2024年6月20日 (木)

時と所【研究室から】

和菓子の話です。

季節感は、その魅力のひとつ。

そして、土地ごとの素材や作り方も和菓子を楽しむ大切な要素です。

今月は、なんと言っても水無月。

ういろう生地に小豆を載せた、いたって単純な作りです。

形もすっきりと簡潔、暑い夏に氷の意匠で涼しさを演出します。

もともと関西のお菓子でしたが、最近はこちらでもよく見かけます。

では、波佐見の染付皿と組み合わせて見参。Photoどこでも手軽に求められるのは結構ですが、

その季節にその土地で味わう楽しみは薄れます。

昔、本所吾妻橋に羊羹と豆大福のおいしいお店がありました。

白いのれんにお店の名前が書いてあり、小さくともすっきりとした構え。

夏のこと、豆大福を買いに出かけましたが、お店には大福の影も形もなし。

ご主人に尋ねたところ、

「大福には、季節があります。秋から冬が一番おいしい」とのこと。

夏に大福なんぞとんでもない、と言う顔つきでした。

「では、夏は何を作られますか」と質問。

答えは「すだれ羊羹」でした。さっそく購入したことは勿論です。

仕入れ物ではなく自家製のすだれ羊羹を作る和菓子屋さんはあるのでしょうか。

お店をたたんでしまわれたのは、とても残念です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年6月 9日 (日)

取り合わせ【研究室から】

6号館から本山鐘楼にかけて、紫陽花がたくさん咲いています。

少し盛りを過ぎたようですけれど、まだ十分鑑賞出来るでしょう。

万葉歌人に詠まれてはいるものの、その後はあまり注目されなかった歌題です。

院政期から用例が増えてきます。

紫陽花の特徴を「よひら」(4枚の花弁)と捉えるのが、和歌の約束事。

さまざまな景物と取り合わせます。

「あぢさゐのよひらの八重に見えつるは葉ごしの月のかげにぞありける」

これは、紫陽花と月光。

「あぢさゐの下葉にすだく螢をばよひらのかずの添ふかとぞ見る」

紫陽花と螢は、なかなか幻想的で美しい。

白磁の壺と取り合わせてみますと・・・

Photo白磁と申しましても、乳白色に近い暖かな風情。

青白磁の、ちょいと取り澄ました雰囲気とはまた別の味わいです。

手前の蓋は蓮の葉をかたどっています。元か、下っても明初と言うところ。

さて、先ほどの和歌2首、作者はだれかお調べください。

紫陽花にちなむ和菓子もいくつかあります。

また、ユスラウメ・ヤマモモ・桑の実など、野趣横溢の味も楽しめる季節です。

食べ物の話は、次回。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年5月23日 (木)

ほととぎす【研究室から】

梅雨間近です。

木々の緑が日ごとに濃くなり、紫陽花も咲き始めました。

源氏物語の5月は、雨夜の品定め・螢の巻の物語談義など、多彩。

花散里の巻は「五月雨の空めづらしく晴れたる」日のことを綴っています。

では、明暦3年(1657)安田十兵衛版で御覧ください。Photo光源氏が見上げる夜空に、月と時鳥。

「二十日の月さし出づるほどに」とありますが、月はどう見ても満月に近い。

羽根を毟られた鶏のように見えるのが、ほととぎすです。

大学や本山でほととぎすを聞いたことはありません。

多摩丘陵や鎌倉の山間では、さかんに鳴いています。

同じ名前の植物もありますので、お調べください。

ついでに申しますと、ほととぎすが登場する仏典もあるのです。

(偽経とされていますけれど)

この話はいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年5月 5日 (日)

やはり今日は【研究室から】

気持ちのよい晴天。

若葉が風に揺れて、自転車を走らせるのにも好適な日でした。

自転車でどこへ出かけたかと言えば、なじみの和菓子屋です。

別の話題にしようかとも思いましたが、やはり今日は・・・

古伊万里の佳品と取り合わせて、お目にかけます。Cimg0044柏餅の色合いが冴えないところは、ご勘弁ねがいます。

逆に、染付皿が派手に写ってしまいました。

適宜補正してごらんください。

さて柏餅の古い用例を探していますが、なかなか見つからず。

椿餅や草餅、亥子餅ほどの伝統はないようです。

室町時代半ば以前の用例をご存じの方は、是非お教えください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年4月27日 (土)

新緑【研究室から】

あっという間に桜は散り、藤・躑躅の季節となりました。

キャンパスも研究棟も緑が濃くなっています。

風に揺れ、陽の光が舞う若葉は、花に劣らぬ美しさ!

