メイン | 2001年10月 »

2001年7月

2001年7月 3日 (火)

2001/07/03~07/28 第92回 シンデレラ展

第92回展示
シンデレラ展
7月3日(火)~31日(火)
解説 歯学部助教授 木村利夫

92cinderella0

はじめの言葉
シンデレラ物語は、実は「民話」に属し、世界中に同じような類話が見つかる大きな物語群を形成している。細部に渡って分類がなされ、「シンデレラ・サイクル」という専門用語が存在するほどである。日本にも、類話がたくさんあるし、一番古いものとしては、中国に残されているという研究もある。

『シンデレラ』は、日本ではもっとも有名な童話のひとつで、老若男女を問わず、絶大な人気を博している。しかし、日本人が一般に見聞きするシンデレラ物語は、実はシャルル・ペロー(1628 ? 1703)の『童話集』にある『サンドリヨン』(シンデレラは英語訳であり、もともとの原文のフランス語では、<サンドリヨン=灰まみれの少女>である)に起源をもつものであることを知る人は、それほど多くはないであろう。そして、「魔法使いのおばあさん」は、名付け親の妖精であることを知る人も少ないかもしれない。

 たくさんのシンデレラ物語群の中から、どうしてペローに行き着くことになるのか、それが今回のシンデレラ展のひとつの焦点になるかもしれない。大胆な言い方をすれば、次のような流れになるのではないかと考える。『ペロー童話集』が1729年にロバート・サンバーによって英語に翻訳された。それが、瞬く間に、英国全土に広がる人気を博することになり、あたかも自国で生まれた文化の如く英国は『シンデレラ』の世界を享受することになる。そこには今回の展示で出展される、小さな小冊子本である「チャップブック」が下支えをしたと考えられる。このチャップブックが時代の変化と共に発展解消し、絵本となり、様々な玩具となったりと、多様な形で現代に繋がったものと考えられる。勿論、話しはそれほど単純ではなく、直線的ではないのだけれども、大枝を切り落としてしまえばそうした流れになるのではないだろうか。そして、最近になってからでは、やはりディズニーの映画と絵本の存在が圧倒的な影響力をもたらしたと言ってよいだろう。その功罪はともかく、『シンデレラ』はあたかも永遠不滅の物語になったように見える。

本学図書館所蔵の「シンデレラ」関係の図書その他のコレクションは、日本屈指のものである。これほどまでに体系立てて、コレクションがなされたことは驚愕に値する。是非、その目で、シンデレラ物語の歴史を作ってきた作品に触れていただきたいものである。その誕生から今日まで全く人気が衰えることがなく、多くの人に愛されてきた『シンデレラ』の世界をもう一度子供になった気分で眺めていただければ幸いである。

歯学部助教授 木村利夫

《シンデレラ展示リスト》

 1.『シンデレラのはなし、その他』(チャップブック)  1760年頃から1790年頃刊

 2.『美しき少女シンデレラの不思議な冒険、またはガラスのくつ』(チャップブック)
                           ロンドン 1790年頃刊

 3.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
T.コリアー                リチフィールド 1800年頃刊

 4.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ、子供のためのはなし』
(チャップブック)タバート        ロンドン 第14版 1804年刊

 5.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
     ハワード・アンド・エヴァンズ            ロンドン 1809年刊

 6.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
                 ロンドン:ジョン・エヴァンズ 1809年頃刊

 7.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
                            ロンドン 1816年刊

 8.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
                       J.ケンドリュー ヨーク 1820年刊

 9.『シンデレラ、または小さなガラスのくつのはなし』(チャップブック)
               コヴェントリー: N.メリデュウ 1820年頃刊

10.『シンデレラのおもしろいはなしとガラスのくつ』(チャップブック)
                   J.G.ラッシャー バンバリー  1820年頃刊

11.『シンデレラ、または小さなガラスのくつの人気のある物語のマーシャル版』
(チャップブック)        ロンドン:ジョン・マーシャル 1821年刊

12.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
              エジンバラ:オリバー・アンド・ボイド 1828年刊

13.『シンデレラのはなし、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
トーマス・リチャードソン             ダービー 1822年頃刊

14.『シンデレラのはなし』(チャップブック)J.S.パブリッシング・アンド・
ステイショナリー           オトリィ: ヨークシャー 1840年

15.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』(チャップブック)
               クーパースタウン: H.E.フィニー 1842年刊

16.『シンデレラのはなし、またはガラスのくつ』(チャップブック)
ラスゴー 1850年刊

17.『シンデレラのはなしと小さなガラスのくつ』(チャップブック)
ディーン・アンド・マンディ             ロンドン 1800年代刊

18.『シンデレラと小さなガラスのくつ』(チャップブック)
ディーン・アンド・マンディ            ロンドン 1846年頃刊

19.『シンデレラ』ラファエル・タック・アンド・サンズ   ロンドン 1905年頃刊

20.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』 ロンドン:C.ラウンデス 1804年刊

21.『シンデレラ、親指小僧と7リーグの靴』 ジョージ・クルックシャンク 画
                     ロンドン:D.ボーグ 1853 - 54年刊

