2022年2月11日 (金)

春立てば【研究室から】

立春過ぎての雪となりました。

平安時代の和歌では、春になって降る雪が「残りの雪」です。

消え残っている雪ではありません。

(この話、以前記事にしました)

「春たてば花とや見らん白雪のかかれる枝にうぐひすのなく」

数ある古今集版本のうち、江戸時代に最も早く出版された本でご覧ください。Sagabonkokinshu左から2行目、素性法師の歌です。

右から2行目「鶯のこほれる涙」が読めますか。

冬の寒さに鶯の涙さえ凍る、と言う着想のこまやかさ!

伝嵯峨本と呼ばれる、堂々の書物です。

同じ読むのであれば、贅沢な本。

本学図書館には、多くの古典籍があります。

展示や授業で実物に接することが出来るでしょう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月30日 (日)

馥郁【研究室から】

寒い日が続きます。

風邪や流行中の疾疫には十分ご注意ください。

さて、花の少ないこの季節にも、梢から素敵な香りが。

蝋梅です。

つややかな花びらを透かして、冬の陽が降り注ぎます。

江戸時代の初めに朝鮮半島経由で渡来しました。

ですから、これほどの花ながら古典和歌や物語には登場しません。Photo30分ほど自転車を走らせた場所で撮影しました。

馥郁たる香りをお届け出来ないのが、残念です。

では、おすこやかにおすごしください。

特に受験生のみなさんは、万全の体調管理を。

また、多少のことには狼狽しない度胸も必要です。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月19日 (水)

初花【研究室から】

前回が初音、今日は初花です。

桜は勿論、梅も咲くには少し早そう。

食べ物の話です。なじみの和菓子屋さんにありました。

ふんわりとした形を牛皮で作っています。

早速、花三島の皿と取り合わせ。Photo皿は李朝前期です(お菓子は出来たて)。

和菓子屋のご主人は、「初花」か「此の花」か迷われたようです。

「此の花」は大阪ゆかりなので、「初花」にされたとか。

(「此の花」がなぜ大阪に縁があるのかはお調べください)

なお、このお店の先代は、俳句や郷土史に造詣の深い方でいらっしゃいました。

では、寒中おすこやかにお過ごしください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年1月 8日 (土)

初音【研究室から】

あけましておめでとうございます。

珍しく横浜にも雪が積もりました。

初音と言っても、さすがに鶯はまだ鳴きません。

『源氏物語』の巻の名前です。

六条院の豪奢な春を描いており、室町時代には新年に読むお公家様もいました。

さて光源氏36歳の正月、明石姫君が住む御殿を訪れます。

「童・下仕など御前の山の小松を引き遊ぶ」楽しげな住まいです。

そこへ姫君の母明石の御方から「髭籠ども、破子など」が届けられました。

(髭籠・破子はヒゲコ・ワリゴと読みます)

300年以上昔に刊行された絵入小型本の、当該場面をご紹介。Img20220108_16343656姫君の前に、松の枝に付けた消息や髭籠が描かれます。

松を引くのは、「今日は子の日なりけり」だから。

(今年の初子は11日です)

春の年中行事はたくさんありますので、お調べくださってはどうでしょうか。

では、本年もごひいきに。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年12月28日 (火)

雪の花【研究室から】

さすがに年の暮れ、寒いですね。

あちこちで大雪になっているようです。

雪を花に見立てる趣向は古典和歌に多く見られます。

梅や桜になぞらえたり、雪そのものを花ととらえたり。

なるほど雪は六弁の花のようです。

古河のお殿様土井利位は、雪の結晶を研究して『雪華図説』を出しました。

(利位は、としつらと読みます)

無骨な刀装具にも雪の花が一輪。Photo_2「初雪」の家紋に少し似ています。

絶妙の配置に見えますが、皆様はどう思われますか。

担当者は、しゃれた意匠にいたく感心。

今年最後の記事となりました。

「冬ながら空より花のふりくるは雲のあなたは春にやあるらむ」

では、明春。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年12月16日 (木)

燈火ちかく【研究室から】

続けて「衣(きぬ)縫う母は」が出てくる方は、相当のご年配でしょう。

唱歌「冬の夜」の1番です。

2番の「過ぎしいくさの手柄を語る」を覚えておられる方は、もっとご年配。

などと言う話ではありません。

草子巻物を広げ、火を近くともしながら推敲をかさねた歌人がいました。

若くしてなくなった宮内卿が、その人です。冬の歌をまず1首。

「時雨つる木のした露はおとづれて山ぢのすゑに雲ぞなりゆく」

よく知られているのは、恋の歌。

「聞くやいかにうはの空なる風だにも松に音するならひありとは」

享年20歳くらいと言われております。どんな女性だったのでしょうか。

『歌仙部類抄』に絵姿がありますので、お目にかけます。

(勿論、絵師が想像して描いた図)Photo『歌仙部類抄』の絵は、丸顔の親しみやすい女性が多く登場します。

橋本直香の撰、絵は高島千春です。

もっとも愛らしい(と担当者が考える)図をご紹介して、今回はおしまい。

冬の夜長にじっくりと読書なさってください。Photo_2

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年12月 2日 (木)