「おしなべてこずゑ青葉になりぬれば

 松のみどりもわかれざりけり」

どなたの詠であるかは、お調べください。

図書館への道から、三松関を眺めてみました。2まだキャンパスをごらんになっていない皆さん、是非一度おいでください。

これから、いろいろな催しがございます。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年4月 8日 (月)

花曇り【研究室から】

図書館脇も研究棟まわりも、桜が綺麗です。

花曇りの今日、本山の境内へ下りてみました。

花に包まれた勅使門が、ひときわ見事です。

今日は花祭り、かしこまって言えば釈尊降誕会。

Photo少し暗い画面となりました。すみません。

新入生の皆さんも大学院進学の方も、遅ればせながらおめでとうございます。

何か困ったら、また困らなくても、研究室を訪ねてみてください。

よほど忙しいときは別として、大歓迎!
Photo_2
境内から丘の上を振り返れば、木立の間に見える煉瓦色が研究棟。

大学は楽しいところです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年3月30日 (土)

乱高下【研究室から】

と言いましても、何かの値段ではありません。

気温です。

嵐の昨日、初夏のような今日。

桜の見頃はもう少し先でしょう。

まずは、食い意地で。Photoこの季節、おなじみの桜餅です。

香の高さが何より魅力。

器は絵唐津、江戸時代前期の作でしょう。

高台をお見せ出来ないのは残念ですが、抜群の土味です。

さて、隅田川縁の桜餅は有名になりすぎ、のんびり味わう気分になれません。

(なんとかツリーの影響もありそう)

昔、三囲神社や弘福寺のあたりは静かな、そして少し粋な雰囲気でした。

撫で牛、ねずみ取り名人の犬の像、雨乞いの句碑は健在でしょうか。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年3月 8日 (金)

雪と花と【研究室から】

関東は雪模様となりました。

研究室からご本山の境内へ出ると、早咲きの桜と遅い雪とが見られます。

紀貫之の名歌を思い出される方もいらっしゃるかと。

「桜散る木下風は寒からで空にしられぬ雪ぞちりける」

落花を雪に譬えていますが、今日は本物の雪です。

(「木下風」は「このしたかぜ」とお読み願います)

では、勅使門のあたりをご覧ください。Photo_2和歌では「木下風は寒からで」と言っていますが、さすがに寒い朝でした。

お風邪など召しませぬように。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年2月10日 (土)

甘党【研究室から】

2月9日は、夏目漱石の誕生日です。

慶応3年(1867)正月5日の生まれですが、新暦に直せば2月9日。

文章のうまさ、と言うより、思索を広く深く展開する文章の力に感心します。

漱石は、ジャムをなめたり砂糖豆をかじったりの甘党でした。

なかでも羊羹、それも青磁の器に盛ったものを絶賛しています。

(どの小説かはお調べ願います)

では、ご覧ください。Photo高麗青磁、立菊白黒象嵌の皿です。13世紀の作と判断します。

(羊羹は13世紀ではありません)

北海道の和菓子屋さんが作りました。

材料に小豆を使わないところ、ちょいと変わった味です。

さて漱石小説の魅力の一つは、女性像でしょう。

たとえば『彼岸過迄』の千代子。

(小間使いの作もなかなかうまく書かれています)

「男は卑怯だから、さう云ふ下らない挨拶が出来るんです」

これは名台詞、どう思われますか。

つい「研究者は卑怯だから、そう言うくだらない理屈をこねるのです」

などと言ってみたくなり・・・

泉鏡花や芥川龍之介、また室生犀星の甘い物好きについては、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2024年1月31日 (水)

梅咲きぬ【研究室から】

研究室から出て、本山の境内を歩きました。

白梅がほころびはじめています。

「梅咲きぬどれがむめやらうめじゃやら」

蕪村の句です。

「あらむつかしの仮名遣ひやな、字儀に害あらずんば、アアままよ」の前書。

何のことやら、と思われるでしょう。

かの大学者本居宣長によれば、梅は「むめ」と書くべき、とか。

ともあれ咲き始めた境内の梅です。Photo蕪村は、意味が損なわれなければどちらでもよい、ようです。

なお碩学亀井孝さんに関連の論文がありますので、どうぞ。

(これがさらさらと読めるならば、あなたの学識は大変な水準です)

なお亀井さんは、20年ほど前の1月に亡くなられました。

鶴見にも来ていただいたことがあります。

この話は、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室