味の品格【研究室から】

みちのくのお土産を頂戴しました。江戸時代から続く老舗のお菓子です。

早速お茶を淹れて、一口。

驚きました。砂糖の味がしません。麦芽糖つまり水飴の味のみです。

基本的な素材は、米と水飴。あっさりとして、深い滋味を感じます。

実に淡泊で落ち着きのある和菓子です。

派手な包装はせず、端正に切り分けただけのその形には潔さと気品。

と申しても伝わりませんので、織部の小皿に載せてお目にかけます。Photo織部は幕末の作、和菓子とよく調和する器です。

現在、刺激や甘みを追求した、色合いの強い食べ物があふれています。

担当者思うに、品のなさと紙一重。

それはそれで無視しがたい潮流なのでしょうが、

控えめな味やすっきりとした形も忘れてはならない、と思います。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」です。

(君子は、勿論「きみこ」ではありません)

お米で申せば、なんとかヒカリや何々コマチではなく、たとえば初霜。

メロンばかりではなく、時にはマクワウリ。

落ち着いた穏やかな味の食べ物こそ永く愛されるはず。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年5月11日 (水)

追懐【研究室から】

今日は、黒板伸夫先生のご命日です。

深い学殖と細やかな歴史理解が、そのご研究にあふれています。

国文学・漢文学にもお詳しい先生でした。

少年の頃、昔昔春秋や擬古事記文を愛読されたのですから、おそろしい学力。

さてその昔、合同研究室で隔週「権記の会」が開かれておりました。

先生は構成員のお一人、と申すより実質的な指導者でした。

(博覧比類を絶した希代の碩学太田晶二郎氏は、

 記録読みに抜群の力量を示される先生を高く評価されていました)

担当者も幸い参加を許されましたが、輪読の当番はいつも冷や汗もの。

実は当方、記録読みは全くの独学、国史の授業にさえ出たことがありません。

(若い頃は生意気で、大抵のことは独学でなんとかなる!と思っていました)

愚かしい読みをしても、最後まで穏やかなお顔で聞かれ、

その後、丁寧に、ゆっくりと、正解を説明してくださるのです。

無知蒙昧の徒が一知半解にまで驚異的飛躍を遂げましたのは、

ひとえに先生の噛んで含めるご指導あってこそ。

また、先生は鶴見大学、特に図書館を応援してくださいました。Photo_3平成16年(2004)1月の展示にご来館、手前は奥様です。

(奥様は歴史小説家、「永井路子」の筆名はどなたもご存じでしょう)

展示「源氏物語の楽しみ方」を熱心にご観覧中です。

来学されると、一服差し上げるのが常でした。

(一服盛る、ではありません。念のため)

どの器で出そうか、お菓子は何にするか、と考えるのがこちらの楽しみ。

では、当時の机上を再現します。Photo_4茶碗は李朝刷毛目、小皿は伊万里の色絵です。

今日は、一日モーツアルトを聴いて過ごしました。

ご夫妻はモーツアルト協会の会員でしたから。

言葉遊び大好きの黒板先生につきましては、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月28日 (木)

新緑のふみくら【研究室から】

緑豊かな山の上で、久しぶりの古典籍調査。

風格ある建物が20万点の書物を守っています。

学生の頃から通い慣れた静嘉堂文庫です。

本年度から、専任の司書を置くことがなくなったのは、とても残念。

立派なふみくらでも、人の手なしでは貴重な資料を十全に管理できません。

この優れた文庫は、三菱草創期の総帥岩崎弥之助によって設立されました。

弥之助の高い志は、現在どのように受け継がれているのでしょうか。

世界遺産水準の古典籍とその環境は、もっと大切にされてよいはずです。Photo国宝・重要文化財が80点以上、と言うのも偉観です。

担当者は、一階向かって右の部屋で閲覧しました。

お世話になった学芸員の方々に感謝します。

帰りに和菓子屋へ立ち寄りましたこと、いつもの通りです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年4月12日 (火)

夏間近【研究室から】

汗ばむほどの陽気です。

桜はほとんど散り去って、緑が日に日に濃くなります。

源氏物語の4月は、旧暦ですから勿論初夏。

4月を描いた印象深い巻のひとつが蓬生です。

赤鼻の姫君末摘花は広大なお屋敷にわびしく暮らし、偶然光源氏と再会。

この巻には様々な草木が書き込まれています。

浅茅・葎・松・藤・橘・忍ぶ草そして蓬。

江戸時代前期の写本でご覧ください。Photo中程、5行目に「四月ばかりに花ちるさとを」とあります。

ここから、源氏が荒廃した常陸宮邸を通りかかる話へ発展。

古風で不器用、容貌も冴えませんが、物語中最も幸せな女性のひとりでしょう。

是非ご自分でお確かめ願います。

鶴見大学文学部日本文学科研究室