22.『シンデレラとガラスのくつ』ジョージ・クルックシャンク 編・画
                       ロンドン:D.ボーグ 1854年刊

23.『シンデレラとガラスのくつ』ジョージ・クルックシャンク 編・画
                     ロンドン:G.ラウトリッジ 1860年

24.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』ジョン・ハリス
                           ロンドン 1825年頃刊

25.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』グラント・アンド・グリフィス
                           ロンドン 1850年頃刊

26.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』グリフィス・アンド・ファラン
                           ロンドン 1860年頃刊

27.『サンドリヨン、または小さなガラスのくつ』      パリ:オド 1833年刊

28.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
                ロンドン:S.アンド・J.フラー 1814年刊

29.『シンデレラ』    ハンブルグ:ガスタフ W.ザイツ 1863年から1864年頃刊

30.『シンデレラ』           ロンドン:ラファエル・タック 1912年刊

31.『パークのシンデレラ』          ロンドン:A.パーク 1800年代刊

32.『サンドリヨン』ペルラン                 パリ 1800年代刊

33.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
        ロンドン:キャセル、ピーター・アンド・ガルピン 1871年頃刊

34.『シンデレラとおとぎばなし』 ロンドン:アーネスト・ナイスター 1870年代刊

35.『シンデレラ』    ロンドン:G.ラウロリッジ・アンド・サンズ 1873年刊

36.『子供のミュージカル・シンデレラ』 G.ラウトリッジ   ロンドン 1879年刊

37.『小さなシンデレラとガラスのくつ』ディーン・アンド・サン
                           ロンドン 1880年頃刊

38.『子供たちのシンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳

39.『シンデレラ、四幕仕立ての妖精オペラ』J・ファーマー 構成、H・S・リー
   文、 ヘイウッド・サムナー 画    ハロウ:J.C.ウイルビー 1882年頃刊

40.『シンデレラ、またはガラスのくつ』 ニューヨーク: マクローリン 1890年頃刊

41.『シンデレラ』     ニューヨーク:マクローリン・ブラザーズ 出版年不詳

42.『シンデレラ』           ニューヨーク:マクローリン 1890年頃刊

43.『シンデレラ』           ニューヨーク:マクローリン 1891年頃刊

44.『シンデレラ、または小さなガラスのくつとジャックと豆の木』
  グレース・ライズ          ロンドン: J.M.デント 1894年刊

45.『3人の美しいプリンセスたち』キャロライン・パターソン 画
                  ロンドン:マクラス・ワード 1800年代刊

46.『シンデレラ』グリフィス・アンド・ファラン ロンドン:トークエイ 1900年刊

47.『シンデレラ』エイミー・ステードマン 文
                   ロンドン:D.P.デント 1900年代刊

48.『シンデレラ』       ニューヨーク:ムービー・ジェクター 1934年頃刊

49.『シンデレラ』        ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳

50.『シンデレラ、パノラマ・ブック』      ロンドン:コリンズ 1900年代刊

51.『シンデレラ、 ピープショー・ブック』ローランド・ピム 画

             ロンドン:フォールディング・ブックス 1947年頃刊

52.『シンデレラ』              ロンドン:バンクロフト 1961年刊

53.『シンデレラと二つのギフト』エドワール・ドウ・ボーモン 画
                            ロンドン 1887年刊

54.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』アリス・コーバン・ヘンダーソン 訳
  ブランチェ・フィシャー・ライト 画 シカゴ:ランド・アクナリー 1914年刊

55.『シンデレラ』C.S.エヴァンズ 再話、 アーサー・ラッカム 画
                       ロンドン:ハイネマン 1919年刊

56.『シンデレラ、ウォルト・ディズニー映画版』
ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳

《シンデレラ展観》
1.『シンデレラのはなし、その他』
1760年頃から1790年頃刊 チャップブック
18世紀に出版された貴重なチャップブック。シャルル・ペローの『ペロー童話集』から『シンデレラ』の一作品が抜粋されたチャップブックである。タイトルにあるように、後編に、『乳絞り女』という作品が付属している。ページのへりが裁断されていない「耳」つきの版(アンカット版)である。そもそも、18世紀に出版されたチャップブックは現存するものが極めて少ない。版型、紙質の粗悪さ、小口木版の挿し絵の素朴さなど、どれをとっても飾り気のないものだけに味わい深いものである。挿し絵は全部で15枚あるが、そのうち物語の展開に関係するものは半分ほどしかない。『ペロー童話集』から初めて英語に翻訳されたロバート・サンバー版(1729)には存在する「モラル=教訓」は本書には存在しないが、付属の『乳絞り女』には僅かながらも「モラル」が存在し、その名ごりを残している。

