2023年9月24日 (日)

彼岸のころ【研究室から】

研究室から本山参道へ下りて、少し涼しくなった境内へ。

この時期、墓参や諸堂拝観の方々が多く来られるのに出会います。

余計なことを申せば、仏教発祥の地インドに彼岸法要はありません。

ゆかりの人々を偲ぶ、日本の伝統行事です。

(中国の彼岸については、まったく知識なし)

ただし平安時代では、転居や縁結び、通過儀礼に適した吉日でもありました。

源氏物語では、秋の彼岸に新造の六条院へ引っ越ししています。

それはそれといたしまして、彼岸と言えばおはぎ。

波佐見の古い染付に載せて、見参見参。Photo台は李朝の漆器です。

なじみの和菓子屋さんでは、白胡麻のおはぎを出しています。

ちょいと珍しいでしょう。

担当者のふるさとでは、稲の取り入れが終わった後、おはぎを作って祝います。

「秋あげ」と言っておりました。

しかしそのふるさとは、少しずつ荒廃が進んでいます。

穀物輸出大国が食料輸入に転じ、人口爆発が起こった時、

一体私たちはどうすればよいのでしょうか。

と、至極真面目な話となったところで、今回はこれまで。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年8月29日 (火)

秋草【研究室から】

研究棟からご本山の境内へ下りてみます。

日差しはまだ強いものの、木陰に入るとさすがに秋の気配。

萩の花が咲き始めていました。

しなやかな枝が風になびく風情は、捨てがたいもの。

ただし、撮影が難しい花です。Photo万葉人が好み、雅号に萩を取り入れた学者や文学者もおりました。

芳宜園(加藤千蔭)・芽垣内(奥田常雄)・萩之家(落合直文)など。

樋口一葉は中島歌子の萩之舎に学んでいます。

この花を詠んだ歌や俳句は山ほどありますので、お好みの作を探してはいかが。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月31日 (月)

花盛り【研究室から】

「夏ごろ、はちすの花のさかりに」とは、源氏物語鈴虫巻の書き出しです。

蓮は、実が入った花托の形が蜂の巣ににているところから名付けられました。

蓮の実は、勿論食べられます。美味かつ薬効も期待できるとか。

源氏物語では、小野の山里を訪れた客に蓮の実が出されました。

今の時期は、蕾と花托との両方が見られます。Photo蓮は仏教と縁の深い植物です。

しかし中国では、釈尊以前から花を愛で、根や実の利用が盛んです。

また艶やかな花の姿から、美女を連想することがありました。

蓮の音が「憐」と同じなので、異性への情感も重なります。

(「憐」には可愛く思う、の意味があります)Photo_2近くの蓮田まで足をのばすと、このような風景に出会います。

猛暑の候、十二分のご自愛を。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月14日 (金)

ごあんない【研究室から】

来週土曜日(22日)は、日本文学会60周年記念大会が開催されます。

研究発表1本と講演2本の豪華な催しです。

伊倉史人教授、渡部泰明国文学研究資料館館長、そして久保田淳先生がご登場。

久保田先生のお話は、なかなかうかがえる機会がありません。

皆様、お誘い合わせて是非どうぞ。入場無料・予約不要です。

鶴見大学記念館記念ホール、13時より開催。

さて、暑い季節に涼しげな和菓子はいかがでしょう。

霙羹に緑色の餡を包み、瓢箪の形でまとめています。

(撮影が下手なところ、すみません)Photoお気づきでもありましょうが、器を紹介したくてこの記事としました。

幕末明治の瀬戸です。高坏の器型は中国南方の窯でも時折見かけます。

染付も、洒落た意匠を引き立てるアクセント。

しかし時代や産地はどのようにして特定出来るのでしょうか。

いずれそんなお話もいたします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月 5日 (水)

まなぶ【研究室から】

暑さのしのぎにくい毎日です。

夜になって涼しい風が吹く折は、ほっとします。

木々や竹を吹き過ぎる風は、雨の音のようにも聞こえます。

古人はこれを漢詩や和歌に表現しました。

Photo2行目「風吹枯木晴天雨」がその例。

3行目と4行目は涼しげな光景が詠まれます。

(和漢朗詠集ですので、お調べください)

さて、眼力に自信のある方に質問。

この本をいつごろの書写とお考えでしょうか。

書風だけから判断すれば、平安末期と言うところでしょう。

でも実物を見ると、紙質・装丁は江戸時代。

となれば、相当の古写本を巧妙に模写したもの、と推定出来ます。

古い筆跡を「まなぶ」結果、生まれた書物ですね。

「まなぶ」の基本は「まねぶ」(真似る)こと。

種明かしをしますと、模写の原本は逸翁美術館(大阪池田市)にあります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月23日 (金)

