2023年5月28日 (日)

花の名【研究室から】

いつもこの時期には、郊外のお寺へ出かけてあじさいを眺めておりました。

(拝観料なし、境内に花があふれる名刹です)

今年は仕事が重なって、出かけられそうもありません。

研究棟脇を歩いてみますと・・・5万葉集には2首、あじさいの花が詠み込まれています。

「味狭藍」「安治佐為」の表記で、歴史的仮名遣いは「あぢさゐ」となります。

紫陽花と書かれることも多いのですが、遡れば白楽天の詩。

ただし白楽天の見た花が、今のあじさいにつながるかどうかは難しい。
3「よひらの花」と言う呼び方もあることは、以前ご紹介しました。

文学に登場する紫陽花につきましては、またいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年5月10日 (水)

青葉がくれ【研究室から】

日一日と緑が深くなるこの頃、桜の舞う風景はもう夢の彼方です。

キャンパスの若葉や木漏れ日、そして吹きすぎる五月の風。

気持ちよく勉強できる季節です、ね。

研究棟から鐘楼の脇を通って、本山の境内へ出てみます。

木立の美しさは、ひとしお。Photo風格ある建物を静かに包む、緑の境内です。

「春のゆくゑをしらぬまに

 ひとの心もうつろひぬ

 髪に舞ひけむさくらばな

 青葉がくれとなりにけり」(読み人知らず)

さて、やはり食い気。

なじみの和菓子屋では、菖蒲饅頭を作っていました。

(織部饅頭を一工夫したもの、焼き印が菖蒲です)

薯蕷をふんだんに使った皮と漉し餡が、とてもおいしい。

妙に気取ったり新しがったりするお菓子より、はるかに上等です。

Photo_2平凡に見えながら、しっかりと作られた食べ物は、なかなかに得がたい。

新茶が楽しみです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年4月17日 (月)

古武士の一喝【研究室から】

徳川家康の噂話をひとつ。

(担当者はテレビをあまり見ませんので、なんどかドラマと関係なし)

家康は大病に苦しみ、医者も匙を投げてしまいました。

天正13年(1593)のこと。

本能寺の変から3年後、豊臣秀吉が関白となった年です。

壮年の家康も、治療をあきらめかけました。

その時、本多重次が家康の気弱を叱りつけます。

重次は家康より13歳年長、松平家譜代の老臣でした。

煮え切らない家康に立腹して帰ろうとする重次を家臣達が呼び止めますと、

これに対しても怒鳴りちらします。

江戸時代の木活字本でご紹介。Photo

3行目「重次大ニ声ヲ怒シテ」以下、読んでみてください。

7行目「大神君」(家康のこと)の上が1字空いています。

闕字と言う敬意表現ですので、日本語学の先生に聞いてみてはいかが。

さて、家康は諫言を聞き入れ、めでたく治癒にこぎつけました。

この重次は、簡潔な手紙によって広く知られています。

「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬こやせ」の作左衛門です。

なお、本日は神君家康公のご命日でした。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年4月 4日 (火)

花曇り【研究室から】

桜に由来する表現がたくさんあります。

花冷え・花筏・花の下風・・・

大学から本山の境内へ出かけた日は、花曇りでした。

もう花吹雪となっているでしょう。

(太宰治に『花吹雪』と言う小説があります)3水の上に散れば「花のさざ波」。

新入生のみなさん、大いに学び大いに楽しんでください。

大学は素敵なところです。

近くの古本屋では、お好みの書籍がお手頃に。

季節の味が並ぶ和菓子屋もあります。

「花より団子」ですね。

ついでに余計なことを申しますと、

「このホームページはすばらしい」などとおっしゃるのは「桜言葉」。

どんな意味だか、お調べください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年3月22日 (水)

大きな眼【研究室から】

久しぶりに鎌倉まで出かけました。

緑濃く,鶯はややくたびれた声。

永井路子先生の展示を見るためです。

小さなコーナーに原稿と初版本がならんでいました。

急遽準備して追悼の意を示すところに、地元の心意気を感じます。

本学の図書館にもいろいろ資料がありますので、是非展示を。Photoさて、永井先生の話。

大きな眼がとても印象的な方でした。

昔、切支丹大名牧村政治(まきむら まさはる)について調べたことあり。

彼の関わった玉篇がおもしろいので、論文をひとつ書くつもりでした。

これを永井先生に申し上げますと、先生の大きな眼が輝きました。

政治の生涯及びその縁者のことを、詳しくお話されたのです。

史料の上を虫が這うように、とは先生の持論ですが、なるほどと納得。

作家としてのみならず、歴史家としての技量も恐ろしい水準です。

担当者が論文をお蔵入りさせたことは、申すまでもありません。

(どこかにノートが残っているはず)