2.『美しき少女シンデレラの不思議な冒険、またはガラスのくつ』
ロンドン 1790年頃刊 チャップブック
『シンデレラ』単独の出版としては、もっとも初期のものである。タイトルページに記載されているのは、出版所在地と価格のみであり、この時期のチャップブックの典型的な形式である。口絵には本を読む少女が描かれ、本文末に置かれるはずの「モラル=教訓」に代わる内容の数行の韻文が刻まれている。チャップブックは、以前には「ペニー・ヒストリー」と呼ばれ、1ペニーほどの価格で売られる語り本、という意味であった。

3.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
T.コリアー
リチフィールド 1800年頃刊 チャップブック
アメリカで初めて出版された『シンデレラ』のチャップブックである。英語の表題はCinderillaで、『ペロー童話集』が英語に翻訳された当初の綴りとなっている。活字は、「長形のs」(fに似たs)や合字が使われ、挿し絵は素朴な小口木版が入れられている。単なる読み物としてではなく、詩、アルファベットの文字、子音と母音の組み合わせがあるなど、子供の教育を重視した作品となっている。

4.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ、子供のためのはなし』
タバート
ロンドン 第14版 1804年刊 チャップブック

19世紀に入ると、チャップブックは小ぶりのものが多くなるが、本書はその典型的な小型のサイズである。タバートは有名なチャップブックの出版者で、1804年に『タバートの子供のためのおはなし集』という本を出版した。本書は、その『おはなし集』にある『シンデレラ』と同じものであると思われる。見所は、タイトルページに集約されている。シャルル・ペローの作品を底本としていることが明示されていること、そしてこの版が第14版であると示されていることである。どちらもチャップブックには希有なことである。

5.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ハワード・アンド・エヴァンズ
ロンドン 1809年刊 チャップブック

出版者のエヴァンズは、ジョン・エヴァンズで、安価なチャップブックを多く出版した人物である。子供にとって楽しい本やベストセラーになった本の海賊版などを出版した。本書は、そのエヴァンズがハワードと組んで出版したチャップブックである。19世紀の出版であるが、挿し絵の素朴さ、紙葉の粗悪さは前世紀のチャップブックの風合いを持ち、何とも言えない風格と風情がある。1809年頃刊の未製本の異版と見比べてほしい。

6.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン:ジョン・エヴァンズ 1809年頃刊 チャップブック
ジョン・エヴァンズは、19世紀初頭、ジョン・ハリスとほぼ同じ時期にロンドンで活躍したチャップブックの出版者である。ハリスが1シリングや1シリング6ペンスと高価な本を出版したのに対して、エヴァンズは1ペンスや1ペンス半という安価なチャップブックを出版した。本書は、一枚の紙葉の表裏に印刷され、製本のための折目がつけられたものの、完成のための糸綴じがなされていない。紙葉の2折りを3回すれば、全16ページの本が出来上がる仕組みである。小口木版や紙葉の質を見ても、安価で庶民に手の届く読み物であったことがうかがい知れる。

7.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン 1816年刊 チャップブック
出版者不明のチャップブックであるが、チャップブックの世界ではよくあることである。裏表紙を見ると、シリーズで多くの作品を出版していたことがうかがえる。優麗な4枚の銅版画が異彩を放っている。

8.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
J.ケンドリュー
ヨーク 1820年刊 チャップブック
イングランド北東部にあるヨークで出版されたチャップブック。英語の表題にはCinderella ではなく一字異なるCinderillaの綴りを用いている。この表記は、シンデレラ物語の起源となるフランスの『ペロー童話集』が英語に翻訳された際に使われたものである。実は、ケンドリューのチャップブックは、ジョン・エヴァンズのチャップブックを模倣したことで有名である。本書も同様で、1ページ8行の韻文が同じで、挿し絵は異なる版であるもののほとんど同じ構図の挿し絵となっている。この二つの作品を見比べてほしい。

9.『シンデレラ、または小さなガラスのくつのはなし』
コヴェントリー: N.メリデュウ 1820年頃刊 チャップブック
1820年頃の出版にも関わらず、「長形のs」(fに似たs)、つなぎ語(catchword、または補語とも言い、次のページの初語あるいはその一部が、前のページの下部に示されている)が使われている。長形のsはおおよそ1800年を境にして使われなくなった文字である。また、本書は、折記号(本文7ページの場合はA4)も印刷されている。どれもこの時期のチャップブックにしては極めて希有なことである。

