日一日と緑が深くなるこの頃、桜の舞う風景はもう夢の彼方です。
キャンパスの若葉や木漏れ日、そして吹きすぎる五月の風。
気持ちよく勉強できる季節です、ね。
研究棟から鐘楼の脇を通って、本山の境内へ出てみます。
木立の美しさは、ひとしお。風格ある建物を静かに包む、緑の境内です。
「春のゆくゑをしらぬまに
ひとの心もうつろひぬ
髪に舞ひけむさくらばな
青葉がくれとなりにけり」(読み人知らず)
さて、やはり食い気。
なじみの和菓子屋では、菖蒲饅頭を作っていました。
(織部饅頭を一工夫したもの、焼き印が菖蒲です)
薯蕷をふんだんに使った皮と漉し餡が、とてもおいしい。
妙に気取ったり新しがったりするお菓子より、はるかに上等です。
平凡に見えながら、しっかりと作られた食べ物は、なかなかに得がたい。
新茶が楽しみです。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
徳川家康の噂話をひとつ。
(担当者はテレビをあまり見ませんので、なんどかドラマと関係なし)
家康は大病に苦しみ、医者も匙を投げてしまいました。
天正13年(1593)のこと。
本能寺の変から3年後、豊臣秀吉が関白となった年です。
壮年の家康も、治療をあきらめかけました。
その時、本多重次が家康の気弱を叱りつけます。
重次は家康より13歳年長、松平家譜代の老臣でした。
煮え切らない家康に立腹して帰ろうとする重次を家臣達が呼び止めますと、
これに対しても怒鳴りちらします。
3行目「重次大ニ声ヲ怒シテ」以下、読んでみてください。
7行目「大神君」(家康のこと)の上が1字空いています。
闕字と言う敬意表現ですので、日本語学の先生に聞いてみてはいかが。
さて、家康は諫言を聞き入れ、めでたく治癒にこぎつけました。
この重次は、簡潔な手紙によって広く知られています。
「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬こやせ」の作左衛門です。
なお、本日は神君家康公のご命日でした。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
久しぶりに鎌倉まで出かけました。
緑濃く,鶯はややくたびれた声。
永井路子先生の展示を見るためです。
小さなコーナーに原稿と初版本がならんでいました。
急遽準備して追悼の意を示すところに、地元の心意気を感じます。
本学の図書館にもいろいろ資料がありますので、是非展示を。さて、永井先生の話。
大きな眼がとても印象的な方でした。
昔、切支丹大名牧村政治(まきむら まさはる)について調べたことあり。
彼の関わった玉篇がおもしろいので、論文をひとつ書くつもりでした。
これを永井先生に申し上げますと、先生の大きな眼が輝きました。
政治の生涯及びその縁者のことを、詳しくお話されたのです。
史料の上を虫が這うように、とは先生の持論ですが、なるほどと納得。
作家としてのみならず、歴史家としての技量も恐ろしい水準です。
担当者が論文をお蔵入りさせたことは、申すまでもありません。
(どこかにノートが残っているはず)
明るく気さくな、お人柄でした。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
もちろん春ですが、明日あたり雪の心配もしなければ。
(以前ご紹介したとおり、春に降る雪を「残りの雪」と言いました)
それでも蝋梅が花盛り、早咲きの桜は蕾を開きかかっています。
明治の浮世絵師楊洲周延に『東風俗福づくし』があります。
蝙蝠・呉服など、フクと読む文字にちなんで描き上げた作品です。
高く薫る梅を背景に、あでやかな女性を描いた「馥郁」が佳品。
それはそれとして、馥郁たる蝋梅へもどりますと・・・なかなかの光景でした。
さて、残念なお話をせねばなりません。
歴史小説の分野で大きなお仕事を残された永井路子先生のご逝去です。
評論・随筆・学術的著作にも健筆を振るわれました。
以前、縦横に書き入れのある手沢の国史大系を見たことがあります。
すっかり綴じが緩んでおり、韋編三絶もかくやと思われました。
明るく飾らないお人柄を忘れることは出来ません。本学に来ていただいた折、おねだりしたサインです。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
永井先生につきましては、またいずれ。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
授業再開、憂鬱などとおっしゃってはいけません。
これから定期試験や卒論の口頭試問等々、年度末へ向けての行事が目白押し。
体調管理を怠らないようにしてください。
さて、あけましておめでとうございます。
ことしも日本文学科のホームページをご贔屓に。
初春らしく、お神酒と三宝で御祝いします。
三宝は牡丹唐草の蒔絵、大ぶりですが、雛道具でしょう。載せてあるのは、焼き芋ではありません。そっくりのお菓子です。
(店頭で見かけ、巧みな技と着想に思わず買ってしまいました)
隣の染付は、小山弘治さんの作。
お若い頃、まだ20代ではなかったかと思います。
絵付けのうまさに感心して、求めました。
(勿論,担当者も若かったのです)
では、本年もよろしくお願いいたします。
鶴見大学文学部日本文学科研究室
あっという間に年の暮れ。
原稿に追われたせいもあり、今年は紅葉探訪に出かけられませんでした。
大学やご本山を歩いて、錦繍のなごりを惜しみます。
六号館の下、常磐木の中に色鮮やかな灌木がありました。境内からなじみの和菓子屋へ。
主人曰く「クリスマスにちなみ、栗を使った饅頭を作りました!」
クリスマスの饅頭は・・・と思い、せっかくのお薦めながら遠慮。
普通の栗饅頭を求めて帰りました。
根来の皿に載せてお目にかけます。気取らずたっぷりとした量感が好ましい。
室町時代の根来は、使いやすく温かみのある器です。
では、よいお年をお迎えください。
(もう一回更新するかも知れません)
鶴見大学文学部日本文学科研究室