明るく気さくな、お人柄でした。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年2月22日 (水)

歌は思へど【研究室から】

ご存じ「早春賦」の一節です。

梅が見頃を迎え、桜便りの待ち遠しいこのごろ。

まだ鶯は「声も立てず」。

そこで梅の蒔絵小皿に、和菓子をあしらうと・・・Photoはい、梅に鶯です。

鶯餅は、椿餅や猪子餅ほどの長い歴史を持っていません。

それでもざっと400年以上の伝統のある和菓子です。

発祥の地は大和郡山とか。

昔、柳沢文庫の調査に出かけたことがあります。

(郡山の藩主は柳沢氏)

文庫はお城の中にあり、閲覧室の雰囲気も窓からの眺めも上々でした。

このようなふみくらの番をして余生を送るのは、理想のひとつでしょう。

時々鶯餅をつまんだりしながら。

夢物語ですね。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年2月 9日 (木)

暦の上では【研究室から】

もちろん春ですが、明日あたり雪の心配もしなければ。

(以前ご紹介したとおり、春に降る雪を「残りの雪」と言いました)

それでも蝋梅が花盛り、早咲きの桜は蕾を開きかかっています。

明治の浮世絵師楊洲周延に『東風俗福づくし』があります。

蝙蝠・呉服など、フクと読む文字にちなんで描き上げた作品です。

高く薫る梅を背景に、あでやかな女性を描いた「馥郁」が佳品。

それはそれとして、馥郁たる蝋梅へもどりますと・・・Photoなかなかの光景でした。

さて、残念なお話をせねばなりません。

歴史小説の分野で大きなお仕事を残された永井路子先生のご逝去です。

評論・随筆・学術的著作にも健筆を振るわれました。

以前、縦横に書き入れのある手沢の国史大系を見たことがあります。

すっかり綴じが緩んでおり、韋編三絶もかくやと思われました。

明るく飾らないお人柄を忘れることは出来ません。Epson001本学に来ていただいた折、おねだりしたサインです。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。

永井先生につきましては、またいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年1月26日 (木)

寒中お見舞い【研究室から】

さすがに大寒、冷えますね。

旧暦ですと、この時期は立春を越えていますから、梅が香る頃。

源氏物語では、明石の姫君の裳着も間近となり、薫物合わせが行われます。

梅が枝冒頭は「御もぎのことおぼしいそぐ、御心おきて世の常ならず」。Epson0014行目「正月のつごもり」以下、読めますでしょうか。

念のため申しますと「つごもり」は末日ではありません。

月の終わり頃ですから「正月つごもり」はちょうど今時分。

光源氏39歳の春、物語ではもうしばらく栄華の時が続きます。

あとはご自分でお読みください。

なお、上の書物は江戸時代前期の写本です。

では、お風邪など召しませぬよう。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年1月 6日 (金)

本年もよろしくお願いいたします【研究室から】

授業再開、憂鬱などとおっしゃってはいけません。

これから定期試験や卒論の口頭試問等々、年度末へ向けての行事が目白押し。

体調管理を怠らないようにしてください。

さて、あけましておめでとうございます。

ことしも日本文学科のホームページをご贔屓に。

初春らしく、お神酒と三宝で御祝いします。

三宝は牡丹唐草の蒔絵、大ぶりですが、雛道具でしょう。Photo載せてあるのは、焼き芋ではありません。そっくりのお菓子です。

(店頭で見かけ、巧みな技と着想に思わず買ってしまいました)

隣の染付は、小山弘治さんの作。

お若い頃、まだ20代ではなかったかと思います。

絵付けのうまさに感心して、求めました。

(勿論,担当者も若かったのです)

では、本年もよろしくお願いいたします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年12月24日 (土)

錦繍残映【研究室から】

あっという間に年の暮れ。

原稿に追われたせいもあり、今年は紅葉探訪に出かけられませんでした。

大学やご本山を歩いて、錦繍のなごりを惜しみます。

六号館の下、常磐木の中に色鮮やかな灌木がありました。Photo境内からなじみの和菓子屋へ。

主人曰く「クリスマスにちなみ、栗を使った饅頭を作りました!」

クリスマスの饅頭は・・・と思い、せっかくのお薦めながら遠慮。

普通の栗饅頭を求めて帰りました。

根来の皿に載せてお目にかけます。Photo_2気取らずたっぷりとした量感が好ましい。

室町時代の根来は、使いやすく温かみのある器です。

では、よいお年をお迎えください。

(もう一回更新するかも知れません)

鶴見大学文学部日本文学科研究室