10.『シンデレラのおもしろいはなしとガラスのくつ』
J.G.ラッシャー
バンバリー 1820年頃刊 チャップブック
オックスフォード州のバンバリーのJ.G.バンバリー版のチャップブックである。父親のウイリアム・ラッシャーの出版業を引き継ぎ、「子供のための半ペニーと1ペニー本」のシリーズなどで子供向けのチャップブックを多く出版した。本書は、1820年頃に16作品のシリーズで出版された中のひとつで、幾分色のついたシュガー・ペーパーに印刷されている。小口木版の挿し絵の一枚には、ラッシャーのイニシャルである「J.G.」が刻まれている。
また、もう1冊は同じチャップブックながら、未製本のものである。表裏に印刷された紙葉の状態のものである。2折りを3回繰り返すことで、全16ページの本に出来上がるが、このチャップブックにはその際の折り目があり、「折丁」には綴じ糸を通した穴が数箇所あいている。本の版型を知る上でも貴重な資料である。

11.『シンデレラ、または小さなガラスのくつの人気のある物語のマーシャル版』
ロンドン:ジョン・マーシャル 1821年刊 チャップブック
「マーシャル版」として有名なチャップブックである。英語の表題はCinderellaではなく、Cinderillaを使用しているので、『ペロー童話集』を基底としていることがわかる。しかし、やはり「モラル=教訓」はなく、活字の大きさ、手彩色による挿し絵などを見ると、まさに見て、読んで楽しいチャップブックであり、そこにはもはや「モラル」の入り込む余地はまったくない。非常に繊細で、かつ現代的なものである。

12.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
エジンバラ:オリバー・アンド・ボイド 1828年刊 チャップブック
スコットランドのエジンバラで出版された、やや大型のチャップブックである。挿し絵の持つ独特の雰囲気もさながら、本文も入念に吟味したものとなっている。まさに本文の冒頭の「『シンデレラ』は子供の読者にとって教育的で、娯楽性に富む物語である」と始まる出だしは非常に珍しいものである。実際、立派な文章で、格式あるチャップブックとなっている。この本文と挿し絵をもとに、クーパースタウンのH.E.フィニーが1842年に出版したチャップブックがあるので、是非見比べてほしい。

13.『シンデレラのはなし、または小さなガラスのくつ』
トーマス・リチャードソン
ダービー 1822年頃刊 チャップブック
ダービー州のダービーで出版されたチャップブック。英語の表題”The History of Cinderella”のHistoryは「ものがたり、おはなし」の意味で、少し古い言い方である。本書の面白い点は、口絵の下に、本文の文章が一部そのまま載せられているところである。

14.『シンデレラのはなし』
J.S.パブリッシング・アンド・ステイショナリー
オトリィ: ヨークシャー 1840年刊 チャップブック
本来は1冊ずつばら売りにされた、全16冊のシリーズをひとつにまとめたものである。『シンデレラ』は巻頭を飾る作品で、4行か6行の韻文の形式をとっているが、他の作品は、表紙のデザインが同じなだけで、文字の大きさ、挿し絵の入り方、散文あり韻文ありと、それぞれの作品によって異なっている。

15.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
クーパースタウン: H.E.フィニー 1842年刊 チャップブック
口絵には絵の代わりにアルファベット、数字、記号が並べられ、子供の教育の目的にも利用されたものと思われる。しかし、本文の活字はとても小さく、整然と並んだ活字同様、物語の進行も、ほとんど省略されることなく忠実に『ペロー童話集』に従っている。ところが、これには事情がある。実は、エジンバラのオリバー・アンド・ボイド(1825)が出版したチャップブックを焼き直したものなのである。本文はそのままに、活字を小さくして、挿し絵は中心部分のみを印刷して全体の小型化をはかったものである。チャップブックの世界ではよくあることで、版権を無視したり、時には物語りの内容とは全く無関係の挿し絵を使ったり、同じ挿し絵が何度も使いまわしをされることが少なくなかった。もっとも、そのあたりがチャップブックの大きな魅力の一つとなっていることは言うまでもない。

16.『シンデレラのはなし、またはガラスのくつ』
グラスゴー 1850年刊 チャップブック
チャップブックはイングランド以外でも各地で出版されたが、本書はスコットランドのグラスゴーで出版されたものである。紙葉がとても薄いために裏ページに印刷された活字が透けて見えるほどである。本書の最大の特徴は、挿し絵が一枚も存在していない点である。挿し絵と本文のセットの形式がチャップブックの典型とすれば、そこから逸脱した希有な存在と言える。

17.『シンデレラのはなしと小さなガラスのくつ』
ディーン・アンド・マンディ
ロンドン 1800年代刊 チャップブック
ディーン・アンド・マンディの出版ながら、その代理業者であるA.K.ニューマンも関わったチャップブックである。当時は、子供向けの本に関しては、業者間の協力が頻繁に行われていた。また、英語の表題は非常に珍しいもので、「ガラスのくつ」が”Glass Slippers”と複数形で表示されている。一般に、「ガラスのくつ」は舞踏会の帰りにシンデレラが落としてしまう片方のくつを象徴し、単数形で表示されるのが慣例であるが、この版では意識的に複数形を採用した模様である。

