講演会・ギャラリートークが終了しました
10月5日土曜日、第153回貴重書展の講演会・ギャラリートークが開催されました。
たくさんの方にお越しいただきました事を御礼申し上げます。
当日は西間木真氏・菅野素子氏による講演及び附属中学校高等学校アンサンブルクレイン部による合唱も行われ、大いに盛り上がりました。
講演会の風景をご紹介します。
学長挨拶に続き、西間木真氏(東京藝術大学音楽学部准教授)の「羊皮紙片に記された祈りの歌~鶴見大学図書館新収貴重資料から~」が始まりました。
画面に映しだされる羊皮紙はとても美しく、さらに今回展示している本学所蔵零葉と、慶応義塾大学図書館所蔵零葉、国立西洋美術館所蔵零葉が同じ本から切り取られた姉妹葉である事が発表されました。
手書きの文字から当時の人々の熱い思いが伝わってくるかのようです。
今後の研究が楽しみです。
ここで、アンサンブルクレイン部による展示資料のネウマ譜を実際に歌い上げてもらいました。
数百年前に歌われていたであろうミサ曲がホール内に響き渡りました。
とても優しい旋律、美しい歌声に聴き入りました。
休憩時間には動物の姿の形をした羊皮紙を実際に触る事もできました。参加者のみなさんも初めて触る方も多く、質問は尽きませんでした。
続いて、菅野素子氏(本学文学部准教授)の「英語の詩集にみるヨーロッパとその伝統」です。
印刷技術が発明された頃は、いかに手書き写本に近い形で印刷できるかが追及されており、初期印刷本は写本にならって各章の最初を赤字で印刷していました。印刷本は写本のコピーであるにもかかわらず、写本になろうとしていました。
英国の旅先での現代の活版印刷を見学した時の実際に活字を組んでいる工房の様子も紹介されました。
写本からはじまり印刷本が登場するころに出版されたイギリス文学の有名な本として、『アーサー王の死』があります。
今回展示されているトマス・マロリー著『アーサー王の死』は、世界三大美書を印刷したアッシェンデンプレス刊行で、各章の最初を赤と空色を交互に使用してリズム感を出しており、すっきりとした活字が印象的です。
英国の詩は、その文学的な伝統と理想をギリシア・ローマの古典文学に求めつつ、英語の詩としての独自性も追求してきました。そして、それらは写本ではなく、印刷本として流布しました。ミルトン『失楽園』、アレクサンダー・ポープ『髪盗人』~ワーズワース『序曲』、バイロン『ドン・ジュアン』~ロバート・ブラウニング~ケルムスコットプレス等たくさんの詩が解説されました。
今回展示した詩集の多くは、写本ではなく、印刷本として流布しました。けれども、19世紀後半のケルムズコット・プレスのように、中世の写本に理想を見出す印刷所も登場して、「美しい」書物の基準を中世に求める動きは続きました。
そして再びアンサンブルクレイン部の登場です。今度は『The Honour of a London Prentice 』『Auld Lang Syne』の2曲を披露しました。前者は展示中のトマス・リットスン編『イギリス歌謡選集』に収録されたもので、日本では歌われたことがないであろうイギリスの古いバラッド(おそらく16世紀)です。後者はロバート・バーンズ作のスコットランド民謡ですが、今では忘れられた「蛍の光」原曲です。この「埋もれた」民謡を再現するため、部員の皆さんは18世紀の古い譜面で練習して歌ってくれました!普段、アンサンブルクレイン部は英語の歌詞を歌うことがなく、とても緊張したようです。でもたくさん練習した甲斐があり、素晴らしい歌声となりました。
観客席からはアンコール!の声も上がり、普段発声練習で行っている「あくび」も披露!こちらはあまりにも可愛らしく、先の2曲とはまた違った魅力でした!
この後のギャラリートークでは、展示資料を前に質問や感想が寄せられました。
西間木先生、菅野先生、アンサンブルクレイン部のみなさん、ありがとうございました。
(kt)