2019年5月17日 (金)

源氏物語の五月【研究室から】

日一日と緑が濃くなる初夏のこの頃、いかがお過ごしでしょうか。

源氏物語には、5月を描いたところがいくつか出てきます。

よく知られているのは、やはり花散里の巻でしょうか。

「二十日の月、さしいづるほど」とありますので、ちょうど今頃です。

江戸の文人は巻の風情を「猶有杜鵑悲往事 橘花香処一声啼」と詠じました。

南北朝の抄出写本では、次のようになっています。

Photo 一部分をお示ししました。

こんな本で読めば、また格別。

何で読んでも変わらないではないか、と仰る声が聞こえてきそうです。

もし、あなたが人も羨む大富豪でいらっしゃるならば、

少しくらい安手でしみったれた学問でも、まあよろしいでしょう。

しかし、一生遊んで暮らせるほどの資産をお持ちでなければ、

せめて学問くらい贅沢にしようではありませんか。

すてきな書物は、贅沢のひとつです。

さて、5月26日(日)は、オープンキャンパス

午後1時より開催します。

図書館ではいろいろな貴重書を展示しますので、是非おいでください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年5月 9日 (木)

ものは器で【研究室から】

爽やかな季節となりました。ますます勉強がはかどるでしょう。

それはそれとして、和菓子を頂戴しました。

何と取り合わせたものか、あれこれ思案。

結局、交趾焼の小皿を取り出すこととなりました。

いかにも清朝らしい龍の刻紋に透明な黄釉が掛けられています。

Cimg0011_2 「ものは器で食わせる」の言い回しが、落語のあちこちに出てきます。

お好みの器で季節の食材を楽しみましょう。

百年二百年を経た器であれば、なお結構。

落語で古い器と言えば、いろいろありますが、まず「猫の皿」。

古今亭志ん生が味のある茶屋の親父を語っておりました。

それはよく知られていますので、古伊万里の犬の皿はどうでしょう。

井伏鱒二『荻窪風土記』をお読みあれ。

高麗梅鉢の皿と猫、古伊万里の食器と犬。

好一対かと。

なお、新元号「令和」にちなみ図書館でミニ展示を開催しています。

わずか3点ですが、古活字版は名品です。

また、番付風一枚物は珍しい資料でしょう。是非御覧ください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年4月27日 (土)

書物の美【研究室から】

藤の花が揺れ、躑躅も鮮やかに咲く季節。

まことに「春のわかれは藤つつじ」(佐藤春夫)です。

さて、前回の続きのようなお話。

本は、もちろん中味、つまり内容が大切です。

しかし装丁や料紙、活字そして挿絵もまた、無視し得ない要素でしょう。

秀抜な造形感覚により周到念入りに作られた書物は、理屈抜きで素晴らしい。

Photo 100年以上前に英国で作られた本です。

(下の時計もほぼ同じ頃の製作で、これは脇役。

 時間を忘れて読書する、と演出したつもり)

縦横比が普通の本とは少し違っていて、洒落た姿をしています。

丁寧な仕上げのモロッコ皮も洗練の箔押しも、十分に魅力的です。

「文学研究にとって書誌学はどんな意味を持つか」を問うのではありません。

(書誌学的知識なしに高度の国文学研究は不可能ですし)

感動すべきものに素直な反応のできない方が、もしいらっしゃるとすれば、

失礼ながら、人として基本的な何かを欠いておられるのではないでしょうか。

暴論だ、のご意見は十分承知の上で、かくの如く申し上げました。

さあ、連休中にたくさん本を読みましょう。

なるべくならば、美しい本で。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年4月16日 (火)

磨く、鍛える【研究室から】

花吹雪の次は新緑。

楠や欅の若葉が陽光に輝く日も間近です。

その前の時期、白く飛ぶ綿毛をご存じですか。

と言っても、蒲公英(何と読むのでしょう)ではありません。

柳絮です。

Photo 実物はまた別の機会として、貞政少登先生の作品をご紹介。

白く胡粉で文様を刷った唐紙風の料紙に、淡墨が冴えています。

(撮影の技が拙劣、すみません)

かなりの長鋒を自在にこなして書かれました。

文字の組み方・墨色・空間処理など、練りに練った作品でしょうけれど、

出来上がりは律動的で軽妙に、どこまでも楽しそうに。

書に限らず絵でも彫刻でも工芸でも、造形のおもしろさに反応できる感性を、

大学生の間にしっかり磨き、鍛えてください。

学業と同じくらい大切なことです。

社会人となっても、心豊かな日々を送れますから。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年4月 2日 (火)