18.『シンデレラと小さなガラスのくつ』
ディーン・アンド・マンディ
ロンドン 1846年頃刊 チャップブック
ディーン・アンド・マンディのもと、非常に優雅な作品が多く出版されたが、本書は『シンデレラ』の新編集版である。その「優雅な」という形容詞には理由がある。実は、子供の読者にふさわしい読み物となるように、女性が編集をし直したものなのである。本書は珍しい構成で、36ページの本文には挿し絵が一枚もない。ところが本文末に、一枚の紙葉を蛇腹に折り畳んで、挿し絵をまとめてしまっている。本文は文章だけとなるため、パラグラフを小さい単位にして余白を多くとり、読みやすいように工夫が施されている。

19.『シンデレラ』
ラファエル・タック・アンド・サンズ
ロンドン 1905年頃刊
本書は、その大きさと装丁から一見チャップブックに思われるが、出版年やその内容からチャップブックの範疇には入らない。勿論、チャップブックに似せて作られたものであるが、人形劇の玩具としても使えるトイ・ブックの分類に属する作品である。「タックお父さんの“パノラマ”シリーズ」の一作品で、全4ページの本文の後には、5ページ分の紙人形があり、その人形を立てるスタンドとなる緑色の台紙が揃っている珍しい逸品である。

20.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン:C.ラウンデス 1804年刊
19世紀初頭においても『シンデレラ』の人気が相当に高いものであったことを示す格好の実例で、本書は2幕もののパントマイム劇の台本となっている。台詞は韻文で、登場人物は天井界の神々と、地上界の王子やシンデレラなどである。

21.『シンデレラ、親指小僧と7リーグの靴』
ジョージ・クルックシャンク 画
ロンドン:D.ボーグ 1853 - 54年刊
英国の有名な風刺画家・挿し絵画家であるジョージ・クルックシャンク(1792 - 1878)の銅版画である。ディケンズやサッカリーの作品の挿し絵はよく知られており、『グリム童話』の挿し絵は傑作と言われている。本書は、クルックシャンク自身が編集した4冊からなる「フェアリー・ライブラリー」のうちの2冊、『シンデレラ』と『親指小僧と7リーグの靴』の挿し絵のプルーフ(試験刷り)を纏めたもので、非常に貴重な作品集である。「インディア・ペーパー」に刷られ、丈夫な「カートリッジ紙」の紙葉の糊で全面貼付にマウント(裏打ち)されている。

22.『シンデレラとガラスのくつ』
ジョージ・クルックシャンク 編・画
ロンドン:D.ボーグ 1854年刊
G.クルックシャンクが本文の編集と挿し絵を手掛けた「フェアリー・ライブラリー」(全4巻)の一作。挿し絵のエッチングは見事である。口絵のシンデレラと名付け親の妖精が暖炉に座る場面は、頻繁に引用される傑作である。

23.『シンデレラとガラスのくつ』
ジョージ・クルックシャンク 編・画
ロンドン:G.ラウトリッジ 1860年刊
G.クルックシャンクの編集と挿し絵による『シンデレラ』の異版である。本書は、上等紙に印刷されており、タイトル・ページにはクルックシャンクの肉筆で “To Caroline, Mr Murdo, with the best regards of George Cruikshank. July 5th. 1877”と書かれている。

92_23image5pu_2

24.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ジョン・ハリス
ロンドン 1825年頃刊
ジョン・ハリスが出版した有名な『シンデレラ』。出版の所在地、セント・ポール・チャーチヤードは、子供の本にとっては最も記念すべき場所で、英国児童書の父と呼ばれるジョン・ニューベリー(? ? 1767)が創業地として選んだ場所である。ジョン・ハリスはニューベリーの後継者で、チャップブックとは明らかに一線を画した気品ある高価な作品を手掛けた。グラント・アンド・グリフィス版(c.1850)、グリフィス・アンド・ファラン版(c.1860)、そしてパリで出版された『サンドリヨン、または小さなガラスのくつ』(1833)と見比べてほしい。

25.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
グラント・アンド・グリフィス
ロンドン 1850年頃刊
ジョン・ハリスの後継者グラント・アンド・グリフィスが、ハリス版(c1825)と同じ挿し絵と本文を使用して出版した本。1ページ、6行からなる韻文の脚韻もaabccbと正確に踏んでいる。ハリス版とは活字の組み方が異なり、出来るだけ6行でおさまるように新しく組み直したものである。この出版は、その後、グリフィス・アンド・ファランに継承されることになる。

26.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
グリフィス・アンド・ファラン
ロンドン 1860年頃刊
セント・ポール・チャーチヤードで始まったジョン・ニューベリーの出版社はジョン・ハリス、グラント・アンド・グリフィス、そしてグリフィス・アンド・ファランへと引き継がれることになった。本書のタイトルページにもニューベリー直系の出版者であることが明記されている。老舗の風格を有する出版物で、布地張りの紙葉に印刷されている。グリフィス・アンド・ファランは、その後、当地を離れ、チャリング・クロス・ロードに移り、「ニューベリー・ハウス」と冠し、Griffith Farran & Coの名で出版を続けることになる。

