【研究室から】

2023年7月31日 (月)

花盛り【研究室から】

「夏ごろ、はちすの花のさかりに」とは、源氏物語鈴虫巻の書き出しです。

蓮は、実が入った花托の形が蜂の巣ににているところから名付けられました。

蓮の実は、勿論食べられます。美味かつ薬効も期待できるとか。

源氏物語では、小野の山里を訪れた客に蓮の実が出されました。

今の時期は、蕾と花托との両方が見られます。Photo蓮は仏教と縁の深い植物です。

しかし中国では、釈尊以前から花を愛で、根や実の利用が盛んです。

また艶やかな花の姿から、美女を連想することがありました。

蓮の音が「憐」と同じなので、異性への情感も重なります。

(「憐」には可愛く思う、の意味があります)Photo_2近くの蓮田まで足をのばすと、このような風景に出会います。

猛暑の候、十二分のご自愛を。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月14日 (金)

ごあんない【研究室から】

来週土曜日(22日)は、日本文学会60周年記念大会が開催されます。

研究発表1本と講演2本の豪華な催しです。

伊倉史人教授、渡部泰明国文学研究資料館館長、そして久保田淳先生がご登場。

久保田先生のお話は、なかなかうかがえる機会がありません。

皆様、お誘い合わせて是非どうぞ。入場無料・予約不要です。

鶴見大学記念館記念ホール、13時より開催。

さて、暑い季節に涼しげな和菓子はいかがでしょう。

霙羹に緑色の餡を包み、瓢箪の形でまとめています。

(撮影が下手なところ、すみません)Photoお気づきでもありましょうが、器を紹介したくてこの記事としました。

幕末明治の瀬戸です。高坏の器型は中国南方の窯でも時折見かけます。

染付も、洒落た意匠を引き立てるアクセント。

しかし時代や産地はどのようにして特定出来るのでしょうか。

いずれそんなお話もいたします。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年7月 5日 (水)

まなぶ【研究室から】

暑さのしのぎにくい毎日です。

夜になって涼しい風が吹く折は、ほっとします。

木々や竹を吹き過ぎる風は、雨の音のようにも聞こえます。

古人はこれを漢詩や和歌に表現しました。

Photo2行目「風吹枯木晴天雨」がその例。

3行目と4行目は涼しげな光景が詠まれます。

(和漢朗詠集ですので、お調べください)

さて、眼力に自信のある方に質問。

この本をいつごろの書写とお考えでしょうか。

書風だけから判断すれば、平安末期と言うところでしょう。

でも実物を見ると、紙質・装丁は江戸時代。

となれば、相当の古写本を巧妙に模写したもの、と推定出来ます。

古い筆跡を「まなぶ」結果、生まれた書物ですね。

「まなぶ」の基本は「まねぶ」(真似る)こと。

種明かしをしますと、模写の原本は逸翁美術館(大阪池田市)にあります。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月23日 (金)

豪華記念大会【研究室から】

60周年を迎える日本文学科の、記念春季大会です。

来聴大歓迎、どなたでもどうぞ。Photo 令和5年7月22日(土)

鶴見大学記念館地下2・3階 記念ホール

総会 12:30~12:50

研究発表 13:00~14:20

堯恵の『百人一首』註釈 伊倉史人(鶴見大学文学部教授)

講演 14:30~17:30

源実朝の和歌      渡部泰明(国文学研究資料館館長)

一首の和歌から これまで学んだこと、今思うこと

            久保田 淳(東京大学名誉教授)Photo_2図書館エントランスホールでは、和歌や源氏物語に関する展示を行います。

こちらへもお出かけください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年6月 9日 (金)

水無月【研究室から】

梅雨空の毎日です。

旧暦6月は、暑い盛り。

「水無月の土さへ裂けて照る日」(万葉集)や

「水無月の照りはたたく」(竹取物語)がよく知られた例です。

芥川龍之介には「またたちかへる水無月の」から始まる今様があります。

(続きはお調べください)

しかし本題は、食べ物。水無月です。

もともと関西のお菓子でしたが、近年こちらでも見かけるようになりました。Photo古染付の皿に載せて、見参見参。

お店によって多少差がありますけれど、あっさりとしておいしい。

関西には「あこや」と言う和菓子もありますが、

これはなかなか関東に広まりません。

見かけた方は、お知らせください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年5月28日 (日)