白菊【研究室から】

近代韻文史を学ばれた方は、井上哲次郎や落合直文の名が思い浮かぶでしょう。

古典和歌を読んだ方は、霜にうつろう花がおなじみ。

食い意地の担当者ですから、栗蒸し羊羹と白菊の取り合わせです。

羊羹は、やはり漱石先生のご意見通り、青磁に盛ります。

(この意見は、どの小説に出てくるのでしょうか)

白菊を象嵌した、高麗青磁の皿をご紹介。Photo_2多分、13世紀の作だと思います。

轆轤で挽き白土を象嵌してまず素焼き、次に青磁釉をかけて再度焼き上げます。

青磁の発祥地である中国にもない、高麗独自の技法です。

ただし近代以降の作が氾濫しています。

万一お求めになる時はご注意ください。

(筋の悪い贋作も、研究的な模作も、とにかく市場にあふれています)

近代韻文史に戻って、今週土曜日(4日)日本文学会の大会がございます。

山田先生は、短歌と飛行機のおもしろい組み合わせでご講演。

入場無料・予約不要ですので、是非お越しください。

お待ちしております。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年11月18日 (木)

秋の夕日に【研究室から】

「照る山紅葉」は高野辰之の作詞です。

そして、日本文学科を長くご指導くださった貞政少登先生の作品でもあります。

11月20日より上野の森美術館にて開催の遺墨展で見られます。

(入場無料、本学所蔵の「鶴」も出展)

貞政先生は、書芸術において最高度の技倆を発揮されました。

墨色の鮮やかさ、構成の巧み、筆線の冴え、いずれも絶品です。

是非お出かけください。

12月4日の日本文学会へもどうぞ。どなたでもお聞きになれます。

さて、「照る山紅葉」へ戻り、高野辰之は「ふるさと」も作詞。

「ふるさと」には海が出てきません。

高野が海のない信州出身であったから、と担当者はにらんでおります。

国文学者として多くの業績を残した高野は、唱歌の作詞も行いました。

同じく国文学者芳賀矢一は海の近くで生まれ、「我は海の子」を作っています。

いい対照ですね。

名刹の紅葉をお目にかけて、今回はここまで。Photo

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年11月 5日 (金)

鶴見日本文学会のご案内

早くも11月を迎えて、日の入りが早くなりました。旧暦では神無月、もう冬の入り口ですね。

さて、コロナ禍のため、日本文学会も長く延期を余儀なくされていましたが、

この12月、いよいよ久しぶりに開催したいと思います。

日時等を、以下の通りご案内いたします。

日時:12月4日(土)14:00-15:30

会場:大学会館(マクドナルド横) 地下1Fホール

【講演】

山田吉郎(本学短期大学部 教授)

「飛行機と近代歌人-夕暮・茂吉・白秋の機上詠をめぐって―」

    ※予約不要、来聴歓迎Photo

今年度で本学を退職される山田先生にご講演いただきます。

授業などで山田先生とご縁のあった方、ご講演の題目に興味を持った方など、

ぜひお誘い合わせの上ご来場ください。

在校生・卒業生はもちろん、周りの方々にもお声かけくだされば幸いです。

【 注意 】

新型感染症の蔓延状態によっては、zoom開催に切り替える可能性もあります。

開催形態を変更する場合、このホームページでお知らせします。

(zoomのURLもあわせてご案内します。)

在籍中の学生には、大学LMSのmanabaでも告知します。

※お出かけくださる前に、開催形態に変更がないか、必ずご確認をお願いします。 

在学生・卒業生をはじめ、所縁の方々と拝眉が叶いますよう念じております。
 
鶴見大学文学部日本文学科研究室

2021年10月20日 (水)

寝耳に水【研究室から】

文房具の話。

明窓浄几に精良の文房具は、大きな喜びです。

(この、暮らしにくい世の中であればこそ)

その主役は、何と言っても筆墨硯紙。

しかし脇役にもこと欠きません。

筆筒・硯屏・文鎮、そして水滴。

雀や蛙、犬など水滴の意匠はさまざまです。

瀬戸の焼き物をひとつお目にかけます。Photo水が出るのは、気持ちよさそうに眠る猫の耳。

寝耳に水、の文房具です。

厳めしい虎が鼻から水を出す、なかなか秀逸な水滴も。

なお、本学科を長く指導してくださった貞政少登先生の遺墨展がございます。

11月20日(土)より26日(金)まで、上野の森美術館にて開催。

学内にポスターも掲示されています。

文房具へ戻り、お好みの主役・脇役で机辺を飾ってみてはいかがでしょう。

さて、秋の夜長にもう少し調べ物!

鶴見大学文学部日本文学科研究室