27.『サンドリヨン、または小さなガラスのくつ』
パリ:オド 1833年刊
本書の最大の特徴は、その挿し絵にある。本文はフランス語の散文の物語であるが、挿し絵は1825年頃にジョン・ハリスが出版した『シンデレラ』と全く同じ挿し絵が使われているのである。是非、二つの本を見比べてほしいものである。

28.『シンデレラ、
または小さなガラスのくつ』
ロンドン:S.アンド・J.フラー 1814年刊
有名なフラーの紙人形(ペーパー・ドール)が一緒になった『シンデレラ』である。ステッチが施されたしっかりとしたスリップ・ケースに、テキストが収まり、奇麗な紙人形が付随した貴重本である。紙人形は手彩色によるもので、極めて手の込んだ繊細優雅な出来栄えである。紙人形を手にしながら、韻文の物語を読み進めることになるが、美術品としての価値を同時に併せ持つ芸術品である。本書は、フラーがペーパー・ドールとして出版した最後のものであり、その神髄を極めた感がある。

92_28image6pk_2


29.『シンデレラ』
ハンブルグ:ガスタフ W.ザイツ 1863年から1864年頃刊
1863年から1864年頃に制作されたと推定される初期のシェイプブックである。シェイプブックは、クリスマスのプレゼントとして子供の靴下に忍ばせることが出来るように作られた「人形を型どった本」で、暖炉のそばにプレゼントを入れてもらうために子供が靴下を吊るという習慣の実例としては大変古いものである。本書は、ルイス・ブラッグ社のシェイプブックに似せて作られたものである。

30.『シンデレラ』
ロンドン:ラファエル・タック 1912年刊
シンデレラの頭部を半円に型どったシェイプブックである。クリスマスのプレゼント用に、靴下に入れることが出来るように作られている本である。本文の内容は、シンデレラが可愛がる鳥がドレスと靴を持って来てくれるなど、大きな改作が見られる。

31.『パークのシンデレラ』
ロンドン:A.パーク 1800年代刊
ロンドンのパーク出版が出した絵本。表紙もハードカバーではなく、薄手の紙葉からなる絵本である。挿し絵の手彩色も必要最小限の色付けであるが、これは価格を押さえるためのものと思われる。

32.『サンドリヨン』
パリ: ペルラン 1800年代刊
いかにもフランスで出版されたことを感じさせる絵本である。挿し絵が紙面の大半を占め、その下に4行か5行の文が加えられている。すべてのページが手彩色による挿し絵で、その鮮やかな色彩が印象的である。展示された右ページの本文2行目にf?e とある通り、杖を持ったmarraine(名付け親=godmother)は、妖精である。

33.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン:キャセル、ピーター・アンド・ガルピン 1871年頃刊
ロンドンのキャセルが出版した絵本である。粗雑な手彩色ながら、絵本の挿し絵としての機能は十分に果たしている。本書は、「キャセルの妖精物語本」のシリーズに属し、価格は6ペンスで、布地張りは倍の1シリングとなっている。

34.『シンデレラとおとぎばなし』
ロンドン:アーネスト・ナイスター 1870年代刊
『シンデレラ』を巻頭に、計16作品の物語を集めた大判のリトルドものである。19世紀後半になると、今日にも通じるまさに現代的な絵本の原型が生まれることになるが、本書もその1冊である。

35.『シンデレラ』
ロンドン:G.ラウロリッジ・アンド・サンズ 1873年刊
有名なウォルター・クレインの手になる絵本で、新シリーズの「ウォルター・クレインズ・トイ・ブックス」の中の1冊である。遠近法、床の市松模様は伝統様式であり、女性の「つけボクロ」や洋服などのファッション、舞踏会に集まった様々な人種の人たちなど、その全体が見事に調和している。また、この絵に加え、各ページ10行からなる文章は、2行(カプレット)ごとにきちんと脚韻が踏まれている。また、本書と同じ挿し絵を用いて、ミュージカル絵本にした異版があるので、二つを見比べてほしい。

36.『子供のミュージカル・シンデレラ』
G.ラウトリッジ
ロンドン 1879年刊
有名なウォルター・クレインの画によるミュージカル絵本である。クレインの絵に、文章と曲(楽譜)をつけたものである。チューリンゲン(ドイツ)の民謡やメンデルスゾーンの有名な結婚行進曲などの楽譜も入っている。子供が客間やコンサートで演奏し、楽しめるように工夫された絵本である。

