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2024年7月 6日 (土)

貴重書ミニ展示「西洋写本零葉」

貴重書ミニ展示のお知らせです。

現在、当館所蔵の西洋写本零葉を、国立西洋美術館の企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」に貸出しています。当館では多数の西洋写本零葉をコレクションしており、その中からいくつかご紹介します。(零葉とは綴じられていた本から切り離されたもの)

第95回鶴見大学図書館貴重書ミニ展示「西洋写本零葉」

【会期】

2024年7月8日(月)~7月31日(水)

【開館時間】

月曜~金曜:8時50分~21時

土曜:8時50分~18時

日曜:休館

7月15日(月/祝)は授業実施日のため開館。8時50分~21時

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【展示資料】

  • 時祷書の零葉2枚:聖母マリアのための聖務日課 (朝課)
  • 聖書 (零葉):詩篇1番~6番(ハープを弾くダヴィデ王)
  • 聖務日課書 (第 413-414 葉: ビフォリウム) :聖人共通の聖務日課
  • 聖務日課唱集 (Antiphonarium) (断片) :待降節第4主日(日曜日)のアンティフォナ« シオンで角笛を吹き Canite tuba »のイニシアル C (?)

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時祷書の零葉2枚:聖母マリアのための聖務日課 (朝課)​

羊皮紙、1550 年頃 (17 世紀 ?)、イタリア

祈りの儀式で用いられる中世の典礼書写本は、しばしば有名な画家によって飾り文字や縁取り、様々な図像が描きこまれた豪華本であることが少なくない。そうした美しい写本は時に裁断され、美術品として鑑賞の対象とされる。2枚の零葉は、同一の時祷書から切り取られた一続きの2葉である。

「時祷書 (Horae)」とは私的な祈りのために編纂された小ぶりの祈祷書であるが、裕福な個人に所有されることが多かったため、絵本のように多数の挿絵がみられる。

聖書 (零葉) :詩篇1番~6番(ハープを弾くダヴィデ王)​

羊皮紙、13 世紀後半 (1270 年頃?)、フランス北部

聖書詩篇の第1葉で、詩篇の冒頭を飾る B は特に大きな文字で書かれ、その中にダヴィデ王がドラゴンの頭の彫刻で飾られたゴシック・ハープを弾いている姿が描かれている。その楽器をよくみると、弦や弦を巻きつけるピンがみとめられ、胴体にはサウンドホールとおぼしき穴まで描き込まれている。各篇の最初の文字も唐草文様で囲まれた大きな飾り文字で書写されている。

13 世紀にはパリを中心に、現代の語学辞典の紙を思わせるほど薄い羊皮紙を用いた聖書が多数作成されたが、この零葉の羊皮紙も他のものに比べてとても薄い。なお同じ写本に由来する零葉が、国立西洋美術館 (内藤コレクション)に所蔵されている。

聖務日課書 (第 413-414 葉: ビフォリウム) :聖人共通の聖務日課

羊皮紙、1260 年頃、パリあるいはフランス北部

中世の写本は通例、羊皮紙を二つ折りにしたものを4枚重ねにし、8葉=16 ページの冊子を複数冊綴じて作られている。「ビフォリウム( bifolium)」とは、二つ折りにされた4枚のうちの1枚 (2葉=4 ページ分)のことである。展示では2ページ分が見開きの状態になっているが、本来は二つに折られて4ページを構成していた。

中世のキリスト教社会において、毎日、決まった時刻に行われる祈りの儀式を「聖務日課(オフィキウム officium)」とよぶ。その聖務日課で唱えられるすべてのテキストを収めたものが、聖務日課書 (breviarium)である。展示のビフォリウムには、聖人に捧げられた典礼に共通の聖務日課が書写されている。各見出しは一目で分かるように赤で書かれている。また聖書朗読や祈祷文は大きな飾り文字で書き出されているのに対し、聖歌の歌詞は小さめの文字で書かれている。

聖務日課唱集 (Antiphonarium) (断片) :待降節第4主日(日曜日)のアンティフォナ« シオンで角笛を吹き Canite tuba »のイニシアル C (?)

羊皮紙、15 世紀、ドイツ語圏(北部?)

中世の写本では、章や節のはじめが一目で分かるように最初の文字が大きな飾り文字や絵入りの文字で書かれていた。そうした彩色画入りの飾り文字は美術的な価値が高いことから、その部分だけが切り取られて、鑑賞の対象とされることがよくある。角笛を吹く貴族とその横で歌う男性が描かれたこの断片も、横幅が 500 ミリを超え、2段で書かれた大きな聖務日課聖歌集から切り取られたものであると推察される。

この文字が、アルファベットのいずれの文字か定かではないが、図像と前後の聖歌から、待降節第4主日(クリスマス前の日曜日)に歌われるアンティフォナ« シオンで角笛を吹き(Canite tuba in Sion ...) » のイニシアル C であると考えられる。左側の欄外には架空の動物グリフィン(グリフォン)が描かれている。

断片の上部にはその前の週の第3週日(火曜日)の典礼で歌われるアンティフォナ « 立ち上がれ、立ち上がれ»の一部 « -cla colli tui, ca- » とその楽譜がかろうじて残されている。


【関連】貴重書ミニ展示「西洋写本零葉」の開催について【7月8日(月曜日)~7月31日(水曜日)】(鶴見大学図書館ホームページ)

【関連】国立西洋美術館「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」に鶴見大学図書館所蔵資料を貸出しています(鶴見大学図書館ホームページ)

【関連】ヨーロッパ中世写本の世界 〜鶴見大学図書館零葉コレクション (1)〜(鶴見大学図書館ブログ)

(hh)