ことしも【研究室から】

見事に桜が咲きました。

新入生のみなさん、大学はすてきなところです。

学ぶことの楽しさを実感し、友達の輪を広げてください。

図書館への階段から眺めた桜です。

Photo キャンパスのあちこち、そしてご本山にも美しく咲いています。

あいにく花冷えの曇り空。

体調管理に気をつけて新学期をお迎えください。

ついでに申しますと、夜桜も風情があってなかなか結構。

「狐鳴くや手児奈の里の花の宵」(無名氏)

さて、図書館のミニ展示は花祭りまで。

かなり遠くから来てくださった一般の方がいらっしゃいます。

ご来場、感謝。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年3月23日 (土)

花信風【研究室から】

居眠りを誘う陽気と思えば、冬のような寒さ。

それでもあちこちから花だよりの舞い込む季節となりました。

小雨の昼下がり、郊外の城跡へ。

気温が低く、しかもあいにくの空模様ゆえ、

花弁を閉じたままのカタクリがほとんどでした。

とは言え、静かに日差しを待つ控えめな風情は、なんとも可憐です。

Cimg0010 2輪寄り添うところが、好もしいではありませんか。

大学の桜も綻びはじめました。

お元気で新学期をお迎えください。

なお3月29日(金)より4月8日(月)まで、

図書館にてミニ展示「文華荘厳」が開催されます。

地味ながら、珍しい古典籍公開。

大きな話題となりました顔真卿と同時代の資料も4点出されます。

お誘い合わせて、どうぞ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年3月 6日 (水)

稚桜【研究室から】

ご本山勅使門脇に、早咲きの桜が揺れておりました。

ごく若い桜です。

堂々の老樹もまことに結構ですが、若木のみずみずしさは格別。

上代文学を勉強された方は、ワカザクラの含まれる地名を思い出しませんか。

(桜を名に持たれる天皇は、さてどなたでしょう)

担当者は、「瑩日瑩風高低萬顆之玉」の詩句を思い出しました。

と申しますのは、瑩山禅師ゆかりの境内ですので。

Photo もうしばらくで、キャンパス全体が花に包まれる季節となります。

今春入学される方々にも、予定通り単位修得が出来た学生さんにも、

この時期にはお祝いを申し上げたいところですが、

さしあたってまず、ご卒業の皆様の未来が輝かしいものでありますように。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年2月23日 (土)

小物の魅力【研究室から】

カタクリはあと少し、桜も今年は早そうです。

でもその前に、くしゃみ・鼻水の季節。

気分を変えるべく、お気に入りの文房具を取り出します。

古い硯滴です。

(「水滴」と仰る方が多いようです)

南北朝、と言うところでしょうか。

Photo 700年ほど前、瀬戸で焼かれました。

高さ約4.5糎、掌(たなごころ)の骨董!

さて皆さんは、この器に何を思われますか。

こぼれるほどの愛嬌、素朴と野趣、練達の技・・・

担当者は古武士の風格を感じます。

無事卒業の日を迎えられる方も、まだ学びの日が続く方も、

お気に入りの小物で机を飾ってみてはいかがでしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年2月12日 (火)

春は名のみの【研究室から】

厳しい寒さが続きます。

とは言え、あちこちで梅が咲き始めました。

草の芽吹きも春の訪れを告げています。

そこで、例の器と和菓子。

Photo 皿は室町の根来(ネゴロと読んでください)。

500年以上経て、さすがに貫禄十分。

草餅も、倭名類聚抄に「久佐毛知比」と載り、由緒あるお菓子です。

3月3日に食すのが平安時代以来の故実らしいですけれど、美味しい時に。

間違っても根来を囓ってはいけません。

ともあれ、学生の皆さんと受験生の方々のご健康を祈ります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2019年1月24日 (木)

大と小と【研究室から】

オホナムチ・スクナヒコナ(大汝・小比古尼の他、表記は多様)の昔から

大小対となるものがたくさんあります。

ただ今女性に人気の刀・脇差もそのひとつ。

いろいろな例を捜してみると、面白いでしょう。

本日は伊万里の大小です。Photo 大きい方は食器、小さいのは化粧品(たとえば白粉)を入れるもの。

小さい蓋物の直径が約7.5糎、可愛い焼き物です。

3段重ねですが、1段分なくなってしまいました。

(担当者がなくしたわけではありません、念のため)

不完全でも、並べてお見せすると小さい方が好まれます。

「なにもなにも小さきものはみなうつくし」(枕草子)。

では、時節柄十二分のご自愛を。

受験生のみなさんは特に気をつけて。

鶴見大学文学部日本文学科研究室