37.『小さなシンデレラとガラスのくつ』
ディーン・アンド・サン
ロンドン 1880年頃刊
ロンドンの有名なディーン・アンド・サンが出版した絵本。紙葉は裏に布地が貼られたリネン版で、単なる紙葉よりも耐久性に富む。一枚の紙葉に印刷し、見開き一対の紙葉を重ねて、それを2折りにした装丁であるため、本編を見開きにすると前半は左側に印刷面が、後半は右側に印刷面が来ることになる。

38.『子供たちのシンデレラ、または小さなガラスのくつ』
ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳
ディーン・アンド・サンは様々なトイ・ブックを出版しているが、本書は「ディーンのお気に入りのおとぎばなしシリーズ」の一作になる。裏表紙には、カラーの図版入りの絵本が1冊6ペンスと記載されている。

39.『シンデレラ、四幕仕立ての妖精オペラ』
ジョン・ファーマー 構成、 ヘンリー・S・リー 文、 ヘイウッド・サムナー 画
ハロウ:J.C.ウイルビー 1882年頃刊
ロンドン北西部にあるハロウで出版された4幕からなるオペラ仕立ての物語である。韻文のコーラスや歌に、シンデレラや王子の散文の台詞が織り込まれていくが、内容はオーソドックスな物語ではなく、自由な展開が見られる。

40.『シンデレラ、またはガラスのくつ』
ニューヨーク: マクローリン 1890年頃刊
明らかに子供の読者を対象とした絵本である。リトグラフによる挿し絵は、大きくてカラフルで、見開きの中央の紙葉は両ページを一枚の挿し絵として用い、大胆な構図をとっている。

41.『シンデレラ』
ニューヨーク:マクローリン・ブラザーズ 出版年不詳
ニューヨークのマクローリン・ブラザーズが出版したファミリー・ムーンビーム・シリーズの一作。全ページがカラー印刷で、ハードカバーの立派な現代的な絵本である。価格は1冊5セント。同じシリーズには、『親指小僧』や『アラジン』などがある。

42.『シンデレラ』
ニューヨーク:マクローリン 1890年頃刊
アメリカのマクローリンが出版した仕掛け図版入りの書物で、『アラジン』や『長ぐつをはいた猫』などのシリーズもののひとつ。図版の前後には韻文と散文の物語があるが、本書の見所は、やはり仕掛けの図版である。物語の進行に合わせてページを捲ることになるが、そのページのサイズにも工夫がなされていて、全13からなる場面はどれも実に楽しいものである。

92_42image08q_2


43.『シンデレラ』
ニューヨーク:マクローリン 1891年頃刊
プロセニアムのアーチ型という独特の版型をした「パントマイム・トイ・ブック」の絵本。アーチ型の幕が全体を覆うようになった前舞台の構図をとっている。表紙はオーケストラ・ピットと幕が下りた舞台で、観音開きのページを捲ると舞台上で歌い踊るミュージカルが展開されることになる。

44.『シンデレラ、または小さなガラスのくつとジャックと豆の木』
グレース・ライズ
ロンドン: J.M.デント 1894年刊
ライズは本書の序文で、「昔は、そう、おばあちゃんたちの時代は、今ほど本も本屋も多くはなく、行商人が携えてくる物語本を心待ちにしていたものだった。」と、チャップブックに言及している。19世紀後半ともなると、チャップブックは全く過去の遺物となり、人気の高い『シンデレラ』といえどもチャップブックの形では出版されなくなった。本書も小型のサイズではあるが、ハードカバーで、挿し絵も洗練された上品な出来上がりとなった立派な本となっている。

45.『3人の美しいプリンセスたち』
キャロライン・パターソン 画
ロンドン:マクラス・ワード 1800年代刊
表題が示すように、プリンセスとなった美女3人が主人公となる物語である。タイトルページの次のページには、エリザ・ケアリーの16行の詩が添えられている。シンデレラについては、「金髪の美しいシンデレラ、その小さくて上品な足は、あの有名なくつとぴったりでした」とある。

46.『シンデレラ』
グリフィス・アンド・ファラン
ロンドン:トークエイ 1900年刊
セント・ポール・チャーチヤードで、グリフィス・アンド・ファランが出版した子供のための韻文劇の本である。ト書きも記された、全4場からなる劇で、第2場と第3場の間には間奏曲の楽譜が入れられている。

47.『シンデレラ』
エイミー・ステードマン 文
ロンドン:D.P.デント 1900年代刊
エイミー・ステードマンの再話によるテキストが1冊あり、それにペギー・パックストンが制作した8体のストーリー・フォーク(Story-Folk)人形が付随した作品である。人形は、厚手の紙製の切抜き絵に台紙がついているので、立たせることが出来る。デザインと色彩がよく調和した実に美しく、愛らしい紙人形である。

