天神の本地
2011/02/21
「まず咲く」が転じたかといわれるマンサク、「花の兄」とよばれる梅花を始めとして、花々が次々に咲きほこる頃が近づいています。
梅といえば、こんな歌を知っていますか。
東風(こち)吹かばにほひおこせよ梅の花
あるじなしとて春を忘るな
『大鏡』「左大臣時平」より
学識高く、天皇に重んじられた菅原道真が、讒言(ざんげん)によって太宰府に流されるときに詠んだ歌。この菅丞相の伝説は『天神記』、『天神本地』他の題名で知られています。日本のあちこちに「~天神社」、「~天満宮」がまつられ、歌舞伎、文楽では『菅原伝授手習鑑』という演目が親しまれています。
かんせうしやうおほしめしけるは
かゝる心なきさうもくさへわれを
したひしに中々人はつらかり
しといとゝうらめしくそおほえ
させ給ひける われは人のざんげん
によつてかゝるをんるの身となる
こそむねんなれ とがなきことを
ぼんでんにいのりたてまつらんと
おもひたつ日を吉日とてその日
物をとめてさいもんをかいてたて
御へいをはさみて山にのほりい
はほのたかきところにたちなをり
ほんでんたいしやくにずいきのなみた
をながし日かずををくりきねん
していのり給ふ ふしきやな あまの…
(鶴見大学図書館蔵『天神の本地』巻首)
昔の人が筆を執って書いた本を読んでみましょう。教わる先生がなく、模範解答のない勉強に取り組むときは、何か比べるものを探して参考にします。自分がわかっていることと、そうでないことを区別します。完全に解けなくてもがまんし、ときどき思い出して考えます。誰かにヒントをもらって答えを急ぐと、それは真剣勝負からおりたことになります。学問では甘えてはなりません。それから何より、ぜひ解きたい課題を選ぶことです。
上の写真は写本ですが、版本『天神本地 上』を、WEB上に公開されている「古典籍総合データベース」(早稲田大学図書館)で読むことができます。巻末の見開きには、写真の奈良絵本に似た場面が記されています。近松門左衛門『天神記』も載っています。国文学研究資料館の「日本古典籍総合目録」を検索すると、古い本の種類や多寡、複製やテキストの有無を知る上で参考になります。
古い本に関心を寄せ、自分で読む。たやすいことではありませんが、古典文学を学ぶときに身につけたい態度です。書道の好きな方は、このような本の画像をWEB上にみつけて読んでみてはいかがでしょうか。◇年前に古文の授業で読んだ一節が思い起こされるかもしれません。歌舞伎、文楽の好きな方であれば、変体がなを習っていなくてもすらすら読める部分に出会うかもしれません。勉強の入り口はさまざまです。
鶴見では、光も風もやや春めいてきました。