最近入った資料に「古今和歌集」があります。この古今和歌集は室町時代後期(おおよそ15世紀終わりから16世紀の前半)に筆写された周興筆と言われるものです。周興は彦竜周興のことで、室町時代に五山文学の詩文をよくした僧侶です。
この資料、なかなか値が張るのですが、それというのも、このような平安文学で室町時代写のものは、なかなか市場に出回らないとのこと。
それ以外にも珍しい点がいくつかあります。ふたつの奥書があること。奥書とは、本の来歴などを記録したものを指し、この資料で言えば、藤原定家と頓阿の奥書があることから、定家がまず写し、それを頓阿が写し、そしてこの周興がさらにそれを写した、と目されるわけです。
そしてもうひとつ珍しいことは、この資料が周興の筆によるという鑑定結果として、極書と呼ばれるものがある点です。鑑定がなされている資料自体は、この手の資料に関してはさして珍しくないのですが、通常は、極札と呼ばれる紙片がついているだけであり、この資料のように極書があるものはかなり珍しいのです。
これが極書です。古筆了佐と書いてありますが、この鑑定家は有名な家系。1634年に鑑定が行われていることが記されているので、この資料がそれ以前のものであることがわかると同時に、古筆鑑定の研究材料としても役立ちます。
(K.I.)
彦竜周興について、研究者の方から「漢詩文のことはよく知られておりますが、和歌事跡は知られておらず、同時代を生きた別人だと思われます。」との指摘をいただきました。誤りであることを確認して、本文を訂正いたしました。
今後は、Webサイトによる情報発信に際しては、事実確認を怠ることのないよう配慮いたします。
2009年10月6日 鶴見大学図書館