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2022年5月

2022年5月24日 (火)

味の品格【研究室から】

みちのくのお土産を頂戴しました。江戸時代から続く老舗のお菓子です。

早速お茶を淹れて、一口。

驚きました。砂糖の味がしません。麦芽糖つまり水飴の味のみです。

基本的な素材は、米と水飴。あっさりとして、深い滋味を感じます。

実に淡泊で落ち着きのある和菓子です。

派手な包装はせず、端正に切り分けただけのその形には潔さと気品。

と申しても伝わりませんので、織部の小皿に載せてお目にかけます。Photo織部は幕末の作、和菓子とよく調和する器です。

現在、刺激や甘みを追求した、色合いの強い食べ物があふれています。

担当者思うに、品のなさと紙一重。

それはそれで無視しがたい潮流なのでしょうが、

控えめな味やすっきりとした形も忘れてはならない、と思います。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」です。

(君子は、勿論「きみこ」ではありません)

お米で申せば、なんとかヒカリや何々コマチではなく、たとえば初霜。

メロンばかりではなく、時にはマクワウリ。

落ち着いた穏やかな味の食べ物こそ永く愛されるはず。

鶴見大学文学部日本文学科研究室

2022年5月11日 (水)

追懐【研究室から】

今日は、黒板伸夫先生のご命日です。

深い学殖と細やかな歴史理解が、そのご研究にあふれています。

国文学・漢文学にもお詳しい先生でした。

少年の頃、昔昔春秋や擬古事記文を愛読されたのですから、おそろしい学力。

さてその昔、合同研究室で隔週「権記の会」が開かれておりました。

先生は構成員のお一人、と申すより実質的な指導者でした。

(博覧比類を絶した希代の碩学太田晶二郎氏は、

 記録読みに抜群の力量を示される先生を高く評価されていました)

担当者も幸い参加を許されましたが、輪読の当番はいつも冷や汗もの。

実は当方、記録読みは全くの独学、国史の授業にさえ出たことがありません。

(若い頃は生意気で、大抵のことは独学でなんとかなる!と思っていました)

愚かしい読みをしても、最後まで穏やかなお顔で聞かれ、

その後、丁寧に、ゆっくりと、正解を説明してくださるのです。

無知蒙昧の徒が一知半解にまで驚異的飛躍を遂げましたのは、

ひとえに先生の噛んで含めるご指導あってこそ。

また、先生は鶴見大学、特に図書館を応援してくださいました。Photo_3平成16年(2004)1月の展示にご来館、手前は奥様です。

(奥様は歴史小説家、「永井路子」の筆名はどなたもご存じでしょう)

展示「源氏物語の楽しみ方」を熱心にご観覧中です。

来学されると、一服差し上げるのが常でした。

(一服盛る、ではありません。念のため)

どの器で出そうか、お菓子は何にするか、と考えるのがこちらの楽しみ。

では、当時の机上を再現します。Photo_4茶碗は李朝刷毛目、小皿は伊万里の色絵です。

今日は、一日モーツアルトを聴いて過ごしました。

ご夫妻はモーツアルト協会の会員でしたから。

言葉遊び大好きの黒板先生につきましては、いずれ。

鶴見大学文学部日本文学科研究室