2021年12月 2日 (木)

白菊【研究室から】

近代韻文史を学ばれた方は、井上哲次郎や落合直文の名が思い浮かぶでしょう。

古典和歌を読んだ方は、霜にうつろう花がおなじみ。

食い意地の担当者ですから、栗蒸し羊羹と白菊の取り合わせです。

羊羹は、やはり漱石先生のご意見通り、青磁に盛ります。

(この意見は、どの小説に出てくるのでしょうか)

白菊を象嵌した、高麗青磁の皿をご紹介。Photo_2多分、13世紀の作だと思います。

轆轤で挽き白土を象嵌してまず素焼き、次に青磁釉をかけて再度焼き上げます。

青磁の発祥地である中国にもない、高麗独自の技法です。

ただし近代以降の作が氾濫しています。

万一お求めになる時はご注意ください。

(筋の悪い贋作も、研究的な模作も、とにかく市場にあふれています)

近代韻文史に戻って、今週土曜日(4日)日本文学会の大会がございます。

山田先生は、短歌と飛行機のおもしろい組み合わせでご講演。

入場無料・予約不要ですので、是非お越しください。

お待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年11月18日 (木)

秋の夕日に【研究室から】

「照る山紅葉」は高野辰之の作詞です。

そして、日本文学科を長くご指導くださった貞政少登先生の作品でもあります。

11月20日より上野の森美術館にて開催の遺墨展で見られます。

(入場無料、本学所蔵の「鶴」も出展)

貞政先生は、書芸術において最高度の技倆を発揮されました。

墨色の鮮やかさ、構成の巧み、筆線の冴え、いずれも絶品です。

是非お出かけください。

12月4日の日本文学会へもどうぞ。どなたでもお聞きになれます。

さて、「照る山紅葉」へ戻り、高野辰之は「ふるさと」も作詞。

「ふるさと」には海が出てきません。

高野が海のない信州出身であったから、と担当者はにらんでおります。

国文学者として多くの業績を残した高野は、唱歌の作詞も行いました。

同じく国文学者芳賀矢一は海の近くで生まれ、「我は海の子」を作っています。

いい対照ですね。

名刹の紅葉をお目にかけて、今回はここまで。Photo

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年11月 5日 (金)

鶴見日本文学会のご案内

早くも11月を迎えて、日の入りが早くなりました。旧暦では神無月、もう冬の入り口ですね。

さて、コロナ禍のため、日本文学会も長く延期を余儀なくされていましたが、

この12月、いよいよ久しぶりに開催したいと思います。

日時等を、以下の通りご案内いたします。

日時:12月4日(土)14:00-15:30

会場:大学会館(マクドナルド横) 地下1Fホール

【講演】

山田吉郎(本学短期大学部 教授)

「飛行機と近代歌人-夕暮・茂吉・白秋の機上詠をめぐって―」

    ※予約不要、来聴歓迎Photo

今年度で本学を退職される山田先生にご講演いただきます。

授業などで山田先生とご縁のあった方、ご講演の題目に興味を持った方など、

ぜひお誘い合わせの上ご来場ください。

在校生・卒業生はもちろん、周りの方々にもお声かけくだされば幸いです。

【 注意 】

新型感染症の蔓延状態によっては、zoom開催に切り替える可能性もあります。

開催形態を変更する場合、このホームページでお知らせします。

(zoomのURLもあわせてご案内します。)

在籍中の学生には、大学LMSのmanabaでも告知します。

※お出かけくださる前に、開催形態に変更がないか、必ずご確認をお願いします。 

在学生・卒業生をはじめ、所縁の方々と拝眉が叶いますよう念じております。
 
鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年10月20日 (水)

寝耳に水【研究室から】

文房具の話。

明窓浄几に精良の文房具は、大きな喜びです。

(この、暮らしにくい世の中であればこそ)

その主役は、何と言っても筆墨硯紙。

しかし脇役にもこと欠きません。

筆筒・硯屏・文鎮、そして水滴。

雀や蛙、犬など水滴の意匠はさまざまです。

瀬戸の焼き物をひとつお目にかけます。Photo水が出るのは、気持ちよさそうに眠る猫の耳。

寝耳に水、の文房具です。

厳めしい虎が鼻から水を出す、なかなか秀逸な水滴も。

なお、本学科を長く指導してくださった貞政少登先生の遺墨展がございます。

11月20日(土)より26日(金)まで、上野の森美術館にて開催。

学内にポスターも掲示されています。

文房具へ戻り、お好みの主役・脇役で机辺を飾ってみてはいかがでしょう。

さて、秋の夜長にもう少し調べ物!

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年10月 7日 (木)

おっと、あぶない【研究室から】

ご亭主は危険人物、と言うことではありません。

自転車を走らせておりまして、おもしろい狛犬に出会った話です。

狛犬は、時代・地域・素材・石工によって多様な変化があります。

小さなお社の狛犬もそれぞれ個性があって、見飽きしません。

近現代の作は画一的で、面白味が希薄です。

(人件費のせいか石材の問題か、輸入物もかなりありそう)

吽形の狛犬が子供に手を差し伸べる形、ですけれど・・・Photo子供は押されて今にも落ちそう!