花の名【研究室から】

いつもこの時期には、郊外のお寺へ出かけてあじさいを眺めておりました。

(拝観料なし、境内に花があふれる名刹です)

今年は仕事が重なって、出かけられそうもありません。

研究棟脇を歩いてみますと・・・5万葉集には2首、あじさいの花が詠み込まれています。

「味狭藍」「安治佐為」の表記で、歴史的仮名遣いは「あぢさゐ」となります。

紫陽花と書かれることも多いのですが、遡れば白楽天の詩。

ただし白楽天の見た花が、今のあじさいにつながるかどうかは難しい。
3「よひらの花」と言う呼び方もあることは、以前ご紹介しました。

文学に登場する紫陽花につきましては、またいずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年5月10日 (水)

青葉がくれ【研究室から】

日一日と緑が深くなるこの頃、桜の舞う風景はもう夢の彼方です。

キャンパスの若葉や木漏れ日、そして吹きすぎる五月の風。

気持ちよく勉強できる季節です、ね。

研究棟から鐘楼の脇を通って、本山の境内へ出てみます。

木立の美しさは、ひとしお。Photo風格ある建物を静かに包む、緑の境内です。

「春のゆくゑをしらぬまに

 ひとの心もうつろひぬ

 髪に舞ひけむさくらばな

 青葉がくれとなりにけり」(読み人知らず)

さて、やはり食い気。

なじみの和菓子屋では、菖蒲饅頭を作っていました。

(織部饅頭を一工夫したもの、焼き印が菖蒲です)

薯蕷をふんだんに使った皮と漉し餡が、とてもおいしい。

妙に気取ったり新しがったりするお菓子より、はるかに上等です。

Photo_2平凡に見えながら、しっかりと作られた食べ物は、なかなかに得がたい。

新茶が楽しみです。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年4月 4日 (火)

花曇り【研究室から】

桜に由来する表現がたくさんあります。

花冷え・花筏・花の下風・・・

大学から本山の境内へ出かけた日は、花曇りでした。

もう花吹雪となっているでしょう。

(太宰治に『花吹雪』と言う小説があります)3水の上に散れば「花のさざ波」。

新入生のみなさん、大いに学び大いに楽しんでください。

大学は素敵なところです。

近くの古本屋では、お好みの書籍がお手頃に。

季節の味が並ぶ和菓子屋もあります。

「花より団子」ですね。

ついでに余計なことを申しますと、

「このホームページはすばらしい」などとおっしゃるのは「桜言葉」。

どんな意味だか、お調べください。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年3月22日 (水)

大きな眼【研究室から】

久しぶりに鎌倉まで出かけました。

緑濃く,鶯はややくたびれた声。

永井路子先生の展示を見るためです。

小さなコーナーに原稿と初版本がならんでいました。

急遽準備して追悼の意を示すところに、地元の心意気を感じます。

本学の図書館にもいろいろ資料がありますので、是非展示を。Photoさて、永井先生の話。

大きな眼がとても印象的な方でした。

昔、切支丹大名牧村政治(まきむら まさはる)について調べたことあり。

彼の関わった玉篇がおもしろいので、論文をひとつ書くつもりでした。

これを永井先生に申し上げますと、先生の大きな眼が輝きました。

政治の生涯及びその縁者のことを、詳しくお話されたのです。

史料の上を虫が這うように、とは先生の持論ですが、なるほどと納得。

作家としてのみならず、歴史家としての技量も恐ろしい水準です。

担当者が論文をお蔵入りさせたことは、申すまでもありません。

(どこかにノートが残っているはず)

明るく気さくな、お人柄でした。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2023年2月22日 (水)

歌は思へど【研究室から】

ご存じ「早春賦」の一節です。

梅が見頃を迎え、桜便りの待ち遠しいこのごろ。

まだ鶯は「声も立てず」。

そこで梅の蒔絵小皿に、和菓子をあしらうと・・・Photoはい、梅に鶯です。

鶯餅は、椿餅や猪子餅ほどの長い歴史を持っていません。

それでもざっと400年以上の伝統のある和菓子です。

発祥の地は大和郡山とか。

昔、柳沢文庫の調査に出かけたことがあります。

(郡山の藩主は柳沢氏)

文庫はお城の中にあり、閲覧室の雰囲気も窓からの眺めも上々でした。

このようなふみくらの番をして余生を送るのは、理想のひとつでしょう。

時々鶯餅をつまんだりしながら。

夢物語ですね。

鶴見大学文学部日本文学科研究室