48.『シンデレラ』
ニューヨーク:ムービー・ジェクター 1934年頃刊
アメリカ、ムービー・ジェクター製の一枚もののロール・フィルムである。シリーズ番号105番。木製の巻軸に幅10センチほどのフィルムが巻き付いている。操作方法は不明であるが、上下に並列した形で図版が並んでいる。その上下の図版はほとんど同じであるが、部分的に異なる個所があり、その微妙な差異の動きを楽しんだものと思われる。

49.『シンデレラ』
ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳
ロンドンで、子供向けの絵本を多く出版したディーン・アンド・サンが出したポップ・アップの仕掛け本。同社は、トイ・ブックに、初めて耐久性に富むホランド製本の印刷を考案したことでも知られている。本書はシリーズものの第4作目にあたる。ポップ・アップする図版の前後に文章があり、ポップ・アップは舞踏会から走り去るシンデレラの後ろ姿と彼女を追いかける王子という場面の1場面のみであるが、豪華な出来栄えになっている。

50.『シンデレラ、パノラマ・ブック』
ロンドン:コリンズ 1900年代刊
パノラマ、回転画の仕掛け本で、本を捲ると次々に6つの場面の仕掛け絵が登場する。これには、別冊の挿し絵入りのテキストがついていて、その物語の進行に合わせて楽しむことが出来るものである。立体的で、奥行きのある世界は小宇宙を形成し、見る人の心を捉えて放さない。

92_50image92f_2


51.『シンデレラ、 ピープショー・ブック』
ローランド・ピム 画
ロンドン:フォールディング・ブックス 1947年頃刊
パノラマ、回転画の仕掛け本。ページを捲ると、6つの場面が立体的に現れる。各場面には、6行の物語文がついていて、物語を読みながら、立体的な空間を覗き見る子供とそして大人の姿が思い浮かばれる。三次元の立体映画を観る感覚である。

52.『シンデレラ』
ロンドン:バンクロフト 1961年刊
本を開くと、絵が飛び出してくるポップ・アップ仕掛け本である。発売当時のビニール袋も揃っている。その宣伝文句には、「面白くて! ためになる!」とキャッチ・コピーが加えられている。本書は、そのうたい文句を裏切ることのない素晴らしい出来栄えで、全8場面からなるポップ・アップと書物の形となった物語文が見開きでパッと出現する。人気は相当なもので、他にも『赤ずきん』、『白雪姫』などたくさんの作品が出版された。

92_52imagepmj


53
『シンデレラと二つのギフト』
エドワール・ドウ・ボーモン 画
ロンドン 1887年刊
エドワール・ドウ・ボーモンが、シャルル・ペローの『サンドリヨン』を題材に描いた33枚からなる水彩画集である。紙葉は豪華なモロッコ紙が使われている。散文の物語の進行に合わせ、美しく、繊細で、軽やかな世界が描写されている。

92_53imagefhm


54.『シンデレラ、または小さなガラスのくつ』
アリス・コーバン・ヘンダーソン 訳
ブランチェ・フィシャー・ライト 画
シカゴ:ランド・アクナリー 1914年刊
本書は、現代的な絵本の形式をすっかり備えたものである。特徴は、本文を6つのパートに分けて、それぞれに小題を付けて、子供の興味をそそるように工夫されている点である。そして、最大の特徴は、本文末に、「モラル=教訓」が付け加えられている点である。本文は、「翻訳」されたものと改めて明記されているが、伝統的な『ペロー童話集』に準拠するものである。

55.『シンデレラ』
C.S.エヴァンズ 再話、 アーサー・ラッカム 画
ロンドン:ハイネマン 1919年刊
C.S.エヴァンズの物語文に、アーサー・ラッカム(1867-1939)が挿し絵を入れた本。ラッカムは、英国の有名な挿し絵画家で、『グリム童話集』(1900)、『マザーグース、なつかしい童話』(1913)など約90冊の挿し絵を描いた。本書の『シンデレラ』の豪華版は、初版850部の限定版である。850部のうち、525部は英国の手刷り紙葉を用い、残り325部は局紙(Japanese vellum)を用いたものである。本書は前者に属し、ラッカムの署名と出版ナンバーの847が自筆で書かれている。影絵(シルエット)のスタイルをとっているが、基本の黒色の他に多色刷りもあり、どれもが見る者の感性を刺激するものばかりである。

56.『シンデレラ、ウォルト・ディズニー映画版』
ロンドン:ディーン・アンド・サン 出版年不詳
言わずと知れたディズニーによるアニメーションのフルカラーの絵本である。映画版ということもあり、ページを捲るとあの美しい音楽と映像が蘇ってくる。今日でも日本語訳のディズニー版 が入手可能である。こうした本や映画を通して『シンデレラ』の世界に入り込み、すっかり魅了された人も少なくないであろう。物語の基本は、やはり『ペロー童話集』にあるが、上映時間の制約などもあってか割愛されたところがあり、これがまたひとつの特徴となっている。

                       (解説 歯学部助教授 木村利夫)