必死の抵抗、親の手に食らいついているように見えます。

明治26年(1893)の作。120年以上落ちないその頑張りに、拍手。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年9月23日 (木)

萩と月【研究室から】

「萩の月」ではありません。

(それは東北地方のお菓子です)

古典文学では、月・露・鹿が定番の取り合わせでした。

中秋の名月が過ぎたばかり、月の出がだんだん遅くなります。

「風ふけば玉ちる萩の下露にはかなく宿るのべの月かな」

月と一緒に木星も見られますので、是非どうぞ。

もう1首。

「いはれ野の萩の朝露わけ行けば恋せし袖のここちこそすれ」

お坊さんの歌であるところが、おもしろい。

在俗の時、何か忘れがたいことがあったのでしょう。

この時期、おはぎも忘れるわけにはいきません。Photo藍九谷風の皿に漉し餡のおはぎです。

(藍九谷とは言っても、古伊万里)

おはぎと牡丹餅との違いが、よく話題となります。

昔、少し珍しいおはぎを貰ったことがありました。

餅米を蒸して皿に浅く盛り、その上に餡を載せたものです。

白砂に散った萩の花を、お米と餡とで表現。

「なるほど、おはぎか」と納得しました。

正直申しますと、若い頃はあまり好きではなかったのです。

お気に入りの器に盛って楽しむことが、年とともに多くなりました。

人も風景も好みも、変わります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年9月 9日 (木)

景物【研究室から】

窓の外は、虫の声。

調べ物や執筆にふさわしい夜長となりました。

さて、秋の風情を代表するものはなんでしょう。

(食べ物については次回に)

鹿の鳴く音・雁・草花のいろいろ・霧と露・・・

眼に見、耳に聴いて季節を実感することは少なくなりました。

それでは可憐な景物をひとつ、丸々とした壺と取り合わせてお目にかけます。Photo古代より好まれた萩の花。

万葉集の歌人達がしばしば取り上げた素材です。

勿論、平安時代以降も鹿の花妻として秋歌に欠かせません。

萩の歌を集めるだけで、一大歌集が出来るでしょう。

「秋萩のいろづく秋をいたづらにあまたかぞへておいぞしにける」

「秋」が重なって無造作な印象です。

しかし勅撰集に入っているのは、率直な嘆老の詠が評価されたからでしょう。

お若い方々には、まだ縁のない話。

なお、静謐な白磁は李朝の焼き物です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月29日 (日)

似せること【研究室から】

秋間近、そろそろ勉学も再開しなければ。

「まなぶ(学ぶ)」は「まねぶ(真似ぶ)」ことから始まります。

模倣してみる・何かに似せることが、学びの第一歩です。

(最初から独創的な仕事が出来れば、それは天才)

さて、こんな例はどうでしょう。Chocolate扇形の古伊万里、あっさりとした染付です。

上に載せた貝殻、ではなく、実はチョコレート。

その筋では有名な菓子職人さんの作だそうです。

到来物を使いました(自分では買いません)。

ここまで真似ると、食欲がわかない人もおられるでしょう。

和菓子でも、牡丹や藤の花を実物大に作ることがあります。

驚くほど迫真的、しかし観賞用で食べはしません。

東西の差でしょうか。

この貝は、撮影後担当者の胃袋にめでたく収まりました。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月19日 (木)

博さ・深さ【研究室から】

幸田露伴の誕生日が近づきました。

慶応3年(1867)、7月23日と26日の両説あります。

これを新暦に直すと、1ヶ月ずれて8月となるわけです。

博識かつ多趣味、広い関心事の一つ一つがとてつもなく深い。

多趣味の中でも、将棋と釣りは生涯の楽しみでした。

京都帝国大学で国文学を教えていた頃は、生け花の本格的修行。

そして弟子をお供に釣り。

無鑑札ゆえに罰金を取られたこともあったとか。

教室では、なかなかの名講義だったようです。

ただし、大きな頭が邪魔になって黒板が見えづらかったと言われています。

結局京の水に合わず、在職わずか1年で東京へ。

このあたりの話は、青木正児博士が『琴棋書画』で楽しく語っておられます。

(青木正児は、アオキ・マサルと読みます)Photoこれは露伴の旧蔵書『古今要覧稿』。

博覧強記の作家にふさわしい書物ですが、右下をご覧願います。

蔵書印「有水可漁」、いかにも釣り道楽の人ですね。

露伴は、小説・戯曲・随筆・考証論文と多作。

とりあえず『幻談』と『連環記』をおすすめします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年8月 4日 (水)

腕に覚え【研究室から】

暑いですね、と言ってみたところで涼しくもならず。

せめて机辺の楽しみを。

さて、書画骨董には写し物が多く、なかなかおもしろくも厄介。

腕を磨くために古作を写すことは、立派な心がけです。

しかし他方、いわゆる偽物の制作も行われました。

ともあれ和歌の本歌取りにならって、手本となる作品を「本歌」と呼びます。

まずは水滴を1つご覧ください。Photo淡い飴釉に梅の花を型押ししています。

(印花とも言います)

釉の流れが景色となっていて、好感の持てる作です。

もう1つ、これはどうでしょう。Photo_2丸々としたかわいい水滴。

どちらが本歌で、どちらが写しかわかりますか。

上は加藤宇助さんで昭和の作、下は鎌倉末期くらいの古瀬戸。

手に取ってみれば差は歴然、しかし画像ですと迷う方もおられるかと。

宇助さんは轆轤の名人でした。

腕自慢の焼き物作りでしたが、しかし写し物の意図はなかったと思います。

自分が鎌倉時代の陶工ならこんな風に、と轆轤に向かわれたのでは。

本歌に制約される写し物と異なり、のびのびと自由な作柄です。

有名な「永仁の壺」とも関わりがあって、おもしろい方のようです。

この話は長くなりますので、ここにはとても書き切れません。

鶴見大学文学部日本文学科研究室