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2017年11月

2017年11月26日 (日)

芸の力、学の楽しさ【研究室から】

土曜日(25日)の日本文学会は、近年稀なる盛り上がりでした。

旭堂南海先生の新作講談がすばらしく、名調子に茫然。

泣かせどころあり、笑いあり、次の展開に繋げて見事な切り上げでした。

次の鼎談も、江戸・上方から中国宋代に話題が広がり、知的興奮の渦。

話題の一つは、明治講談界の雄、松林伯円についてです。

終焉の地が大学構内にあることは分かっていました。

しかし旧居の細部まで判明することが発表されたのです。

ご来場くださった一般の方々、

はるばる箱根の山を越えて来られた研究者の皆さん、

新資料を教えていただいた斉藤様、

そして南海先生と延広先生に、厚く御礼申し上げます。

さて、卒業論文も終盤。

もし困ったことがあれば、その時こそ研究室を尋ねること。

閉じこもっても問題は解決されないでしょう。

と思いつつ晩秋の散策、お社の銀杏が黄金の枝を広げています。

Photo 近くに新田開発の碑がありました。

十五代将軍徳川慶喜公の揮毫です。

「源慶喜」の署名が読めますでしょうか。

Photo_2 少し遠出すれば、徳川家のご先祖有親・親氏ゆかりの古刹に辿り着きます。

読書の合間に、歴史探訪はいかが。

では、健康第一、お風邪などめしませぬように。

鶴見大学文学部日本文学科

2017年11月18日 (土)

友(下)【研究室から】

友は大学に進み、魚の研究を始める。

望んだ道であったはずだが、研究を止め食品会社に入る。

曲折の後、斬新な事業を起こした。

年商100億だか1000億だかの会社を率いているとは、風の便り。

勿論100億と1000億とでは、雲壌の差がある。

しかし、僕には共に現実味のない数字ゆえ、いずれでもかまわない。

彼は、伊勢海老や鯛ではないものを着実に育てていた。

交際範囲がとてつもなく広がったはずだから、

同級の国文学者なんぞ、とうの昔に忘れてしまったろう。

でも僕は折々、闊達な笑顔を思い出す。

彼の名は、遠藤結城と言った。Photo_2ある日、新聞を見て驚く。君の訃報。

独逸車の事故により、亡くなった。

社長室は倉庫のように飾り気なく、水槽がひとつ置いてあったらしい。

釣った魚を飼うためである。

君の夢は、今、どこにあるのか。

築かれた巨富の上か。ふるさとの川辺か。

そのどちらでもよいが、遠藤君、忘れてもらっては困る。

君は約束を果たしていないのだよ。

伊勢海老にせよ鯛にせよ、1尾もおごってくれてはいない。

いずれ僕も、そちら側へ行くだろう。

その時、精進物は嫌だ。

             ・・・・・

さて、日本文学会の催しは来週土曜(25日)です。

南海先生の講談と碩学を交えての鼎談、贅沢な催しです。

(これは自画自賛)

入場無料・予約不要、午後1時より入場可能。

会場内は飲食禁止となっておりますので、ご注意ください。

午後5時全プログラム終了予定、休憩時間を設けます。

ご都合により途中退席されても結構です。

お誘い合わせてどうぞ。

鶴見大学文学部日本文学科

2017年11月 8日 (水)

友(上)【研究室から】

落ち葉舞うこの頃、いかがおすごしでしょうか。

特別講談会が近づきました。

講談・鼎談の豪華二本立て。予約不要・入場無料です。

ご来駕をお待ちしております。

さて、馴染みの和菓子屋さんが、迫力満点の鯛を作ってくれました。

厚さ2センチ、焼き色良く、逞しく、どこかとぼけた顔つきです。

Photo_3 鯛につき、担当者には忘れがたいことがあります。

以下、風景のところどころがぼやけてしまうほど昔の話。

                 ・・・・・

釣りを楽しみとする同級生がいた。

暇を見つけては、川辺に糸を垂れていた。

大学では、高級魚介類の養殖を研究すると言う。

今でこそ、海老も鮪も養殖は珍しくない。

半世紀前の、しかも高校生の考えだから、その発想はおそろしく進んでいる。

2つの大学で入試が取りやめとなり、かなりの混乱を生じた頃である。

僕は彼より一年早く大学生となった。

そして電車を待つ秋のホーム、予備校生の彼と偶然出会う。

屈託のない笑顔で「金のない人も伊勢海老や鯛を食べてほしい」と語った。

高級食材にて一儲け、ではない。

ここから必然的に導出されるのは、彼の家が裕福ではなかった、と言うこと。

こちらも裕福の対極、より一層貧しかった。

でも、しん生ではないのだから、びんぼう自慢はしないほうがよい。

「お前にも腹一杯食わせてやるからな」「是非頼む」。

薄暮の会話で覚えているのは、これだけである。

続きは次回。

鶴見大学文学部日本文学科