豪華記念大会【研究室から】

60周年を迎える日本文学科の、記念春季大会です。

来聴大歓迎、どなたでもどうぞ。Photo 令和5年7月22日(土)

鶴見大学記念館地下2・3階 記念ホール

総会 12:30~12:50

研究発表 13:00~14:20

堯恵の『百人一首』註釈 伊倉史人(鶴見大学文学部教授)

講演 14:30~17:30

源実朝の和歌      渡部泰明(国文学研究資料館館長)

一首の和歌から これまで学んだこと、今思うこと

            久保田 淳(東京大学名誉教授)Photo_2図書館エントランスホールでは、和歌や源氏物語に関する展示を行います。

こちらへもお出かけください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月 9日 (金)

水無月【研究室から】

梅雨空の毎日です。

旧暦6月は、暑い盛り。

「水無月の土さへ裂けて照る日」(万葉集)や

「水無月の照りはたたく」(竹取物語)がよく知られた例です。

芥川龍之介には「またたちかへる水無月の」から始まる今様があります。

(続きはお調べください)

しかし本題は、食べ物。水無月です。

もともと関西のお菓子でしたが、近年こちらでも見かけるようになりました。Photo古染付の皿に載せて、見参見参。

お店によって多少差がありますけれど、あっさりとしておいしい。

関西には「あこや」と言う和菓子もありますが、

これはなかなか関東に広まりません。

見かけた方は、お知らせください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年5月28日 (日)

花の名【研究室から】

いつもこの時期には、郊外のお寺へ出かけてあじさいを眺めておりました。

(拝観料なし、境内に花があふれる名刹です)

今年は仕事が重なって、出かけられそうもありません。

研究棟脇を歩いてみますと・・・5万葉集には2首、あじさいの花が詠み込まれています。

「味狭藍」「安治佐為」の表記で、歴史的仮名遣いは「あぢさゐ」となります。

紫陽花と書かれることも多いのですが、遡れば白楽天の詩。

ただし白楽天の見た花が、今のあじさいにつながるかどうかは難しい。
3「よひらの花」と言う呼び方もあることは、以前ご紹介しました。

文学に登場する紫陽花につきましては、またいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年5月10日 (水)

青葉がくれ【研究室から】

日一日と緑が深くなるこの頃、桜の舞う風景はもう夢の彼方です。

キャンパスの若葉や木漏れ日、そして吹きすぎる五月の風。

気持ちよく勉強できる季節です、ね。

研究棟から鐘楼の脇を通って、本山の境内へ出てみます。

木立の美しさは、ひとしお。Photo風格ある建物を静かに包む、緑の境内です。

「春のゆくゑをしらぬまに

 ひとの心もうつろひぬ

 髪に舞ひけむさくらばな

 青葉がくれとなりにけり」(読み人知らず)

さて、やはり食い気。

なじみの和菓子屋では、菖蒲饅頭を作っていました。

(織部饅頭を一工夫したもの、焼き印が菖蒲です)

薯蕷をふんだんに使った皮と漉し餡が、とてもおいしい。

妙に気取ったり新しがったりするお菓子より、はるかに上等です。

Photo_2平凡に見えながら、しっかりと作られた食べ物は、なかなかに得がたい。

新茶が楽しみです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年4月17日 (月)

古武士の一喝【研究室から】

徳川家康の噂話をひとつ。

(担当者はテレビをあまり見ませんので、なんどかドラマと関係なし)

家康は大病に苦しみ、医者も匙を投げてしまいました。

天正13年(1593)のこと。

本能寺の変から3年後、豊臣秀吉が関白となった年です。

壮年の家康も、治療をあきらめかけました。

その時、本多重次が家康の気弱を叱りつけます。

重次は家康より13歳年長、松平家譜代の老臣でした。

煮え切らない家康に立腹して帰ろうとする重次を家臣達が呼び止めますと、

これに対しても怒鳴りちらします。

江戸時代の木活字本でご紹介。Photo

3行目「重次大ニ声ヲ怒シテ」以下、読んでみてください。

7行目「大神君」(家康のこと)の上が1字空いています。

闕字と言う敬意表現ですので、日本語学の先生に聞いてみてはいかが。

さて、家康は諫言を聞き入れ、めでたく治癒にこぎつけました。

この重次は、簡潔な手紙によって広く知られています。

「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬こやせ」の作左衛門です。

なお、本日は神君家康公のご命日でした。

鶴見大学文学部日本文学科研究室